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16. 心の底から愛している女がいる
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Side ティーナ
「さらに、君が一定の期間ブレイブと夫婦でいてくれるならば、借金を肩代わりしてやってもいい。どうだ、悪い話ではないだろう?」
この男は借金を脅しに、私とブレイブを無理やり結婚させようとしているのだ。
(馬鹿にしてる。)
「そうは思いません」
声が震える。
「なぜ私なのですか?もっと"ふさわしい"女性がいるはずです」
「儂もそう思う。」
ブレイブの父は表情を変えない。
「だが、ブレイブはこれまで誰とも結婚しようとしなかったのだ」
「ブレイブ様はきっと、私とも結婚しないでしょう」
「いいや。ブレイブに借金取りの話をすれば、きっとあいつは君との結婚に応じるはずだ。もし拒めば、明日には君は借金取りに連れて行かれるだろうからな。
…そういう甘さがある男だ。」
ブレイブの父は、借金取りに通じているのではないか、直感的にそう思った。
「……脅しですか?」
と問いかけると、ブレイブの父は冷ややかに笑った。
「いいや。父としての親心だよ。さあ、儂は忙しい。さっさと選んでくれぬか?」
ブレイブは再び床をこんこんと叩いた。部屋に風が吹き、窓がガタガタ揺れる。…ブレイブの父が持つ魔法かもしれない。
「これから先の人生、ずっと借金取りに追われ続けて破滅の道を選ぶか、それともブレイブと結婚して平穏に暮らすか――答えは簡単なはずだ」
(どうしたらいいんだろう?)
追われる生活にはもう疲れ果てている。しかし、ブレイブと結婚するなんて――その考えは恐れ多く、現実的ではない。ブレイブ自身が結婚を望んでいないのは明らかだ。…私が何を言おうと、ブレイブがちゃんと結婚を断ってくれるはずだ。
「……わかりました。ブレイブ様が納得するなら」
私は小さな声で答えた。
ブレイブの父は「よろしい」と満足げに言う。どこか冷ややかな顔つきに私は嫌悪感を覚えた。
彼は杖を持って立ち上がり、借金取りが写る写真を懐にしまいながら私を見降ろした。その目はひどく冷たく、息子の結婚相手に向けるものとは思えない。
「このことを口外することは許さん。ヴィギルト家の信用を落とすようなことを少しでもしたら…命はないと思え。」
この契約には何か裏がある、そう確信した。だが、他に選択肢がないのも事実だ。借金取りたちは私を追ってどこまでも来るだろう。お金もない中で、ブレイブにこれ以上迷惑をかけるわけにもいかない。
ともかく、まずはブレイブの父がいなくなった後に、今後のことを考えようと心に決めた。
「私は、どうすればよいですか?」
「何もする必要はない」
ブレイブの父は振り返りもしない。
「おそらく、そう遅くないうちにブレイブが君に結婚を申し込みに来るだろうよ」
(そんなわけあるか)
そう思ったけれど、表情には出さなかった。この男を前にして、私の表情がどうしても固くなるのは、かつての養父を思い出させるからだろう。厳しく、冷酷で、私に支配的な態度だった、彼に似ている。
「かしこまりました」
「ああ、あと一つ、君に伝えておかねばならぬことがある」
「なんでしょう?」
「ブレイブが誰とも結婚しようとしない理由だ」
「その理由が分かっているのですか?」
私の声は自然と高くなった。ブレイブの父は小さなため息をつく。
「なんとも不幸で、単純な理由だ」
ブレイブの父はニヤリと笑う。
「ブレイブには、心の底から愛している女がいる。その女がいる限り、息子は他の誰とも結婚しようとせん」
「…愛してる人がいるのに……。」
「だが、その女は”今のところは”決してブレイブの手には入らない。にもかかわらず、哀れにも息子はその女を愛し続けている」
ブレイブの父は冷ややかに言った。
「そう、なのですね」
なんとか相槌を打つ。ブレイブの父の言葉を聞いていると、頭が痛くなってくる。なぜこの人は、ほかに好きな女性がいる息子をほかの女性と結婚させようとしているのか。
「その女の名前はリリーだ。リリーとブレイブは幼馴染で、かつての婚約者だった」
「リリー様、ですね」
私はおうむ返しに答えた。その名前は噂で聞いたことがある。確かブレイブ様は…リリーの夫を殺した疑惑があるんじゃなかったっけ…。
「そうだ。ブレイブの機嫌を損ねたくなければ、何をされてもリリーに歯向かおうとしないことだな」
「…わかりました。」
「"幸運にも"リリーは、もうすぐブレイブと結婚できる。ただ、今は…よからぬ噂が2人を隔てておる。お前は時間稼ぎのために、ブレイブと結婚するのだ。」
そう言い残し、ブレイブの父はその場を去っていった。
(めちゃくちゃだ…。)
私はただ黙ってその場に立ち尽くした。ブレイブの父の行動を、上手く受け止めることができない。
(ブレイブには好きな人がいる)
けれど、その一方で彼の父は私とブレイブを結婚させようとしている。この行動が果たして親心からくるものなのだろうか…そうは思えないけど。
「公爵様、お帰りになったけれど…だいじょうぶかい?」
「ありがとう…ございます。」
部屋から出てこない私を心配して、ミミさんが私に声をかけた。
「ヴィギルト公爵はさ…その…厳しいところがある人だから、あまり気にしないんだよ。」
ミミさんの銀色の瞳はブレイブの父と同じ色だが、その雰囲気は全く異なる。
(ここから立ち去らなければならないのかもしれない)
