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2、婚約者
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あの後、別館を歩いていると巡回中の騎士に会った。そこで無事に鉛筆削りを借りることができ、夕食までヒナが塗り絵をしているのを見ていた。
見てて気づいたけど、色塗りって個性が出るよね。ヒナは明るい色が好きだからピンクやオレンジ、黄色とかをよく使ってる。描いてある女の子の服がカラフルで、なんだかヒナらしかった。
夕食の時も一緒に食べていたエイミーに見て見て~と腕前を披露して、そのページちょうだいって迫られていた。ちなみに食べ終わった後はデールさんとコリスにも自慢していた。
コリスはまだ少し落ち込んでいたけど、もう大丈夫そう。逆にいつかカイルさんに勝つぞってやる気を出していた。
「訓練お疲れさま」
「ああ。カイルさんはやっぱり強い。それに、あれはわざと俺を指名したんだ。自分との差を見せつけるためにな。戦った感触も本気だった。意外と大人気ない」
「カイルさんがそんなことするはずないでしょ。せっかく戦ってくれたのにアドバイス聞きに行かないの?」
急に自分が指名されたことに不満を持っているみたい。そんな意地悪なことするわけないのに。わざわざ実力を見せつけるためじゃなくて、筋がいいから一度対戦してみたかったとかじゃない?
「いや、アドバイスというより注意?……いや、警告は聞いた。俺が落とした剣を拾ってくれたときに」
「警告? なんでコリスに。何かしたの?」
「ちょっとな。噂もあながち間違いじゃなかったってことだ」
「それって私たちがここに来たって噂のこと?」
「惜しいな。もう一つ噂が流れていたが、そっちはデマだってわかったんだ。でもご本人はそうでもなかったらしい」
……いまいち言っている意味がわからない。それって、噂はデマだったけど本人からしたら嘘ではなかったってこと? 嘘ではないならデマじゃなくない?
日本語の意味がわからなくなってきたが、肝心の噂について聞く。
「どういうこと? それに噂って?」
「そんな大した話じゃない。俺とカイルさんがライバルだったってことだ。でも、剣では負けたけどこの勝負は勝つつもりだ。こんなに興味を持ったのは久しぶりだから」
「欲しいものが被ったの? カイルさんと同じものが欲しいだなんて趣味似てるのね」
「ああ。でもかなり人気があるから早く手に入れないといけない。横から掠め取られても最悪だからな。これから策を練って俺のものにするよ」
話しながらながら私の目をじっと見つめてきた。力のこもった瞳がその感情を物語っている。そんなに人気なもの? 新しい剣や防具? それくらいしか思いつかない。
まあ、私にできることがあったら手伝おう。
「何か手伝って欲しいことがあったら言って。役に立たないと思うけど、少しなら力になれるかもしれないから」
「ほんとか?」
「え? うん。手伝うくらいなら」
私の言葉に、ふと何か思いついたように顎に手を添える。コリスはうっすらと笑みを浮かべると提案をしてきた。
「それじゃあ話し相手になってくれないか? ちょうど1週間後は警備の当番でもないし、訓練もない。1日だらだらするしか予定がないんだ。そのときにどうしたら欲しいものが手に入るかしっかり相談したい」
「うん、いいよ。私もすることがなかったから。テルやヒナも退屈しないで済みそう」
「違う違う。テルやヒナは今回は別行動だ。話すことは他の人に知られたくない。子供だとそれを聞いたら話してしまうだろ? 特にヒナは口が軽そうだ。ライバルも多いし、2人で話したい」
「2人きりで……?」
子供達はダメだと言われて躊躇してしまう。コリスと話すくらいなら全然大丈夫だ。でもその間、子供達は部屋に置き去り? さすがに私達の部屋で相談というのはできればしたくない。
外となると、ヒナはずっと静かにしてるなんて出来ないだろうし、歩き回ってしまうと思う。もし宿舎で迷子になったり入ってはいけないところに行ったら危ないし。
相談は乗ってあげたいけど子供達のことがあるから、と断ろうとしたとき。何か思いついたようにコリスが勢いよく話し始めた。
「あ、そうだ! それなら、デールのところで預かってもらったらどうだ。人一倍テルやヒナのことを可愛がっているし、2人も懐いている。団長達の都合でその日は皆訓練がない。デールも警備は入ってないから、暇なはずだ」
