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第十一話

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 私は立ち上がり、会釈をする。

「は、はい、初めまして、カレヴィ様」
「さっそくだが、見てほしいものがある。こちらに来てくれ」

 手招きされて、私は飲みかけのコーヒーを残して応接間から出る。早足のカレヴィについていく最中、こんなことを言われた。

「今度、ここに薬草園を作ろうと思っているんだ。ガラス張りの専用温室を建てて、今は室内で育てている貴重な薬草を移すつもりだ」

 ふむふむ、なるほど。王城の裏庭のようなものを増やすと。

 それはどう考えてもお見合いの話ではなく、仕事の延長上の話だが、とりあえず私は聞いておく。

「薬師のデ・ヴァレス先生も、そろそろ退任の時期だ。いつまでも王城内でだけ薬草を育てられるわけじゃないし、株分けしてもらうにも設備が必要だ。だからうちが名乗りを上げたんだが」
「えっと……それで、私とお見合いを?」
「ああ。薬草を見分けられると聞いて」

 なんだ、そういうことか、と私は納得した。そうでもなければ、宮廷医師の跡取りであるカレヴィが私なんかとお見合いするわけがない。

 屋敷の庭の一角に、仮説のガラス張りの温室があった。私が裏庭に手作りで建てたものを大きくした感じだ。

 中に入ると、見慣れた南方産の薬草が所狭しと並んでいた。カレヴィはそれを指差し、私へその名を尋ねる。

「これは何だ?」
「ジギタリスです」
「ふむ。このくらいは分かるか……」
「そっちの小さい花が咲いた背の高い草はキナノキです。たくさん実がついたあの低木はキョウチクトウの仲間ですね」
「おお、それも知っているのか!」
「デ・ヴァレス先生に教わりました。それから」

 私は次々と、薬草の名前を当てていく。毎日見ているものもあれば、一度だけ育ったものもある。薬師のデ・ヴァレスから教わった薬草の種類はとっくに百を超えていて、その効用や煎じ方もうっすらとだが覚えている。

 大体目につく薬草の名前を言い終えると、カレヴィは興奮気味に褒めてくれた。

「エイダ、お前、賢いな。見直したぞ、宮廷メイドなんて頭が空っぽで貴族に見初められたいだけの女たちだと思っていた」
「そ、そうですか? えへへ、賢いだなんて初めて褒められました」

 何だかすごい悪口を聞いた気がするものの、気のせいだと受け流した。カレヴィは私を褒めてくれている、それは確かだからそれでいい。

 その後、私はカレヴィの医務室に連れていってもらった。たくさんの革張りの本が並び、箔押しされたタイトルが輝いている。そのうちの一冊をカレヴィは取り出して、私へ手渡した。
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