俺の名前は今日からポチです

ムーン

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ぜんいんでしあわせに

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朝食を終えたらリビングに移動し、最大で六人座れるらしい大きなソファに腰掛ける。

「ユキ様、ソファの座り心地いいですよ?」

「僕の特等席ここだもん」

雪兎と雪風に挟まれるために真ん中に座ったのだが、雪兎は俺の膝の上に座った。俺に預けた身体に俺への信頼を感じる。

「重い?」

「いえいえ、全く」

本当に軽い。ギリギリ四十キロとか言っていたか? 細い体が不健康に思えてくる。

「四十でしたっけ? どうなんでしょうね、それ。俺がユキ様くらいの歳の頃には七十はあったと思いますけど、身長が違いますしね」

「目指す理想体型も違うよ」

俺は別に理想体型を想定してはいない。鍛えてたら勝手にこうなってきたのでバランスを考えただけだ。

「俺は三十ない」

俺の隣に座っている祖父が話に混ざる。

「三十ないのは……大丈夫なんですか? それ」

「健康に問題はない」

なら雪兎も大丈夫かな? 触った感じでも骨が浮いていたりはしないし。

「もー、くすぐったいよー?」

服の上から腹を撫でると雪兎は嬉しそうな声色で言った。もう片方の手は雪風とソファの後ろで繋いでいるから使えない。雪風は祖父の隣だ、つまり俺と雪風の間に祖父がすっぽり収まっているのだ。

「健康体型って言ったら俺だろ。筋肉のみの真尋より、筋肉も脂肪もないユキより、両方ほどよい俺が完璧!」

「……だな。太り過ぎはもちろん痩せ過ぎも鍛え過ぎもダメだ。ま、文明社会の今、多少不健康でも生きてはいけるが」

何事もほどよくが大切だ。けれど雪風も雪兎も俺の筋肉が好きだそうなので、ほどよい体型に近付こうとは思わない。

「親父は痩せすぎだろ」

「下半身がどうにもならないだけで上半身は一応鍛えてる。懸垂で勝負するか?」

雪風と繋いでいる手をとき、両手で祖父の腕を軽く揉む。意外としっかり筋肉がついている。

「力こぶもできるぞ」

触るな気持ち悪いと怒鳴られるかと予想していたが、祖父はにこやかに力こぶを作った。雪兎も触っていたが嫌がる素振りは見せない、鳥肌は立っているけれど。

「わ、すごーい! あ、肩もがっしりしてる……意外だなぁ」

「腕と肩は鍛えてる」

見事なドヤ顔だ。雪風の父親だという説得力を感じる。

「力こぶなら俺も負けませんよ」

「ポチは張り合っちゃダメだよ。僕はっ……! どう?」

ぎゅっと力を込めたらしい二の腕を揉む。ふにふにふにふに……気持ちいい。

「ふにっふにだな、俺はそこそこあるぞ?」

そういえば雪風は前に俺を抱えて運んだことがあったな、裸を見てもそこまで力が強いとは思えないのに。

「何の話してるの? まーぜーてー」

ソファに寝転がっていた叔父が雪兎の太腿の上に頭を乗せたが、恋人の涼斗に首根っこを引っ張られ、俺に顔を押されて下ろされた。

「理想体型と筋肉? なるほど……俺は完璧な体型してると思うよ?」

座らされて雪兎に大まかな話の筋を聞いた叔父は雪風と同じ顔をした。

「中身がカスじゃどうにもならん」

祖父に全面的に同意だ。

「……僕は凪さんの好みに合わせているので」

「どこぞの犬みたいながっしりしたのは嫌なんですよねー」

叔父は俺を見つめながら涼斗を抱き締め、左手で腹や胸を、右手で下着の中を愛撫し始めた。

「華奢な身体を好き勝手するのがたまらなくて……!」

「そんな華奢なりょーちゃんに押さえつけられたら抵抗できないくせによく言うな」

雪風が呆れたように言うと、叔父は恍惚とした笑みを浮かべた。

「自分より弱そうな人からの逆レイプ最高……! 涼斗さん騎乗位上手いんですよ~」

「や、やめてくださいっ……そんなこと言わないで」

体をまさぐられているせいか、得意な体位を言われたからか、涼斗の顔は真っ赤だ。

「はっ、騎乗位がなんだ。真尋は駅弁めちゃくちゃ上手いからな!? 持ち上げられてガンッガン突かれて……! たまんないっ! 受精しちゃう!」

受精するもんないだろ。

「ふんっ、料理はもちろんその他の家事もプロレベル! 教師という印象のいい職業に、清楚な雰囲気とド淫乱な中身のギャップ! 一日中玩具でイかせまくっても悦んで俺に抱かれる体力! 俺がどれだけ酷いことをしても許してくれる母性……涼斗さんに犬ごときで対抗できると思うな!」

「や、やめてくださいぃっ……恥ずかしいですっ」

「はんっ! 料理は知らんが肉の焼き加減は最高だったし、褐色筋肉質悪人面イケメンっていうエロそうな見た目通りの性豪っぷり! だがSっ気とドMペットを併せ持つ二面性! 俺の経験人数が三桁だろうが四桁だろうが受け入れてくれる懐深い漢らしさ……メンヘラが勝てると思うな!」

「や、やめてくれ雪風……恥ずかしい」

自分の番になると途端に恥ずかしい。今すぐ雪風の口を塞ぎたい。しかしその前にこの波に乗らなければ。

「料理どころか家事なんか何一つ出来なさそうな箱入りっぷりがたまらない! 純新無垢な笑顔のまま繰り出される罵倒とムチのキレはまさにご主人様! でもやっぱり子供っぽい寂しがり屋なところもあってお可愛らしい、俺の快感ギリギリを責めてくれる完璧なドSっぷり……俺のご主人様ユキ様が最高に決まってます!」

「やめてよポチぃ! 恥ずかしい!」

完璧に乗れた。満足だ。

「うるっせぇんだよこの変態共! 気持ち悪ぃっ……! クソっ、死ね!」

祖父の一喝に騒がしかったリビングが静かになる。

「……なんだよ親父ぃ、寂しいのか? 近親相姦は勘弁だけど構ってやるから拗ねるなよぉ」

「寂しかったんですかおじい様、おじい様も俺の膝に座ります? 二人くらい余裕ですよ」

「寂しかったの? なんだ……ゆきと遊ぼっ、おじいちゃん」

「拗ねないでくださいお義父さま……娘の僕が何か美味しいものを作って差し上げますから」

「…………ふんっ」

叔父以外の全員が祖父を構い始め、祖父は顔を真っ赤にしてキレの悪い罵倒をしながらも、嬉しそうに頬を緩ませていた。
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