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涼太は午前中の診察を終わらせると大きな欠伸をした。
───さすがに…夜中まで冬音夜を抱いてたのがこたえてるな……。
若い看護師がそれを見るなり
「先生、寝不足ですか?」
にっこりと微笑む。
「ちょっと昨日眠れなくてね」
涼太もそれに合わせるように優しく微笑んだ。
「なにか……心配事ですか?……それとも…デート?」
「まさか……。残念ながらデートしてくれるような良い人がいなくてね」
明らかに自分を狙っている獣の様な目付きをわざわざ煽るように、自嘲気味に笑ってみせる。
「そうなんですか!?…先生……モテるでしょぉ⁉︎」
「モテてたら今頃可愛い奥さんの手料理食べてるよ。残念ながら僕は毎日弁当生活だ」
「えー⁉︎ それじゃぁ栄養偏りますよ?」
毎日の様にくだらない会話を繰り返す。
29歳の涼太は、この病院の中では一番若い医師だ。変人か横柄な医師が多い中、涼太は至って『まとも』に見えた。看護師とも気さくに話し常識も持ち合わせている。身長も高く見た目も決して悪くない。若い看護師が挙って涼太を狙っているとしても何ら不思議は無かった。
涼太は白衣を脱ぐと一番近いコンビニへ向かった。大して食欲は無かったが気分転換を兼ねてコーヒーを買いに行きたかった。
途中、同じように昼を買いにきた看護師とすれ違い、その度に愛想良く挨拶を交わす。
寝ていない頭でイラつかない訳では無かったが、子供の頃から自分を殺すことには慣れていた。涼太の古くからの友人でも感情をむき出しにする涼太を見たことのある者は一人もいなかった。
涼太はずっとそうして生きてきた。
そうやって生きることで、自分を守ってきたのだ。
その日は珍しく定時には終わり涼太は着替えを済ませると早々と車に乗り込み冬音夜の店へ向かった。
冬音夜の店と言っても、いつもそこにいるだけで別に働いているわけでも、まして自分でやっているわけでもない。
ただそこに冬音夜がいれば買えるし、いなければ買えない。それだけのことだった。
涼太が店に着くと冬音夜の姿が無く、店のオーナーが「少し前に他の男が連れて行った」と教えてくれた。
礼を言ってチップを渡すと店の外に停めていた車に戻りタバコに火を付ける。
別に冬音夜がダメなら他を探しても良かった。金を払わなくても一晩くらいならすぐに見つかるだろう。
しかし涼太は他を探す気にならなかった。
ホテルに冬音夜を置いて出た日から四日が過ぎている。その間急患が入ったり宿直があったりとで店には行けていなかった。
『他の男が連れて行った』と言ったオーナーの言葉を思い出し、頭の隅が騒つく。自分でも気付かない内にイラついているのか、消したばかりのタバコにまた火を付ける。
———何をイラついている?…………
疲れている所為かとも思ったが、冬音夜のことを考えると余計イラつく自分に気付いた。
冬音夜が他の奴とヤっているのかと思うと気に入らない。
———あの…苦痛とも思える表情を誰かにも…見せてるのか……。それとも…俺には見せない表情で…………
そう思うとイラつきを隠せなくなる………。
涼太は自分を落ち着かせる様に深く息を吸うと、ゆっくりと車を走らせた。
店の前に高級車がゆっくりと止まった。
運転しているのは五十は過ぎているかと思われる男で、助手席には冬音夜が乗っている。
男が愛おしそうに冬音夜に口付け、何やら二、三言葉を交わしてから冬音夜は車を降り、その車が遠のくのを確認すると店と反対方向へ歩き始めた。
「よお」
突然声を掛けられ驚いたように振り向く冬音夜に涼太は片手を上げながら近付いて行った。
「『仕事』は終わったのか?」
傍まで行き冬音夜の腰に腕を回す。
「…………ええ……まぁ…………」
視線を逸らし俯きながら答えると
「そいつは良かった。次の『仕事』だ」
そう言いながら腰からゆっくりと尻へと手をズラしていく。
「……すみません…………今日はもう…………」
俯いたまま答える冬音夜に
「そう言うなよ……。今日も、倍払うよ」
