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だって好きにしていいって……

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騒ぎを起こして公園に居座るなんて出来る訳もなく、俺達は駅まで走って逃げた。駅前のロータリーに設置されたベンチに座り、息を整えた。

《運動の後のスイーツは最高だな、チョコフレークがザクザクしてたまんねぇ》

「ぁむ……んー、うま。ほいでなんであんなことなってたんか説明してもらおか」

俺の分はいらないと言ったけれど、リュウはちゃんと俺の分も買ってきてくれていた。チョコバナナクレープだ、美味しい。

「イジメっ子が、クレープ買いに来てたみたいで……」

「イジメっ子ぉ?」

「あ、セイカの……セイカ高校で虐められてて、そのヤツ。で、セイカ見つかっちゃって絡まれて、俺セイカ連れて一旦逃げようとしたんだけど上手くいかなくて……」

「アキくんがえらい怒っとったんは水月かせーか殴られてしもたんか?」

質問に答えないことを理由にした平手打ちを除外すれば、セイカが蹴られかけていたのが理由になりそうだが、そもそも質問に答えないだけでアキが人を殴るとは思えないし、いつも絡んできた相手を一撃で気絶させてきたアキが今日のようにじっくり痛めつけるようなやり方をするなんて、異常だ。

「うーん……セイカ、アキに何か話したのか?」

「…………昼間とかずっと一緒だから、学校の話とかはたまにした」

「イジメっ子らの話もしたん?」

「うん……」

「復讐の代行とか頼んでしもた?」

「してないっ! してない……秋風、やってやろうかって言ったけど、俺……いいって言った。秋風はそんなことしなくていいって、俺のためとかやめてって、秋風は好きなことしててくれって」

ほぼ無関係だったリュウとホムラでさえ暗い顔でクレープをちびちび齧っているのに、当のアキは美味しそうにクレープを頬張っている。殴ってスッキリしたのかな。

「……ほななんでアキくんあないなことしたんか聞けるか?」

「………………うん。ぁ、秋風……」

《んー?》

セイカはロシア語でアキに何かを尋ねた。

《アイツらがスェカーチカに酷いことした連中なんだろ?》

《そうだけど……なんであんなこと》

《報いは必要だ、良いことも悪いことも、何にでもな。この世に神なんか居ねぇんだから、自分で釣り合い取らなきゃだぜ》

《……そうかもしれないけど、どうしてお前が……秋風はそんなことしなくていいって、俺言ったじゃん》

《スェカーチカ、好きなようにしろって言っただろ? その身体じゃどうせ報いを受けさせることなんて出来ねぇんだし、別にいいじゃねぇか俺がやっても》

いちいち翻訳していたら会話のテンポが悪くなるというのは分かるが、蚊帳の外にされているのはやはり不満だ。

《……っ、俺は報いを受けてない! 鳴雷にしたことへの、報いは……まだない。お前がそういう考え方ならまず俺を殴らなきゃダメだろ!》

《兄貴はスェカーチカに心底惚れて復讐を嫌がってる。スェカーチカはこう言ったよな、秋風はそんなことしなくていい……って。しなくていい、つまり、してもしなくてもどっちでもいいってことだ、お前は復讐の権利を放棄した。復讐の権利を保持したまま行使していない兄貴とは違う。棄てられたもん拾って何が悪い? 俺に復讐させるのが嫌ならやめろってハッキリ言えばよかったんだ、日本人らしい性格が災いしたな?》

《お、俺は……そんなつもりで言ったんじゃないっ》

《どういうつもりで言おうが相手にとっちゃ伝わった内容が百%だ、後から何言ってもどうしようもねぇ》

《俺は……俺、は……秋風に、そんなことして欲しくなかった、暴力なんて……お前に振るわせたくなかった。だからしなくていいって、秋風には好きなことしてて欲しいって、俺っ》

《兄貴やスェカーチカ、好きな人を守るのが俺のしたいことだ。復讐は未来の盾だぜ、今後アイツらがスェカーチカを見かけても、きっと俺を思い出してスェカーチカに痛いことしないはずだ》

《…………俺なんかのために、あんなこと……》

《スェカーチカ、俺は俺のしたいことやっただけだ。スェカーチカのためになるなんて思ってねぇよ、アンタは優しいからきっと嫌がるってやる前から分かってた。それでも俺はやりたかったからやった、アンタが嫌がることを分かっててやっちまった俺を、スェカーチカ……アンタは嫌わないでいてくれるか?》

《……この前言ったばっかりだろ。俺がお前を嫌いになるなんて、ありえないって……》

話は終わったようだ、要約を聞かせてもらおう。

「セイカ、アキはなんて?」

「……しなくていいとか、好きなことしててとか、ちょっと曖昧な言い方しちゃったから……してもいいってことだろって、代わりに復讐するのがやりたいことだったって…………ごめん、鳴雷……俺のせいで、秋風に暴力振るわせた。嫌だったのに……秋風にはあんなことさせたくなかったのに……ごめんなさい、ごめんなさい鳴雷……ごめん、俺やっぱり居るだけでっ……!」

「セイカ……そんなこと言わないでくれよ」

イジメっ子に怯えて吐き気や腹痛を起こし、何も出来ていなかった俺には、アキを叱る権利もなければセイカに責任転嫁する図々しさも持ち合わせていない。

「屁理屈捏ねよったんかアキくん。まぁなぁ、大事な人虐めてたんムカつくっちゅうんは分かるんやけどなぁ……過剰なんはよぉないで?」

「てんしょー、てんしょー……くれーぷ、何です? 美味しいする、見えるするです。ひとつ、欲しいするです」

「一口欲しいん? しゃあないなぁ、もう無闇に喧嘩せぇへん約束するんやったらええで」

アキは無邪気だ。だから危うい。感情に従って暴力を振るう。将来を傭兵と勝手に決められ仕込まれた、平和ボケした一般学生には過ぎたる暴力を。

「……アキ」

「にーに、にーにぃ、くれーぷ、ひとつ欲しいするです!」

対話の大切さと暴力の愚かさを教えるのは兄の役目だろうか、父親が放棄したのなら俺がやるしかないのだろう。俺がアキを育ててやる。
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