最後の君へ

海花

文字の大きさ
6 / 50

しおりを挟む
昼の暑い日差しがなんの遠慮もなく降り注ぐ。
旧校舎の非常階段の影は、それでも他に比べて少し涼しいのは周りが木で覆われているせいもあるだろう。
そして何より周りから見えづらいところも直斗がこの場所を気に入っている理由の一つだった。

「………ん……」

舌を絡める奥から甘い声が漏れる。
ワイシャツの上からでも分かるくらい形良く大きく膨らんだ胸を直斗の左手が容赦なく揉むと「……ンんっ……」と艶っぽい音に変わる。
直斗の唇がゆっくりと首筋に下りていき、細くて柔らかい肌にキスを重ねる。

「──あっ…ンん……」

艶めかしい声が漏れる。

「──もう、授業始まってるんじゃないのかな?」

突然の場にそぐわない声に女子生徒が「ひゃっ」っと声を上げ、直斗の影にかくれた。

「………今めちゃくちゃ良い所だったんだけど…」

直斗が不満げに振り向いた。

「それはすまなかったね。けど…今は授業時間のはずだよ?」

紡木がにっこりと笑う。
女子生徒は手で顔を隠すと慌てて校舎へ戻って行った。

「……森下さんじゃなかったように見えたけど…?」

「余計なお世話」

直斗が白けた様な顔をして座り込む。

「今の子は……3年生?」

「知らね。さっき告白されたばっかだもん」

昨日、結果直斗を助けた様に、コレも報告するのだろう。
庇った訳でもないが、本当に知らないのだから仕方がない。

「……告白されたばっかりでキスするの?」

紡木は表情ひとつ変えない。

「なんで?悪い?キスしてって言われたからしただけだけど?」

直斗が面倒臭そうに頭を掻いた。

「キスしてって言われたらするの?」

薄ら笑を浮かべたままの紡木にイラつきが募っていく。

「じゃあ僕がキスしてって言ったらしてくれるわけ?」

直斗は頭にカッと血が上るのが解ったが、気が付いた時には紡木の襟首を掴んでいた。

「あんた、俺をバカにしてんの?」

声も表情も穏やかだが、目の奥には怒りが見て取れる。

「バカにしているつもりはないよ。ただ……率直な疑問」

紡木も表情ひとつ変えず穏やかに答えた。
その目からも言葉からも、なんの感情も読み取れなくて調子が狂う……。

「……アホくさっ………」

直斗が手を離し校舎に向かって歩き出した。

「さっき水野先生が探してたけど?」

紡木が直斗の背中に声を掛けるが、まるで何も聞こえていないかの様に直斗は歩き続けた。


「藤井!」

水野の声と共にドタドタと重い足音が近ずいてくる。
昼休み、康平と購買へ行くところだ。
直斗が立ち止まり振り向くと、汗をびっしょりかいて息を切らした水野が目の前で止まった。

「先生ー…、少し痩せた方がいいんじゃない?この距離走っただけで死にそうじゃん」

軽口をきく直斗に殴るフリをして

「バカタレ!ずっと探してたんだ」

と走った距離はこれだけではないことを主張して笑った。
直斗はこの見るから人の良さそうな教師が嫌いではなかったし、自分を気にかけてくれていることも解っていた。

「放課後英研に来い、暇なお前に仕事をやる」

息が整うと嬉しそうに告げた。

「はぁー!?俺別に暇じゃねえからな」

「文句は言わさん。何しろお前にはこの間の『貸し』があるからな」

水野が厭らしく笑った。
やはり先日の教室から出て行った件を黙っていてくれたらしい…。

「……別に貸してくれって言ってないけど」

直斗がとぼけた様に言うと、水野は大袈裟に大きな溜息をついた。

「そうか、そうか……いよいよ森下を泣かすのかぁ…。まあ、お前がそこまで言うなら…それも仕方ないことだけどな…」

「……………………」

「泣くんだろうなぁ……。まあ…良い子だから……お前と離れたら直ぐに誰かが慰めてくれるだろぅ……。あいつの為にはその方が…」

「分かったよ!行けばいいんだろ!!」

直斗が思わず声を上げる。
莉央のことを持ち出される急に気弱になる。

「え?なんて?」

水野が耳に指を入れ掘るフリをする。

「──!!行きます!放課後行かせてください!」

水野がニヤリと笑う。

「そこまで言うなら手伝わせてやろう」

そう言って満足気に戻っていく背中を康平が声を上げて笑い直斗は恨めしそうに睨みつけた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)
BL
たとえ、君が覚えていなくても。たとえ、僕がすべてを忘れてしまっても。それでもまた、君に会いに行こう。きっと、きっと…… 帯刀を許された武士である弥生は宴の席で美しい面差しを持ちながら人形のようである〝ゆきや〟に出会い、彼を自分の屋敷へ引き取った。 生きる事、愛されること、あらゆる感情を教え込んだ時、雪也は弥生の屋敷から出て小さな庵に住まうことになる。 そこに集まったのは、雪也と同じ人の愛情に餓えた者たちだった。 そして彼らを見守る弥生たちにも、時代の変化は襲い掛かり……。 もう一度会いに行こう。時を超え、時代を超えて。 「男子大学生たちの愉快なルームシェア」に出てくる彼らの過去のお話です。詳しくはタグをご覧くださいませ!

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

死がふたりを分かつまで

やまだ
BL
生まれつき体の弱い奏(Ω)が願いを叶えるまでのお話。

交際0日婚の溺愛事情

江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。 だから緩やかに終わりを探して生きていた。 ──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。 誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。 そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。 ■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。 ■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。

落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした

444
BL
『醜い顔…汚らしい』 幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。 だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。 その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話 暴力表現があるところには※をつけております

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

処理中です...