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6.嫌がらせの犯人
しおりを挟むその日の夜のこと。
部屋で一人ご飯を食べていると、使用人のクルリが躊躇しながら待ちに待った情報を教えてくれた。クルリはアリーチ付きで、いつもそばにいるメイドである。
「アリーチお嬢様……その申し上げづらいのですが……。」
「なーに?」
ヴァンブリード家の人間にとって良くないこと。それは、私にとって、良い知らせである可能性がすこぶる高い。
「ラウラ・アップルの意識が戻ったようです。」
神妙な顔でクルリは私に伝える。
「わ――――い!」
私は喜びのあまりクルリの両手を掴んだ。
「お嬢様……よろしいのですか?」
心配そうな顔で、私を覗き込むクルリ。
――一人の命が救われたんだから、もっと喜ばないとだめだよ?
ラウラの嫌われように、私は肩をすくめる。この子だけじゃなくて、多分みんなが、私に死んでほしいと思っていたんだろうな。
「良いことに決まってるじゃん!」
私は胸を張って答えた。
「でも……このままだとお嬢様は……。」
言葉を詰まらせたクルリに、私は満面の笑みを浮かべた。
「婚約破棄でしょ?最高じゃん!」
私は両こぶしを握り締めた。もしもラウラの意識が戻らなかったら、アリーチが再びリッカルドの婚約者になるところだったのだ。
せっかく生まれ変わったのに、同じ運命をたどるなんてまっぴらごめんだ。
「え……と?あの、それではその毎日の嫌がらせはどうしましょうか?」
使用人は戸惑いの表情を浮かべながら、とんでもないことを言いだす。
「嫌がらせ……。何をしていたか教えて?」
私はため息をついて使用人の言葉を待つ。
「その……ラウラの部屋に芋虫を送ったり……。ラウラの服をびしょ濡れにしたり……。」
過去の嫌がらせの数々が、頭をよぎる。やはりアリーチが私への嫌がらせを主導していたんだ……。
「あんたらの仕業だったんだね。あとは?」
「脅迫文を送りつけたり……毎日するようにとアリーチ様に言われていたのは、この3つです。」
クルリは震えながら答える。アリーチは癇癪持ちな子だった。クルリにひどく当たっているところを何度も見たことがある。命令に従わないわけにはいかなかったんだろう。
「それだけ?もっとこう、暴力的なこともしてたじゃん!」
――バルコニーから突き落とされそうになったり、柱が私に倒れるように細工されたりしたんだけど!?
「おそらくそれは、ご当主様によって行われていたことかと!」
クルリは顔を真っ青にして答える。当主様とは、ヴァンブリード伯爵のことである。
「ううう。最低……とにかく全部やめてね!」
アリーチは怒りを込めて召使いに命じる。
「いいのですか……?」
「もちろん!ラウラへの嫌がらせは今後一切やめること!もしも見つけたら、許さないからね!」
私がアリーチになったからには、これ以上誰も傷つけることは許さない。
「お嬢様……。」
クルリは泣きそうな顔をしている。彼女たちにとって、アリーチがリッカルドと婚約することは至上命題なのかもしれないけれど……私には全く関係のない話だ。
「とにかくあたしはリッカルドとの婚約破棄に満足してるの!婚約破棄撤回は絶対に認めません!」
せっかく婚約破棄された悪役令嬢に生まれ変わったんだ。この状況を手放してたまるか!
◇◇◇
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