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第1話 乞食になったらランダムジョブ手に入れた

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 現在、俺はレザーシャツとレザーズボン以外何もなくなってしまった。
 ジョシュ商人と呼ばれるでっぷりと太った商人に騙されて傭兵みたいな奴等に身ぐるみ剥がれたという訳だ。
 運が良かったのはレザーシャツとレザーズボンが無事だという事。
 ジョシュ商人は意外といい奴だ。

 という訳で、シルクハード街の路地裏で乞食を始めました。
 毎日そこらへんに落ちているゴミを拾って食べています。
 子供達は俺を見てけらけら笑っています。

 だけど俺はけらけら笑うと、彼等はびびって逃げるという工程を何度も繰り返す訳だが。
 俺は1枚のコインを拾ってみた。

 何の変哲もないコインだが、お金ではなくおもちゃのコインだった。
 何度もコイントスをしながら遊んでいると。

 頭がぴかっと光だした。

【ランダムジョブのジョブを習得しました】

「はい?」

 焦る心を静めながら、ジョブとは何だっけかと思い出す。
 人は人生で1度だけジョブに覚醒できるとされている。
 そして俺はその人生で1度だけのジョブに覚醒した訳だ。
 さらにランダムジョブとは聞いた事が無い。
 
 戸惑う俺に対して、シルクハード街のあちこちに何かが見え始める。
 それは黒い雲のようなもので、ふわふわと浮いている。
 霧とは少し違っているようだ。

 俺はゆっくりと触れてみた。
 次の瞬間、バチリというスパーク音を響かせて、どこか知らない世界にやってきてしまっていた。

「はいいいい」

 目の前には無数のドアが出現する。
 そのドアが開くと、1体また1体とゴブリンが吐き出される。

「おいおい、剣も盾もないぞ、スキルたって剣装備してないとできねーし」

 絶体絶命に陥る俺に対して、不思議と天使ではなくおっさんが手を差し伸べてくれた。

【うぉい、どうやらクラウドワールドにやってきてくれたようだな】

「えーと、おっさんと話してる暇な無いんですが」

【死ぬぞ、いいのか、てかランダムジョブかよ、超級レアジョブじゃねーか】

「勝手に人を鑑定しないでください、はずかしい」

【知るかぼけ、性能については知らんようだな】

「知る訳ないでしょ」

 そんな事を囁きあってると、ゴブリン達が20体近くに膨れ上がっている。

【今から説明する。ランダムジョブはランダムでジョブを決める。15分後に再使用できる。しかし15分経てばジョブは解除される。同じジョブ、連続ではなくとも3回出るとそのジョブを自らの物に習得し、そのジョブは常時発動されている事になる。まぁ習得だな】

「て事は、剣士ジョブを3回当てると、剣士ジョブを習得すると、さらに戦士ジョブを習得すると、剣士と戦士を同時に発動すると」

【ああ、そういう事だ】

「す、すっげえええ」

【今は、ランダムジョブを発動した方がいいぞ、死ぬぞ、後、俺様はクラウドワールドゾーンのどこかに閉じ込められているクヴァリスタンだよろしく頼む、生き延びれればな】

「ああ、どうでもいいけどな」

 俺は意識を集中し、ランダムジョブを発動させる。
 頭の中に星が沢山輝く。
 そして運命のジョブ、ほぼ運任せのジョブ。
 そ、それは。

【釣師ジョブになりました。15分後に解除されます】

「ちょむりよおおおおお」

 とにかくゴブリンが20体こちらに向かって走って来るので、必死で逃げる事に。

「す、スキルはあああ、えーと【釣竿召喚】って釣竿でるだけなんかいいいい」

 右手に丈夫な釣竿が出現している。

「他にスキルはああああ、【釣る】ってそのまんまかいいいいい」

 走って走って走りつくした。
 どこまで逃げても後ろからはゴブリン20体が追いかけてくる。
 名の知れた冒険者ではない、家族が15歳の時にモンスターに殺された。
 それから5年間冒険者としてちみちみと生きてきた。

 一気にお金を稼ごうとしたら、ジョシュ商人に騙された。
 乞食になろうと成り上がろうと前向きにゴミを食らってきた。

 そうして手に入れたランダムジョブで、釣師になっていた。

「俺の回想録終了、釣られてみろばーか」

 釣竿を振り回す俺。
 ゴブリン達はなぜか猫じゃらしを追いかける猫のように釣竿の釣り金を追いかける。

「う、嘘だろ」

 ただゴブリン達は釣竿の釣り金を追いかける。
 それを15分間繰り返した結果。ジョブが解除された。

「ランダムジョブ発動っと」

 また頭の中が星でうめつくされる。
 次に得たジョブ。

【指揮者ジョブになりました。15分後に解除されます】

「なんだこれ、指揮者って音楽家の奴か、無理だろおおおおお」

 また俺は走り出す。

【おめー遊んでんのか、名前聞いてなかったな】

「カルクだ。かるーくいこーぜのカルクだ。こっちは遊んでねー命がけだぼけ」

【まったく、指揮者は指で相手をコントロールできる。スキルをちゃんと見ろ】

「おお、助かるぜ」

「スキルっと、指揮者のスキルは【指揮移動】ふむふむ」

 ゴブリンを指さすと、右に動かす。
 ゴブリンが右に吹き飛んで、隣のゴブリンのぼろぼろの剣に突き刺さって死亡する。

「嘘だろ、倒せた」

【まぁ、ぼちぼちだな】

「ふふーん、この指揮者ジョブめちゃいいかもしれん」

 指をあちこちに振り回す。
 ゴブリン達は何が起きているか理解不能であちこち飛んで行く。
 剣を指さすと剣を移動させて、浮遊する剣で次から次へとゴブリンを串刺しにしていく。

「やっべ、俺つえーじゃん」

 ゴブリンが全滅すると、大きな扉が出現する。正確にはお城の城門が相応しいだろう。

「あれが、出口か?」

【違うボスだ】

「え」

 城門がゆっくりと開かれる。

 クラウドワールドゾーンの中は黒い雲ばかりのようになっているし、なぜか街の中だったのに草原になっている。

 その草原地帯がパズルのように組み替えられていくと、草原が荒野そのものに切替わる。

 城門から現れたのは、巨大な棍棒を握りしめていたトロールだった。
 口から涎を垂らしながら、咆哮を発する。

 そして指揮者ジョブが15分経過し解除される。
 
 咄嗟にランダムジョブを発動させればいいのだが、人生でトロールを見たのは初めてであった。

 俺は冒険者だが、へっぽこのへっぽこだ。スライムとゴブリンとバードぐらいしか狩った事がない。
 そんな俺が巨大なトロール、6メートルは超えるであろう化け物を倒せるはずがない。

 腰を抜かし、トロールがのっしのっしとこちらに向かってくるのをひたすら見ているしかなかった。

 その時、脳裏に家族がモンスターに殺されている光景が映し出される。
 怒りがふつふつと溢れかえり、俺はゆっくりと立ち上がる。

「はぁ、こういう時こそ、いいジョブに巡り会うんだぜきっと、ランダムジョブ!」

【ピエロジョブになりました。15分後に解除されます】

「ぴ、ピエロおおおおお」

 ゆっくりと肩を下ろしたが、次の瞬間、顔に仮面が張り付いた。

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