逃げる場所も資金もない。どこへ行けばいいのか分からない。だけど、ブレイブもミミさんも私のせいで不幸にしていいはずがない。
****
「さらに、君が一定の期間ブレイブと夫婦でいてくれるならば、借金を肩代わりしてやってもいい。どうだ、悪い話ではないだろう?」
この男は借金を脅しに、私とブレイブを無理やり結婚させようとしているのだ。
(馬鹿にしてる。)
「そうは思いません」
声が震える。
「なぜ私なのですか?もっと"ふさわしい"女性がいるはずです」
「儂もそう思う。」
ブレイブの父は表情を変えない。
「だが、ブレイブはこれまで誰とも結婚しようとしなかったのだ」
「ブレイブ様はきっと、私とも結婚しないでしょう」
「いいや。ブレイブに借金取りの話をすれば、きっとあいつは君との結婚に応じるはずだ。もし拒めば、明日には君は借金取りに連れて行かれるだろうからな。
…そういう甘さがある男だ。」
ブレイブの父は、借金取りに通じているのではないか、直感的にそう思った。
「……脅しですか?」
と問いかけると、ブレイブの父は冷ややかに笑った。
「いいや。父としての親心だよ。さあ、儂は忙しい。さっさと選んでくれぬか?」
ブレイブは再び床をこんこんと叩いた。部屋に風が吹き、窓がガタガタ揺れる。…ブレイブの父が持つ魔法かもしれない。
「これから先の人生、ずっと借金取りに追われ続けて破滅の道を選ぶか、それともブレイブと結婚して平穏に暮らすか――答えは簡単なはずだ」
(どうしたらいいんだろう?)
追われる生活にはもう疲れ果てている。しかし、ブレイブと結婚するなんて――その考えは恐れ多く、現実的ではない。ブレイブ自身が結婚を望んでいないのは明らかだ。…私が何を言おうと、ブレイブがちゃんと結婚を断ってくれるはずだ。
「……わかりました。ブレイブ様が納得するなら」
私は小さな声で答えた。
ブレイブの父は「よろしい」と満足げに言う。どこか冷ややかな顔つきに私は嫌悪感を覚えた。
彼は杖を持って立ち上がり、借金取りが写る写真を懐にしまいながら私を見降ろした。その目はひどく冷たく、息子の結婚相手に向けるものとは思えない。
「このことを口外することは許さん。ヴィギルト家の信用を落とすようなことを少しでもしたら…命はないと思え。」
この契約には何か裏がある、そう確信した。だが、他に選択肢がないのも事実だ。借金取りたちは私を追ってどこまでも来るだろう。お金もない中で、ブレイブにこれ以上迷惑をかけるわけにもいかない。
ともかく、まずはブレイブの父がいなくなった後に、今後のことを考えようと心に決めた。
「私は、どうすればよいですか?」
「何もする必要はない」
ブレイブの父は振り返りもしない。
「おそらく、そう遅くないうちにブレイブが君に結婚を申し込みに来るだろうよ」
(そんなわけあるか)
そう思ったけれど、表情には出さなかった。この男を前にして、私の表情がどうしても固くなるのは、かつての養父を思い出させるからだろう。厳しく、冷酷で、私に支配的な態度だった、彼に似ている。
「かしこまりました」
「ああ、あと一つ、君に伝えておかねばならぬことがある」
「なんでしょう?」
「ブレイブが誰とも結婚しようとしない理由だ」
「その理由が分かっているのですか?」
私の声は自然と高くなった。ブレイブの父は小さなため息をつく。
「なんとも不幸で、単純な理由だ」
ブレイブの父はニヤリと笑う。
「ブレイブには、心の底から愛している女がいる。その女がいる限り、息子は他の誰とも結婚しようとせん」
「…愛してる人がいるのに……。」
「だが、その女は”今のところは”決してブレイブの手には入らない。にもかかわらず、哀れにも息子はその女を愛し続けている」
ブレイブの父は冷ややかに言った。
「そう、なのですね」
なんとか相槌を打つ。ブレイブの父の言葉を聞いていると、頭が痛くなってくる。なぜこの人は、ほかに好きな女性がいる息子をほかの女性と結婚させようとしているのか。
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「リリー様、ですね」
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「そうだ。ブレイブの機嫌を損ねたくなければ、何をされてもリリーに歯向かおうとしないことだな」
「…わかりました。」
「"幸運にも"リリーは、もうすぐブレイブと結婚できる。ただ、今は…よからぬ噂が2人を隔てておる。お前は時間稼ぎのために、ブレイブと結婚するのだ。」
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(めちゃくちゃだ…。)
私はただ黙ってその場に立ち尽くした。ブレイブの父の行動を、上手く受け止めることができない。
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けれど、その一方で彼の父は私とブレイブを結婚させようとしている。この行動が果たして親心からくるものなのだろうか…そうは思えないけど。
「公爵様、お帰りになったけれど…だいじょうぶかい?」
「ありがとう…ございます。」
部屋から出てこない私を心配して、ミミさんが私に声をかけた。
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ミミさんの銀色の瞳はブレイブの父と同じ色だが、その雰囲気は全く異なる。
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