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冒険の旅

友好と新国名

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 ---プリウスSIDE---
 エリーが謁見を完全に地に貶めて叙勲やら叙爵の一切を蹴飛ばして出て行った後、しばしの沈黙が流れた。
 この沈黙を断ち切ったのは、国王代理、王太子自身の笑い声だった。
「はっはっはっはっはっはっはっは!
 これは一本取られたな!
 魔王か、魔王に認定などしようものなら直ぐにでも滅ぼしに来るつもりであろうに。
 かの者に対抗出来うる魔導士等勿論居る筈も無いのだ、あの娘が作った技であるからして、他の誰が彼女に敵おうと言うものか。
 かの者は魔王などにしては成らぬ、大賢者として崇め、教えを乞う立場である、此方から蔑ろにしてはならぬぞ。」
「は、かしこまりました。」
 騎士長はすぐに返事をしたが、その表情はまだ納得して居ない様子だった。
「さぁ、気を取り直して再開しよう。
 先ずはランクル皇国新皇帝殿のご用向きを伺おう。」
 それにしてもこの王太子、外見の要旨は未だ年端も行かない6~8歳だが、風格は既に何年も王位に就いて国を治めて来たそれと何ら変わらない程だ。
 そしてやけにあのエリーに対して理解があった。
 つまりはこの王太子自身も、本当に転生者と言う事では無いだろうか。
 ならば我には、この国と仲違いすると言う選択肢はない。
 何故ならば、エリーはたった一人で我が国の城を消し飛ばし、新たな城を建造し、瞬く間に我が国の領土を作物の育ちやすい肥沃な大地へと変えたのだ。
 これだけでも敵対する意味が無い、そんな異世界人の一人かも知れぬこの王太子やこの国と仲違いをするなんて以ての外である。
「エクサ王代理、もといテラノ殿、先達ては我が父の暴走により大変迷惑を掛けた。
 此度の用向き、その一つ目は、その謝罪であります、大変失礼を致した。
 ついては、この度こちらの国へと亡命をしたいと願い出た我が国の伯爵位を持つモイヤーの亡命を正式に此方からも認め、その領地もそのまま譲渡致したい。
 国の事情ではあるが、財政がひっ迫しておりこの程度しか保証が出来ない事も重ねてお詫び致す。
 そして、二つ目の用向きとして、今後の友好をお願い致したく参った。
 もしもこの願いが叶うのならば、我が国に新たな名を頂きたい。
 叶わぬと言うならばこの場で我が首を刎ねて頂いても構わぬと言う思いで赴いた次第。」
「あい分かった、我が国としても、ランクル皇国との友好は悲願でもある。
 謝罪を受け入れ、友好を築く事を約束しよう。
 これは病床に臥せって居る国王本人より言い渡された事案でも有るので、是非にと付け加えておこう。
 しかし、新たな国名をとなると、其方は姓を捨てると言って居る様な物であるが宜しいのか?」
 そうなのだ、国名が変わると言う事は、ラストネームである家名が変わると言う事に他ならない。
 だが私は父の血族ではあるが皇后の血は受け継いで居る訳では無い、そして父も皇后も、私より皇后の血を受け継いでいる次男の方が次期皇帝として考えておるようだ。
 もしもそうなったら我は殺される事と成るだろう、であればこの家名は捨ててよいと思う。
「我の事情は既に情報が入って居られるであろう。
 つまりはそう言う事であるよ。
 そして我はあの国を今のままにはしておけない。
 体制を変える為にも新たな国名が必要なのだ。」
「成程、理解致した。
 しかし、国王代理の我でもよろしいのか?
 只の王太子なのだが。」
「構わぬ、むしろ先程のエリーとの会話を聞いて居て王太子殿にこそ名付けて頂きたいと思った、よろしく頼む。」
「そう言う事であれば、喜んで引き受けよう・・・では、国名は、レクサスにされては如何だろう。
 レクサス皇国、中々良い国名と思うのだが、如何だろう。」
 ふむ、レクサス、レクサス皇国か、うむ、悪く無い、響きもスマートで気に入った。
「おお、素晴らしい名ですな、それでは今日よりその名を名乗ろう。
 では、今から世は、プリウス・ラ・クラウン・フォン・レクサスである。」
 こうして我の国の新たな名と、初代皇帝としての家名が決まったのだった。
          叙勲と褒賞
 ---セドリックSIDE---
 エリーの態度は、決して褒められたものでは無かったし、国民で無くとも流石に王に対しては不敬に当たるのだろうと思うのだが、屁理屈で切り抜けてしまった。
 現国王、エクサ・ド・ブルバー・グローリー様は我が父が守り抜いた当時まだお若い国王であった、未だお亡くなりになるような年齢でも無いのだが病床に臥せって居るらしく、この場には王太子殿下が出て来ることとなった訳だ。
 そんな事態なので援軍も出せなかったし、そんな重要案件は秘匿されてしかるべきだった。
 そこをエリーは逆手に取った形で切り抜けてしまったのだ、むしろマウントすら取って居た。
 全く、エリーときたら私から見ても何処にも勝てる要素の無い奴だ。
 相変わらずマイペースな娘だ、娘とは言って居るが知識量は我々のそれを圧倒的に凌駕して居て彼女の言うとおり735歳で間違い無いのであろうと思える、子供らしくないしな。
 つまりこれが俗にいうロリ〇バアと言う奴だろうか・・・げふんげふん・・・
 本人を前にして言わないように注意せねば・・・
 しかし、そんなエリーの態度を見ても咎めるでもなく、普通に流してまるで友人と会話するかの如く会話を楽しんで居た王太子殿下、侮れない方だ、年端もいかぬと言うのに。
 それにしても今回のエリーには肝を冷やされたな・・・
 私やタイタンズが呼び出された件に関しては、予想通り叙勲と褒賞だった。
 私と第一騎士団長ローレルに月桂樹を模った金冠樹褒章と言う、指揮官として武勲を上げた者へ送られる勲章が。
 ちなみに同時にローレルには上位騎士爵が授与され、メダリストの家名を頂いた。
 タイタンズの面々、並びに勇者カイエンへは、白銀冠樹褒章という、これは実際戦場で先頭に立って手柄を上げた者へ対する勲章、何れも最上級の栄誉と言って過言では無い勲章を授かったのだった。
 そして褒賞として、私に白金貨200枚、この白金貨は貴族間のみで流通する、一般人には通常お目に掛かる事すらない貨幣だ、貴族間でしかやり取りのされないこの白金貨の価値は、一枚で大金貨100枚分。
 伯爵位の私としては、上位の貴族との交渉時に大変有利に交渉事を進められる事となるので一枚でも多く所持したい所で大変ありがたい。
 それにしても、大金貨100枚分もの価値のある白金貨を200枚とはかなり奮発したものだ。
 冒険者諸君らには、大金貨が各自300枚づつ送られる運びとなったようだ。
 叙勲を拒否したエリーに渡された金子袋の大きさだと、彼女には恐らく大金貨500枚程入って居たのでは無いだろうか。
 それにしてもエリーの言う通り、街の酒全てを冒険者に奢ってやっても余りある、というか、数百倍の価値ある褒賞だった。
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