すると、私たちの周りをうろちょろしていたヒナが顔を上げる。
「デールお兄ちゃん? ヒナ達デールお兄ちゃんのとこで遊ぶの?」
カフェにいた時からの知り合いのうえ、お絵かき帳をもらったり頭を撫でてくれて、ヒナはデールさんにすごく懐いている。今も、遊ぶの? とワクワクした顔で訊いてくる。
「そうだ。でも今じゃない、1週間後だ。俺たちの仕事が何もない日にな。サラと話したいことがあるから半日だけデールのところにいるのは嫌か?」
「ううん、嫌じゃないよ! お兄ちゃんとデールお兄ちゃんたちで鬼ごっこと隠れんぼするー」
「そうか。テルはどうだ?」
「僕はヒナの面倒みてるから。まあ、サラさんがいいなら別に2人だけで話しても口を出すつもりはないけど……」
ヒナは元気よく了承したが、テルはコリスをどこか胡乱げな目つきで見ている。でも何も言わずにすぐにまた走り回るヒナに視線を移した。
「子供達は良さそうだな。じゃあ、今日デールに話をつけておくから明日食堂で。その時にデールも連れてくる」
「え、あ、わかった……」
途中から何も話さないのに決まってしまった……。コリスは片手をひらひらさせて食堂を出て行く。そこまでして欲しいものってなんだろう。食事中の騎士に話しかけられていたヒナを呼んで、部屋まで戻る。
部屋の前に来た時、テルに問いかけてみた。
「テルは、コリスの言っていた欲しいものってわかった? 人気があるって騎士ならやっぱり剣や防具かな」
急な質問に首を傾げていたが、私の顔を見て答えてくれた。
「いや、もっと違うものじゃない? ライバルって言ってたし。コリスさんって意外と面倒見とかいいし性格もはっきりしてて、実はカイルさんと似ているよね。なんとなく欲しいものわかったかも」
「ほんと? なんだと思う?」
なんとなくわかったというテルに聞いてみるが笑うだけで答えてくれない。そのまま自分の部屋に入ってしまった。
「教えてくれてもいいのにね、ヒナ」
苦笑しながらヒナの頭を撫でる。ヒナはうーんと考えていたが、あっと声を上げた。
「わかった! デザートのスイカだよ! さっきおしゃべりしてたときに、さっぱりしてて人気だよって食べてた人が言ってたもん! 甘いとこ一口くれたんだよ」
かわいらしい答えを聞いて和む。さっきの騎士さんはヒナにスイカをあげていたのか。しかも多分最初の一口。1番甘いところをくれたんだろう。今度会ったらお礼だけでも言っておこう。
「そっか。もしかしたらスイカだね。訓練で疲れた騎士にはご褒美だよね。今度会ったら甘いところをくれたお礼言おうね」
うん! と答えるヒナと共に、私たちも自分の部屋に入っていった。
見てて気づいたけど、色塗りって個性が出るよね。ヒナは明るい色が好きだからピンクやオレンジ、黄色とかをよく使ってる。描いてある女の子の服がカラフルで、なんだかヒナらしかった。
夕食の時も一緒に食べていたエイミーに見て見て~と腕前を披露して、そのページちょうだいって迫られていた。ちなみに食べ終わった後はデールさんとコリスにも自慢していた。
コリスはまだ少し落ち込んでいたけど、もう大丈夫そう。逆にいつかカイルさんに勝つぞってやる気を出していた。
「訓練お疲れさま」
「ああ。カイルさんはやっぱり強い。それに、あれはわざと俺を指名したんだ。自分との差を見せつけるためにな。戦った感触も本気だった。意外と大人気ない」
「カイルさんがそんなことするはずないでしょ。せっかく戦ってくれたのにアドバイス聞きに行かないの?」
急に自分が指名されたことに不満を持っているみたい。そんな意地悪なことするわけないのに。わざわざ実力を見せつけるためじゃなくて、筋がいいから一度対戦してみたかったとかじゃない?
「いや、アドバイスというより注意?……いや、警告は聞いた。俺が落とした剣を拾ってくれたときに」
「警告? なんでコリスに。何かしたの?」
「ちょっとな。噂もあながち間違いじゃなかったってことだ」
「それって私たちがここに来たって噂のこと?」
「惜しいな。もう一つ噂が流れていたが、そっちはデマだってわかったんだ。でもご本人はそうでもなかったらしい」
……いまいち言っている意味がわからない。それって、噂はデマだったけど本人からしたら嘘ではなかったってこと? 嘘ではないならデマじゃなくない?
