ロザリオと嗅ぎ煙草

柿崎まつる

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助手マティアス(1)

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 一週間後に死刑執行を控えた相手に、閨の相手をしてくれとは頼めない。預かって三日目に寝室を訪れたことが、そもそもの間違いだったのだ。三日目の晩から七日目の朝までのセックス三昧も間違いだった。九日目の朝食後、ギーゼラが部屋で本を読むクリストフのところへ来た。

「最期まで、傍に居てください」
「わかった。傍には居る」

 その返事は、ギーゼラのお気に召さなかったようだ。昨晩、部屋を訪れなかったことも、気に入らない様子で、細い肩を怒らせて、クリストフを睨み付ける。
 そうしていると王女然として、なるほど見惚れる立ち姿だった。

「クリストフ様は私の事、もう抱いてくれないのですか?」
「……そうだ。最初から間違いだったんだ」
「私の身体に、もう飽きたんですか?」

 嫁入り前の娘が何てこと言うんだ。しかも、なんてチープな物言いだ。いや、それ以前に言わせているのは自分だった。


──俺は、なんて馬鹿なんだ。
クリストフは身体を折って背中を丸めた。顔を両手で覆うと、溜息が出た。

「……飽きるとか、そういう問題じゃないだろう」
「じゃあ、最期の一週間をアンニュイに過ごせと言うんですか?何のために?」
「何のためって……、お前は怖くないのか?」
「怖いです、怖いに決まっているじゃないですか」

 ギーゼラは開き直った。

「じゃあ、なんでだ」
「十五の時から、死を意識しない日はありませんでした」
「……そうなのか?」

 恰も初めて聞く様なクリストフの言葉に、ギーゼラは柳眉を顰める。

「もちろんです」
「そうか、それは知らなかった」
「……決行の話はショックでしたが、もう大丈夫です。務めは無事に果たせます」

 淡々と言葉を紡ぐ彼女に、クリストフは肩を落とした。結局、彼はギーゼラの死刑宣告に本人以上のショックを受けているのだ。ショックを受けていることにもショックを受けて、深く落ち込み自らの行動に後悔した。繋がりを持ったのは自分からだったのに、その繋がりが切れなくて驚愕する。
なのに、相手の全てを受け入れることが出来ない。望んで死へと向かおうとしている、ギーゼラの決意を彼は受け止めることが出来ない。
 だから、彼女から逃げようとしているのだ。

「臆病者だと言われても構わない。俺を人でなしにさせないでくれ」
「……わかりました」

 ギーゼラは腹立ちまぎれに、部屋を出て行った。そのまま、放っておけばよかったのに、クリストフは気になって後をつけ、彼女の部屋を覗いてしまう。予想通り、祈祷台に膝を着いていた。そして、あの瑪瑙のロザリオを指に掛けていた。ぶつぶつと唱えられる祈りは雑念だらけで、とても天まで届きそうはない。

 だが、覗いているクリストフの機嫌が悪くなることには違いない。ギーゼラが荒れた心を次第に落ち着け、祈りの声が一定となる頃、反比例して彼の苛々は頂点に達した。
 静かに過ごせというものの、ギーゼラが祈る姿を見るのは嫌で、矛盾している。

「きゃあ、クリストフ様!何をするんです?」

 彼女が驚くのは当然で、いきなり男が部屋に入ってきて、スカートを尻までまくり上げられたからだ。


「抱けと言われたから、その通りにするだけだ」

 立ち上がろうとするギーゼラを押さえつけ、ドロワーズを引き下ろした。皓く輝く小さな尻が現れる。ギーゼラがロザリオを落とすと、それは冷たい床を滑って、寝台の下に隠れてしまった。彼はほくそ笑み、前立てを外す。
 ギーゼラが慌てて、後ろを振り向いた。

「待って、クリストフ様、いきなりは……」
「いやああ、痛いっ……抜いてぇ!」

 ギーゼラは祈祷台に縋り付いて、痛みに耐えていた。膣も嫌がり、侵入物を除去しようとぎゅうぎゅう締め出してくる。クリストフは、処女を無理矢理犯している錯覚に陥った。伸し掛かって、左手で腰を固定する一方、右手を前に回す。陰唇を指ではじいてやると、次第に中の滑りが良くなった。

「はぁ、ああ……ああ……ん」
「濡れてきたぞ。お前は、ただ突っ込まれても感じるのか? 糞王もそれで垂らし込んだのか?」
「ちがっ、いやあああ、……クリストフ様! もう、やめて……」

 ギーゼラは滂沱の涙を流し、慈悲を乞うている。この女はすぐ泣いて、平気で人の心を弄び、最後には捨てる。
残酷な生き物ほど美しい姿をし、心を持たない。白磁の様に人を惹きつけるが、その薄い生地の下はもちろん空洞だ。

「お前、俺がロザリオを見ると機嫌が悪くなることを知って、わざと見せていたな。とんだ悪女だ。俺のことを翻弄して喜び、俺の心に土足で入り込み、掻きまわし、空っぽにして、後は知らんふりだ。お前の道連れに俺の心まで持って行くつもりか?」
「く、あ……私がいなくなったら、幸せに生きて、欲しいです……」
「お前は、俺の姉と同じだ。気まぐれで優しくし、最後まで面倒を見ない。今の俺には傷痍軍人の気持ちの方がよく分かる」

 律動の間隔を狭くして、ギーゼラの中を荒らす。彼が何度も躾けたせいか、蜜液が滴るほど湧いてきた。

「ん、クリストフ様、いや、です。……堪忍して、ください……」

 だが、いつもの様に蕩け切った声にならない。落ちないギーゼラに彼は苛立った。

「俺はお前が心底憎い」
 
 ギーゼラがその身を強張ら、膣穴までぎゅっと締めてくる。自分の言葉一つで顔色を変える姿をとるに足らないと思う。相手は元王女でもなければ、稀代の淫婦でもない。可愛い、ただの女だ。

「俺の種を欲しがる癖に、育てようとする意思もない。ほら、ママゴトに付き合ってやるよ」

 言うや否や、クリストフは彼女の片足を持ち上げる。ドロワーズが床に落ちた。烏の濡れ羽色に光る下生えとピンクの花唇が露わになり、ギーゼラは慌てて、祈祷台に掴まった。
 彼は、不安定な姿勢に怯える女を睥睨し、滅茶苦茶に腰を振りたてる。

「きゃああああ、……いや、はげしっ……やめてぇ」

 彼女は泣き喚いていた。温室育ちで、身体的な衝撃に弱い。

──ざまあみやがれ。

「あ、あ……クリストフ様……、やさしく、して……いやぁ」

 彼はギーゼラの懇願を無視し、己の絶頂に集中した。嫌がる割には女も感じていて、逸物をぎゅうぎゅうと締め上げてくる。

「は、ああああああ!」
「……くっ、……はぁ……」

 二人は同時に達した。心が通わなくても、身体の相性は良いままだ。達った後のギーゼラの中は、ぬったりと彼を包みこんで心地よくて、一回ではとても足らない。
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