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きゃんぷ、にじゅうに
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絹糸のように柔らかい白一色の髪は濡れていつものようにふんわりと膨らまず、白磁の人形と見紛う肌に張り付き、幼い彼に似合わない艶やかさを演出している。
「……なぁに? ポチ、じっと見て」
「…………俺、ドール持ってたんですよ。ラブじゃないですよ、手のひらに乗るような十万くらいのやつ。なんでそんな高いもん買えたのかは覚えてないんですけど」
「急に何の話?」
「そのドール、白髪で赤目だったんです。ぺたっとした長い髪で……ユキ様、そっくりだなーって」
ガラス玉には再現出来ない生命の美しさを宿した赤紫の瞳が俺だけを見つめている。人形に似ているなんて言ったせいで触れた時に柔らかいのか硬いのか想像出来なくなってしまった唇が楽しげに歪む。
「僕は人間だよ」
「知ってますよ」
褐色肌の大きな手が白い小さな手に掴まれて、同じく白い小さな胸に押し付けられる。とく、とく……と確かな鼓動が伝わってくる。
「僕は、生きてる」
「……知ってますよ?」
「本当に? ポチ、さっき泣きそうな顔してたよ」
胸に触れさせられた手で雪兎の二の腕を掴み、引き寄せ、抱き締める。
「お風呂から出たらたっぷりお仕置きしてくださいね。それが楽しみでちょっと目が潤んじゃったんじゃないですか」
「ならいいけど」
胸に耳を押し当てて鼓動を確かめ、生存確認をしていたと悟られないよう舌を這わせた。
「わっ……!? もう! やめてよ! 途中だったんだからちゃんと泡流せてるか分かんないよ? もぉ……そんなに我慢できないならそろそろ出よっか」
脱衣所に出てバスローブを羽織り、すぐに雪兎の方へ振り返ると化粧水のボトルを渡された。昨晩雪風と共有で使っていたものだ。
「ポチ、僕のスキンケアしてくれる? ポチも僕の肌は綺麗な方がいいでしょ」
「させていただきます。でも、これじゃご褒美ですよ?」
「何言ってるの。それ塗るだけなのにどうしてご褒美になるの? ご褒美だって思えるような変な触り方しならお仕置きが酷くなるんだから、しないよね?」
化粧水を左手に溜め、右手に馴染ませ、生まれたままの姿で俺の前に立つ雪兎の首を撫でる。産毛ではないが髪と言うには弱々しい、そんな毛が生えているうなじを摩り、親指で動脈を探すように化粧水を塗り込んでいく。
「ポチ、わざと首絞めるみたいにしてるの?」
「俺の忠誠心を示してるんです。こんな細くて綺麗な首、絞めたり折ったりしたくなって当然なのに、俺はそんな気少しも起こさずにスキンケアをしている……分かってくれますよね、俺の忠誠心」
赤紫の瞳はまんまるに見開かれている。きょとんだとか、ポカンだとか、そんな擬態語が似合う表情だ。
「……当然の前提がおかしいかなぁ。普通の人は細い首見ても絞めたり折ったりしたくならないよ」
「え……そ、そうですか」
風邪を引いてはいけない、早く首以外にも化粧水を塗ってしまわなければ。まずは肩だ、小さくて薄くて心配になってしまう。
「ユキ様に会うまで人の肩がこんなふうにしっかり掴めるとは思いませんでしたよ」
小さな背中に塗り広げ、時折に化粧水を足したりしながら腕や足の方も塗っていく。
「スキンケアするなら俺とすぐにヤる予定がない時にして欲しいですね、俺が舐めても大丈夫なヤツならいいんですけど」
「人の体をべろべろ舐めないでよね」
爪先まで塗り終えると雪兎は新しい服に着替えた。今日のために買っていた服らしく見覚えは無いが、短パンの素晴らしさはよく分かる。
「生太腿ぉっ!」
