最後の君へ

海花

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直斗が家のドアを開けると、ムッっとした空気が立ち込めている。
リビングへ入ると電気を着け、エアコンのスイッチを入れる。
ソファーの前のローテーブルには母が使った化粧品が所定の場所へ戻されずあちらこちらに散らばっている。

「まったく……」

帰りにコンビニで買った夕飯を机に置くとまずそれを片付けはじめた。



見もしないテレビを着けスマホをいじりながら夕飯を食べる。
シャワーを浴びたままの髪がまだ濡れている。

「…………まず……」

箸を放り出して、コーラを飲んでソファーに寝転がると

───次は無いと思えよ……

担任の言葉が頭に蘇った。
イラついて机を蹴り、その拍子に箸が転がり落ちた。
別に人に嫌われるのは慣れている。
突然イギリスの祖父の家に預けられた時も、実の祖父以外は直斗を嫌った。
特に祖父の再婚相手は、どう見ても日本人にしか見えない直斗を最後まで嫌っていたし、学校でもまったく英語が解らない直斗はからかわれる対象となり、そこで喧嘩も覚えた。

「…………めんどくせ……」

──莉央だけいればいい…………

しばらくすると手からスマホが落ち、自分でも気付かないうちに眠りに落ちていった。



ガチャッというカギの開く音で直斗は目を覚ました。
着けたままのテレビがくだらない映像を流し続けている。
そこで初めてソファーで眠ってしまっていた事に気付いて、身体を起こし入口へと目をやった。
するとバタバタと音がして、母の美愛がリビングのドアを開けるなり倒れ込んできた。

───またかよ………………

直斗はため息をつくと放っておく訳にもいかず立ち上がり

「母さん、ほら、ベット行けよ」

と起き上がらせようとした。

「……なおとぉ!」

勢いよく起き上がったと思ったら直斗に抱きついた。

「酒くせっ!」

顔をしかめながらも母の背中に手を回し受け止め

「ほら、ベット行って寝ろよ」

優しく声をかけた。

「なおとぉ!だぁぁいすき」

そう言いながらギュッと抱きしめる。

「あーはいはい」

直斗は軽くあしらうと母を立たせ寝室まで運んだ。
吐いても良いように横向きに寝かせると、すぐに寝息を立て始めた。
夜働く母は、よく正体が分からなくなる程酔って帰ってきた。

「……この人水商売向いてないんじゃねえの……」

直斗は軽く溜息をつくと自分も部屋へ向かう。
直斗の母は20歳で結婚をして、すぐに直斗を産んだ。
しかし結婚生活は5年と続かず、母と直斗の2人暮らしになった。
若く美しい母には直ぐに恋人ができ、その度に近くに住む祖母の家に預けられた。
しかしその祖母が病気で亡くなると、今度は小5の時本当に好きな人が出来たから……と、突然イギリスの祖父の元に連れていかれたのだ。
そして中2の夏、男と別れたらしく再び母に引き取られた……。
部屋に行くと電気も付けず、ベットへ勢いよく寝転がる。

「──何が大好きだ……」

直斗の言葉が暗い部屋に解けるように消えていった……。

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