涼太はにっこりと優しく微笑んだ。
───さすがに…夜中まで冬音夜を抱いてたのがこたえてるな……。
若い看護師がそれを見るなり
「先生、寝不足ですか?」
にっこりと微笑む。
「ちょっと昨日眠れなくてね」
涼太もそれに合わせるように優しく微笑んだ。
「なにか……心配事ですか?……それとも…デート?」
「まさか……。残念ながらデートしてくれるような良い人がいなくてね」
明らかに自分を狙っている獣の様な目付きをわざわざ煽るように、自嘲気味に笑ってみせる。
「そうなんですか!?…先生……モテるでしょぉ⁉︎」
「モテてたら今頃可愛い奥さんの手料理食べてるよ。残念ながら僕は毎日弁当生活だ」
「えー⁉︎ それじゃぁ栄養偏りますよ?」
毎日の様にくだらない会話を繰り返す。
29歳の涼太は、この病院の中では一番若い医師だ。変人か横柄な医師が多い中、涼太は至って『まとも』に見えた。看護師とも気さくに話し常識も持ち合わせている。身長も高く見た目も決して悪くない。若い看護師が挙って涼太を狙っているとしても何ら不思議は無かった。
涼太は白衣を脱ぐと一番近いコンビニへ向かった。大して食欲は無かったが気分転換を兼ねてコーヒーを買いに行きたかった。
途中、同じように昼を買いにきた看護師とすれ違い、その度に愛想良く挨拶を交わす。
寝ていない頭でイラつかない訳では無かったが、子供の頃から自分を殺すことには慣れていた。涼太の古くからの友人でも感情をむき出しにする涼太を見たことのある者は一人もいなかった。
涼太はずっとそうして生きてきた。
そうやって生きることで、自分を守ってきたのだ。
その日は珍しく定時には終わり涼太は着替えを済ませると早々と車に乗り込み冬音夜の店へ向かった。
冬音夜の店と言っても、いつもそこにいるだけで別に働いているわけでも、まして自分でやっているわけでもない。
ただそこに冬音夜がいれば買えるし、いなければ買えない。それだけのことだった。
涼太が店に着くと冬音夜の姿が無く、店のオーナーが「少し前に他の男が連れて行った」と教えてくれた。
礼を言ってチップを渡すと店の外に停めていた車に戻りタバコに火を付ける。
別に冬音夜がダメなら他を探しても良かった。金を払わなくても一晩くらいならすぐに見つかるだろう。
しかし涼太は他を探す気にならなかった。
ホテルに冬音夜を置いて出た日から四日が過ぎている。その間急患が入ったり宿直があったりとで店には行けていなかった。
『他の男が連れて行った』と言ったオーナーの言葉を思い出し、頭の隅が騒つく。自分でも気付かない内にイラついているのか、消したばかりのタバコにまた火を付ける。
———何をイラついている?…………
疲れている所為かとも思ったが、冬音夜のことを考えると余計イラつく自分に気付いた。
冬音夜が他の奴とヤっているのかと思うと気に入らない。
———あの…苦痛とも思える表情を誰かにも…見せてるのか……。それとも…俺には見せない表情で…………
そう思うとイラつきを隠せなくなる………。
涼太は自分を落ち着かせる様に深く息を吸うと、ゆっくりと車を走らせた。
店の前に高級車がゆっくりと止まった。
運転しているのは五十は過ぎているかと思われる男で、助手席には冬音夜が乗っている。
男が愛おしそうに冬音夜に口付け、何やら二、三言葉を交わしてから冬音夜は車を降り、その車が遠のくのを確認すると店と反対方向へ歩き始めた。
「よお」
突然声を掛けられ驚いたように振り向く冬音夜に涼太は片手を上げながら近付いて行った。
「『仕事』は終わったのか?」
傍まで行き冬音夜の腰に腕を回す。
「…………ええ……まぁ…………」
視線を逸らし俯きながら答えると
「そいつは良かった。次の『仕事』だ」
そう言いながら腰からゆっくりと尻へと手をズラしていく。
「……すみません…………今日はもう…………」
俯いたまま答える冬音夜に
「そう言うなよ……。今日も、倍払うよ」
涼太はにっこりと優しく微笑んだ。
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