2 / 5
その二 シビれるような女(ひと)
しおりを挟む
目に止めた途端、背筋を電流が抜ける。それでも、足は止めない。行く先からやってくる影を、私は密かに待ち受ける。淀んだ雨粒のカーテンの向こうで、男達の視線が集まるのが手に取るように分かる。もちろん、私に、ではない。
電撃にあてられた男達は、呆けたように口を開けたままシビれたように動けない。
囲むようにして並ぶ頭は、引きつれた雷雲のようだ。それらを掻き分け無言で進む、ツンとしたベリーショートの金髪は、シビれるほど勝気な目をしている。足元の石を踏んだのか、すれ違いざま、ベージュのヒールが雷鳴の如く轟いた。
不意に目が合いハッとする。相手も同じくらい驚いているようだ。
――――この黄ばんだ肌を見て、安い女だと思われたかもしれない―――― 実際には、一瞥にも満たない時間だったにも関わらず、過ぎる思考が重くのしかかった。
大通りから一つ外れた、人気の少ないシャッター通りの商店街。まばらに光る街灯の下で、今日も私は客を待つ。借りっぱなしの宿屋の隣で、雨宿りする
夫人を装う。とってつけた見栄に、溜め息が漏れた。それでも、どこにも身寄りが無い以上、この仕事を止めるわけにはいかない。雨に溺れて、野たれ死ぬわけにも。
雨に白む、色彩を欠いた灰色の街に、ふらりと、人影が現れる。全身を覆う厚手のコート、煙草に歯を立て不味そうに燻らせる唇は薄い。一瞬、まさかと目を瞠るも、ほのかな期待は脆く崩れ去る。
「あの……、あの……、君、一人?」
違う。あの男は、こんな薄気味悪い声色じゃない。
「良かったら、その、さ……」
不摂生な痩せこけた顔を伏せ、男は、ふけだらけの長すぎる髪に爪を立てた。
在りし日のあの、焼け焦げたようなちりぢりの赤髪に想いを馳せ、私は、ささくれだった唇に八重歯を突き立てる。そうして、やっとの思いで絞り出すのだ。
「私は、高いわよ?」
電撃にあてられた男達は、呆けたように口を開けたままシビれたように動けない。
囲むようにして並ぶ頭は、引きつれた雷雲のようだ。それらを掻き分け無言で進む、ツンとしたベリーショートの金髪は、シビれるほど勝気な目をしている。足元の石を踏んだのか、すれ違いざま、ベージュのヒールが雷鳴の如く轟いた。
不意に目が合いハッとする。相手も同じくらい驚いているようだ。
――――この黄ばんだ肌を見て、安い女だと思われたかもしれない―――― 実際には、一瞥にも満たない時間だったにも関わらず、過ぎる思考が重くのしかかった。
大通りから一つ外れた、人気の少ないシャッター通りの商店街。まばらに光る街灯の下で、今日も私は客を待つ。借りっぱなしの宿屋の隣で、雨宿りする
夫人を装う。とってつけた見栄に、溜め息が漏れた。それでも、どこにも身寄りが無い以上、この仕事を止めるわけにはいかない。雨に溺れて、野たれ死ぬわけにも。
雨に白む、色彩を欠いた灰色の街に、ふらりと、人影が現れる。全身を覆う厚手のコート、煙草に歯を立て不味そうに燻らせる唇は薄い。一瞬、まさかと目を瞠るも、ほのかな期待は脆く崩れ去る。
「あの……、あの……、君、一人?」
違う。あの男は、こんな薄気味悪い声色じゃない。
「良かったら、その、さ……」
不摂生な痩せこけた顔を伏せ、男は、ふけだらけの長すぎる髪に爪を立てた。
在りし日のあの、焼け焦げたようなちりぢりの赤髪に想いを馳せ、私は、ささくれだった唇に八重歯を突き立てる。そうして、やっとの思いで絞り出すのだ。
「私は、高いわよ?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
『大人の恋の歩き方』
設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日
―――――――
予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と
合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と
号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは
☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の
予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*
☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる