自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

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 ー純ー

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 カレーのルーを割り入れてかき回し始めた頃に、侑がようやくソファから立ち上がってこちらに来た。皿を出させて飯を温めるように指示をする。侑が取り出した皿は。

『そうなるわな。』

 たぶん侑が持っている皿の中で1番デカイやつ。侑自身の分は結構小さめだ。スプーンも取り出して準備万端。にっこり笑いかけてきた顔は……。

『犬か。』
 心の中で突っ込みを入れずにはいられなかった。



「はい、これデザート。」
「ああ、サンキュ。」

 ソファの前のテーブルに、俺用のカレー皿が置いてある。侑のはカウンターに置いたままだ。俺はこちらに座れ、ということだと理解した。程なくどこからか出したみかんとお茶のコップが手渡された。

「美味しいっ!」

 食べ始めてすぐに、侑の声が聞こえる。そりゃあ良かった。でも、俺は今、少しだけ気になっていることがあった。

「お前……彼氏できたのか?」
「えっ? 何?」

 壁に掛かっている洗濯物の中に男物の青いワイシャツと黒い靴下、そしてボクサー。コイツが着てても驚かないが、明らかに服の方がデカい。

「これ、男物だろ? お前が着るにしてはデカ過ぎるし。」
「ああ。それ、友だちのアドバイスで始めたの。防犯用。父さんのシャツと下着と靴下。一緒に外に干してる。」

 思ったことをそのまま口にすると、気軽な返事が返ってきた。

「そうか。」
 侑の父親は、俺と同じボクサー派か。俺の親父はトランクス一択だが。世代の違いか? 父親は何歳なんだろう?

 侑に身長を尋ねられて、答えながらもう一度洗濯物に目をやる。あの大きさなら俺と同じぐらいかもしれないな。そこであることに気づいた。

『侑の下着は?』

 なんせここは一階だ。下着泥棒が取ろうと思えば、いくらでも取られるはず。ここにないってことは、まさか……盗まれて? 

 食後のみかんを食べながら、さっき寝室から出てくるのが遅かったのは、気を落ち着けようとしたのか? などと考えるが、そんなことを聞くわけにもいかない。彼氏でもあるまいし。

 ……彼氏? 俺は、俺は何でここで、侑と一緒に夕飯を食べてるんだ?

「ご馳走さん。このみかん、美味いな?」
「でしょう? みかん好きなんだ。これは当たり。すごく安かったけど美味しい。」

 みかんの話で、訳の分からない気持ちを落ち着かせようとする。しかし、失敗。もう今日は帰るしかない。

「じゃあ、俺、帰るわ。」

 グッとお茶を飲み干して席を立つ。大股で部屋を横切る目の端に、侑が食べかけのみかんを置いて立ち上がるのが見えた。

「ありがとね? 本当に美味しかった。」
「ああ。」

 俺は何をしたかったんだろう? 一度だけ部屋に入ったことがあるだけ。ただの顔見知りなだけの侑の部屋に上がり込んで。俺は、飯を一緒に食べたかったわけじゃない。

『じゃあ、何?』

 そう思った瞬間に、振り向いて侑の頬に手を当て、唇を奪っていた。サラサラの髪。髪から漂う、仄かなフローラルの香り。人形のように固まった感触からは、キスに慣れていないのが明らかだ。初々しい……侑。

「お礼は貰った。じゃあな。」

 自分がやってしまったことにふと気づく。心臓が痛い。何だ? この痛みは。真っ白なものを汚してしまった、そんな感じ。

 侑が何も言えないでいるうちに外に出た。やべぇ。俺、元カレよりも酷え事をしたような気がする……それに……。

『勃ってきた。』

 今奪い取ったばかりの唇の感触を忘れようと首を振る。何か他のことを考えなければ。けれども頭に過るのは最後の侑の驚いた顔と、髪の匂い。そして、唇の感触だけだった。
 
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