記憶の海

海花

文字の大きさ
18 / 50

・・・

しおりを挟む
「大丈夫ですか?」

寝ぼけているのか熱のせいなのか、じっと自分を見つめる涼太にもう一度声を掛けた。
触っただけで熱いのが分かる程、熱が高くなっているのが素人の冬音夜でも分かった。

「……冬音夜か………」

そう言って首だけを動かし周りを見回す。

「…ここは……?」

眉をひそめた。
自分が寝ているのがお世辞にもホテルの一室とは思えない。
狭い部屋に小さなテレビと机がひとつ。そして壁にはその辺の商店街で配ってそうな数字だけが並んだカレンダー。

「俺のアパートですよ。…すごく具合悪そうで……ホテルに入るのは…どうかと思って……」

少し不満げに

「あれから…声を掛けても全然起きてくれないし……」

そう続けた。

涼太は「運ぶの大変だったんですから……」と、ブツブツと文句を言う冬音夜を不思議そうに見つめ「そうか…」と

だけ言うと再び目を閉じた。

「あ……スポドリ飲みますか?……熱下がりますよ…?」

また寝られては堪らないと、冬音夜は慌てて声をかけた。
ずっとベッドを占領されていて自分はベッドに寄り掛かり座ったままウトウトしていた。
何しろこの部屋には寝具が一人分しか無く、座布団も無ければ当然ひざ掛けの様な物も無い。
本音を言えば帰ってほしい…。
まさか熱があってセックスするとも思えない。
それなら自分といる意味もないだろう…と思える。
そして時刻はとっくに日付をまたいでいる……。

「……いや……水でいい」

目を閉じたままの涼太に

「分かりました。…………あの…手、離してもらっていいですか…?」

申し訳なさそうに引き攣った笑顔を向けた。



コップの水を一気に飲み干すと涼太は再びベッドに横になり目を閉じた。

「──え!?……あ……あの、帰った方がいいんじゃないですか……」

焦って声を掛ける冬音夜を見るでもなく返事をするでもなく涼太はただ無言で目を瞑っている。
まさか今横になったばかりで寝てるとも思えないのに、冬音夜の言葉をまるで聞こえていないかのように無言で通しているだ。

「………自分の家で寝た方が…具合も良くなると思うんですけど……」

それでも食い下がるが、相変わらず瞼ひとつ動かさない。

───無視されてる…………。

「あのっ!俺寝る場所ないんですけど!」

さすがにイラついて、思わず本音が口からついてでた。

「…俺の横で寝ればいいだろ?」

半分程瞼を開け面倒臭そうに言う涼太に

「イヤですよ!移ったらどうするんですか!?……学校あるのに……」

ついまた本音が出る。

「……お前……結構辛辣だな」

涼太は大きく目を見開くと驚いた様にそう言い、そして冬音夜の手を思い切り引いた。

「疲れがピークに溜まると熱が出る。昔からで、誰かに移ったことなんか無い」

別に怒っている訳でも、かと言って面白がっている訳でもなく、当然の様に抱きしめ

「だからお前もここで寝ろよ」

そう言って身体を少しずらして冬音夜の場所を空けた。



シングルのパイプベッドが“重量オーバーだ”とでも言いたげに、どちらかが動く度に悲鳴をあげている。

「……狭いんですけど………」

まだ不満そうにしている冬音夜に

「お前……文句ばっか言うなよ……」

涼太が呆れたように後ろから抱きしめる。
二人でベッドに入りただ一緒に横になっている。
キスも、もちろんセックスもしていない。
冬音夜も不満気にしていながら拒否する訳でもなく、大人しく涼太の腕の中に抱かれている。

「……けどまぁ……マットレスは固いな……」

ボソッと言う涼太を少しだけ振り返り

「文句があるなら帰ったらいいじゃないですか」

冬音夜がまた不満気にしている。

「別に文句は言ってない。感想を言っただけだよ」

そう言うと涼太はもう一度冬音夜を強く抱きしめた。

───固くて狭いけど……寝心地は悪くない……。

冬音夜の鼓動が肌を通して伝わってくるのも涼太を安心させた。

───こんな風に人と寝るのは何年ぶりだろう。

不意にさっき見た夢の静流の顔を思い出した。
いつでも優しく笑っている人だった。
誰からも好かれ、そのくせ自分は誰も好きにならない。
世の中の全てを、どこか軽蔑していた。
そんな事を考えていると、突然耳元でベッドがギシギシと悲鳴を上げ、冬音夜がこちらを向いた。
しかしそれは意図的なものではなく、寝返りだとすぐに気付いた。
子供の様に薄らと口を開け寝息を立てている。

───もう寝てるよ…………

安心したように眠る顔を見つめ、微かに笑うと涼太もゆっくり瞼をとじた。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...