日本語の意味がわからなくなってきたが、肝心の噂について聞く。
「どういうこと? それに噂って?」
「そんな大した話じゃない。俺とカイルさんがライバルだったってことだ。でも、剣では負けたけどこの勝負は勝つつもりだ。こんなに興味を持ったのは久しぶりだから」
「欲しいものが被ったの? カイルさんと同じものが欲しいだなんて趣味似てるのね」
「ああ。でもかなり人気があるから早く手に入れないといけない。横から掠め取られても最悪だからな。これから策を練って俺のものにするよ」
話しながらながら私の目をじっと見つめてきた。力のこもった瞳がその感情を物語っている。そんなに人気なもの? 新しい剣や防具? それくらいしか思いつかない。
まあ、私にできることがあったら手伝おう。
「何か手伝って欲しいことがあったら言って。役に立たないと思うけど、少しなら力になれるかもしれないから」
「ほんとか?」
「え? うん。手伝うくらいなら」
私の言葉に、ふと何か思いついたように顎に手を添える。コリスはうっすらと笑みを浮かべると提案をしてきた。
「それじゃあ話し相手になってくれないか? ちょうど1週間後は警備の当番でもないし、訓練もない。1日だらだらするしか予定がないんだ。そのときにどうしたら欲しいものが手に入るかしっかり相談したい」
「うん、いいよ。私もすることがなかったから。テルやヒナも退屈しないで済みそう」
「違う違う。テルやヒナは今回は別行動だ。話すことは他の人に知られたくない。子供だとそれを聞いたら話してしまうだろ? 特にヒナは口が軽そうだ。ライバルも多いし、2人で話したい」
「2人きりで……?」
子供達はダメだと言われて躊躇してしまう。コリスと話すくらいなら全然大丈夫だ。でもその間、子供達は部屋に置き去り? さすがに私達の部屋で相談というのはできればしたくない。
外となると、ヒナはずっと静かにしてるなんて出来ないだろうし、歩き回ってしまうと思う。もし宿舎で迷子になったり入ってはいけないところに行ったら危ないし。
相談は乗ってあげたいけど子供達のことがあるから、と断ろうとしたとき。何か思いついたようにコリスが勢いよく話し始めた。
「あ、そうだ! それなら、デールのところで預かってもらったらどうだ。人一倍テルやヒナのことを可愛がっているし、2人も懐いている。団長達の都合でその日は皆訓練がない。デールも警備は入ってないから、暇なはずだ」
すると、私たちの周りをうろちょろしていたヒナが顔を上げる。
「デールお兄ちゃん? ヒナ達デールお兄ちゃんのとこで遊ぶの?」
カフェにいた時からの知り合いのうえ、お絵かき帳をもらったり頭を撫でてくれて、ヒナはデールさんにすごく懐いている。今も、遊ぶの? とワクワクした顔で訊いてくる。
「そうだ。でも今じゃない、1週間後だ。俺たちの仕事が何もない日にな。サラと話したいことがあるから半日だけデールのところにいるのは嫌か?」
「ううん、嫌じゃないよ! お兄ちゃんとデールお兄ちゃんたちで鬼ごっこと隠れんぼするー」
「そうか。テルはどうだ?」
「僕はヒナの面倒みてるから。まあ、サラさんがいいなら別に2人だけで話しても口を出すつもりはないけど……」
ヒナは元気よく了承したが、テルはコリスをどこか胡乱げな目つきで見ている。でも何も言わずにすぐにまた走り回るヒナに視線を移した。
「子供達は良さそうだな。じゃあ、今日デールに話をつけておくから明日食堂で。その時にデールも連れてくる」
「え、あ、わかった……」
途中から何も話さないのに決まってしまった……。コリスは片手をひらひらさせて食堂を出て行く。そこまでして欲しいものってなんだろう。食事中の騎士に話しかけられていたヒナを呼んで、部屋まで戻る。
部屋の前に来た時、テルに問いかけてみた。
「テルは、コリスの言っていた欲しいものってわかった? 人気があるって騎士ならやっぱり剣や防具かな」
急な質問に首を傾げていたが、私の顔を見て答えてくれた。
「いや、もっと違うものじゃない? ライバルって言ってたし。コリスさんって意外と面倒見とかいいし性格もはっきりしてて、実はカイルさんと似ているよね。なんとなく欲しいものわかったかも」
「ほんと? なんだと思う?」
なんとなくわかったというテルに聞いてみるが笑うだけで答えてくれない。そのまま自分の部屋に入ってしまった。
「教えてくれてもいいのにね、ヒナ」
苦笑しながらヒナの頭を撫でる。ヒナはうーんと考えていたが、あっと声を上げた。
「わかった! デザートのスイカだよ! さっきおしゃべりしてたときに、さっぱりしてて人気だよって食べてた人が言ってたもん! 甘いとこ一口くれたんだよ」
かわいらしい答えを聞いて和む。さっきの騎士さんはヒナにスイカをあげていたのか。しかも多分最初の一口。1番甘いところをくれたんだろう。今度会ったらお礼だけでも言っておこう。
「そっか。もしかしたらスイカだね。訓練で疲れた騎士にはご褒美だよね。今度会ったら甘いところをくれたお礼言おうね」
うん! と答えるヒナと共に、私たちも自分の部屋に入っていった。
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