見上げれば聖地

ルーシャオ

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第一話

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 西暦二〇四〇年、国連総会において多発する国際紛争を解決するための決議案と一連の行動根拠となる声明案が、最終可決された。

 それらは『AIM計画』と名付けられ、原案作成に協力した北米圏とEU圏、ユーラシア圏のそれぞれの科学者団体と大学、研究施設は千二百を数える。また、G7各国の企業による主体的な協力も約束されていた。

 前代未聞のこれら大勢の目標を一致させた外交官の一人は、次のように語る。

「我々はいつまでも地を這う猿ではない。宇宙にも進出した、多くの星々の謎を解明した、祖先の成り立ちを知った。ならば、もっとその先へ行くためには、我々を縛りつける『頸木』を外さなくてはならない。いや、その言い方は正しくない。我々は道の先へ行くとき、家の心配をするだろう。置いてきた家族の生活を案じて、どこかで歩を止めるだろう。理由はさまざまだ、しかしそのうちの——大きな一つないし二つについては、この案が実現すれば心配する気持ちが軽くなるかもしれない。あるいは、勇気をもらえるかもしれない」

 またある科学者はこう振り返った。

「実際のところ、あの案は技術的には可能さ。もちろん、人類が一致団結してその事業に打ち込むならば、という条件が付くものの、シンガポールやマレーシアをはじめとする赤道直下の国々においていくつもの軌道エレベーター建設計画がすでにスタートしている現代においては、決して夢物語ではないよ。特に、本来は固い地盤の掘削用途だったが日本のGNFグラウンドネットフローティング技術があれば、広い土地ごと持ち上げることができる。僕らが見上げるあの月の南極に、持ち上げたフロートを特殊なワイヤーで引き上げる。およそ半年かけて、そのための強力な巻揚機は、地球だ。現在、南北アメリカ大陸の三ヶ所にワイヤー固定地を建設している。すでに持ち上げが決定したかの二つの土地を持ち上げ次第、軌道エレベーターの本格建設に先鞭をつけることとなるだろうね」

 科学者の言う、かの二つの土地——それはエルサレムとメッカだ。

 進歩の名の下に、人類の信仰の拠点は不可触の領域に集約されることとなった。月の裏側、南極エイトケン盆地の最深部にエルサレムとメッカを移動させる『Asylum IMoon計画』は、かつての隆盛を失って久しい世界中の宗教勢力の反対を押し切って、西暦二〇五〇年に完遂された。
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