浴場で全裸の雪兎の太腿を見るのよりも、脱衣所で短パン姿の雪兎を見る方が興奮する。なので心の叫びと肉体の昂りに任せて太腿へ向けて顔から突っ込んだのだが、後ろに跳んで躱され、肩を押してうつ伏せにさせられて背中を踏まれた。
「……なぁに? ポチ、じっと見て」
「…………俺、ドール持ってたんですよ。ラブじゃないですよ、手のひらに乗るような十万くらいのやつ。なんでそんな高いもん買えたのかは覚えてないんですけど」
「急に何の話?」
「そのドール、白髪で赤目だったんです。ぺたっとした長い髪で……ユキ様、そっくりだなーって」
ガラス玉には再現出来ない生命の美しさを宿した赤紫の瞳が俺だけを見つめている。人形に似ているなんて言ったせいで触れた時に柔らかいのか硬いのか想像出来なくなってしまった唇が楽しげに歪む。
「僕は人間だよ」
「知ってますよ」
褐色肌の大きな手が白い小さな手に掴まれて、同じく白い小さな胸に押し付けられる。とく、とく……と確かな鼓動が伝わってくる。
「僕は、生きてる」
「……知ってますよ?」
「本当に? ポチ、さっき泣きそうな顔してたよ」
胸に触れさせられた手で雪兎の二の腕を掴み、引き寄せ、抱き締める。
「お風呂から出たらたっぷりお仕置きしてくださいね。それが楽しみでちょっと目が潤んじゃったんじゃないですか」
「ならいいけど」
胸に耳を押し当てて鼓動を確かめ、生存確認をしていたと悟られないよう舌を這わせた。
「わっ……!? もう! やめてよ! 途中だったんだからちゃんと泡流せてるか分かんないよ? もぉ……そんなに我慢できないならそろそろ出よっか」
脱衣所に出てバスローブを羽織り、すぐに雪兎の方へ振り返ると化粧水のボトルを渡された。昨晩雪風と共有で使っていたものだ。
「ポチ、僕のスキンケアしてくれる? ポチも僕の肌は綺麗な方がいいでしょ」
「させていただきます。でも、これじゃご褒美ですよ?」
「何言ってるの。それ塗るだけなのにどうしてご褒美になるの? ご褒美だって思えるような変な触り方しならお仕置きが酷くなるんだから、しないよね?」
化粧水を左手に溜め、右手に馴染ませ、生まれたままの姿で俺の前に立つ雪兎の首を撫でる。産毛ではないが髪と言うには弱々しい、そんな毛が生えているうなじを摩り、親指で動脈を探すように化粧水を塗り込んでいく。
「ポチ、わざと首絞めるみたいにしてるの?」
「俺の忠誠心を示してるんです。こんな細くて綺麗な首、絞めたり折ったりしたくなって当然なのに、俺はそんな気少しも起こさずにスキンケアをしている……分かってくれますよね、俺の忠誠心」
赤紫の瞳はまんまるに見開かれている。きょとんだとか、ポカンだとか、そんな擬態語が似合う表情だ。
「……当然の前提がおかしいかなぁ。普通の人は細い首見ても絞めたり折ったりしたくならないよ」
「え……そ、そうですか」
風邪を引いてはいけない、早く首以外にも化粧水を塗ってしまわなければ。まずは肩だ、小さくて薄くて心配になってしまう。
「ユキ様に会うまで人の肩がこんなふうにしっかり掴めるとは思いませんでしたよ」
小さな背中に塗り広げ、時折に化粧水を足したりしながら腕や足の方も塗っていく。
「スキンケアするなら俺とすぐにヤる予定がない時にして欲しいですね、俺が舐めても大丈夫なヤツならいいんですけど」
「人の体をべろべろ舐めないでよね」
爪先まで塗り終えると雪兎は新しい服に着替えた。今日のために買っていた服らしく見覚えは無いが、短パンの素晴らしさはよく分かる。
「生太腿ぉっ!」
浴場で全裸の雪兎の太腿を見るのよりも、脱衣所で短パン姿の雪兎を見る方が興奮する。なので心の叫びと肉体の昂りに任せて太腿へ向けて顔から突っ込んだのだが、後ろに跳んで躱され、肩を押してうつ伏せにさせられて背中を踏まれた。
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