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15.ブレイブと結婚してくれ
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Side ティーナ
私は小さな部屋に案内され、ブレイブの父と向かい合って座っていた。彼が人払いをお願いしたため、部屋には私たち二人だけ。
”ヴァレンティーナ・ソフィナ” それは、私が一時期用いていた歌手としての芸名である。だがヴァレンティーナと呼ばれることは少なく、見に来てくれるお客さんたちは、愛称のティーナと呼んでいた。だから結局、ティーナ・ダルトンに名前を戻したんだけど…それにしてもなぜブレイブの父は、私の歌手としての名前を知っているのだろう?
「知っている。ヴァレンティーナ・ソフィナとしての名は捨てたのか?」
「…え、ええ。」
歌が歌えなくなったときに、師匠の名前を背負っているから歌えないのではないかとアドバイスしてくれた人がいたから、改名したのだ。まぁ…効果はなかったんだけど。
(あぁ、空気が重い…)
「初めまして。トール国から来たティーナ・ダルトンと申します。ブレイブ様には大変お世話になっていて……」
「知っている。」
ブレイブの父は私の言葉を遮り、冷ややかな視線を向けてきた。
(怖い顔…養父に少し似てる。)
「そう…ですか」
(なぜブレイブ様の父が私のことを知っているのだろう?)
「ティーナ・ダルトン」
「はい、なんでしょうか?」
思わず身を縮めた。嫌な予感がする。
ブレイブの父は、仏頂面のまま言った。
「単刀直入に言おう。ブレイブと結婚してくれぬか?」
「え……?」
思わず息を呑んだ。なぜ彼が私にそんなことを言うのか理解できない。
「嫌か?」
ブレイブの父は、わずかに眉間に皺を寄せる。おそらくブレイブの父は、私がブレイブの恋人だと勘違いしているのだろう。私は姿勢を直して、言った。
「いえ、そういうわけではありませんが、公爵様は何か誤解されているようです。私はブレイブ様の恋人ではありません。ただ、助けていただいただけで……」
「知っている」
ブレイブの父は再び私のさえぎり、続けた。
「息子には長いこと親しい女性の影がない。結婚するように言っても聞く耳を持たん」
ブレイブは27歳だが、結婚もしていなければ婚約者もいないらしい。この国の公爵家の跡取りが未婚でいるのは珍しいこと。なぜならば、結婚しなければ公爵家を継ぐことができないのだ。だが、ブレイブは結婚を頑なに拒んでいるらしい。
「ではなぜ私に、ブレイブ様との結婚を求めるのですか?」
「君を守るためなら、ブレイブも結婚に応じるかもしれんと思ってな」
ブレイブの父は淡々と言葉を続ける。
「助けていただいたことでさえ、返しきれないほどの恩をいただいています。これ以上のことは望んでいません」
私の言葉に、ブレイブの父の顔が歪み、鋭い声が響く。
「大切なのは君の気持ちではない。ブレイブにはさっさと結婚して、公爵家を継いでもらわねばならんのだ」
「私は、ブレイブ様の気持ちを無視して結婚するつもりはありません」
ブレイブの父は長いため息をつくと、懐から一枚の写真を取り出し、私に見せる。その写真には見覚えのある顔が写っていた――私を追いかけてきた借金取りの男だ。
「……どうしてこの写真を……」
「どうやら君は借金を踏み倒してこの国に逃げてきたらしいな」
ブレイブの父は杖をこんこんと床に突き、さらに言葉を続ける。
「儂は関係ないかもしれんが、ブレイブのことをすでに君は巻き込んでいるのだ。そうじゃろう?」
その言葉に反論しようとした。だが確かに、私はブレイブを巻き込んでいる。出てくるのは苦し紛れの言葉だけだった。
「ブレイブ様に迷惑をかけるつもりはありません……」
「この男たちはすでに君の居場所に気づきつつある。だからこそ、この国まで来ているのだ。むしろ儂に感謝してほしいくらいだな」
「感謝……?」
「儂は君が借金とりから逃れる手段を提示しているのだよ」
「どういう意味ですか……?」
ブレイブの父は、やれやれとため息をつく。
「お前は頭が悪いのか?儂はお前に何と言った?」
「ブレイブ様と……結婚してほしいと……」
「そうだ。もしも君がブレイブと結婚してくれるならば、儂が一時的に借金取りを追い払ってやろう。」
「…追い払う…?」
「さらに、君が一定の期間ブレイブと夫婦でいてくれるならば、借金を肩代わりしてやってもいい。どうだ、悪い話ではないだろう?」
私は小さな部屋に案内され、ブレイブの父と向かい合って座っていた。彼が人払いをお願いしたため、部屋には私たち二人だけ。
”ヴァレンティーナ・ソフィナ” それは、私が一時期用いていた歌手としての芸名である。だがヴァレンティーナと呼ばれることは少なく、見に来てくれるお客さんたちは、愛称のティーナと呼んでいた。だから結局、ティーナ・ダルトンに名前を戻したんだけど…それにしてもなぜブレイブの父は、私の歌手としての名前を知っているのだろう?
「知っている。ヴァレンティーナ・ソフィナとしての名は捨てたのか?」
「…え、ええ。」
歌が歌えなくなったときに、師匠の名前を背負っているから歌えないのではないかとアドバイスしてくれた人がいたから、改名したのだ。まぁ…効果はなかったんだけど。
(あぁ、空気が重い…)
「初めまして。トール国から来たティーナ・ダルトンと申します。ブレイブ様には大変お世話になっていて……」
「知っている。」
ブレイブの父は私の言葉を遮り、冷ややかな視線を向けてきた。
(怖い顔…養父に少し似てる。)
「そう…ですか」
(なぜブレイブ様の父が私のことを知っているのだろう?)
「ティーナ・ダルトン」
「はい、なんでしょうか?」
思わず身を縮めた。嫌な予感がする。
ブレイブの父は、仏頂面のまま言った。
「単刀直入に言おう。ブレイブと結婚してくれぬか?」
「え……?」
思わず息を呑んだ。なぜ彼が私にそんなことを言うのか理解できない。
「嫌か?」
ブレイブの父は、わずかに眉間に皺を寄せる。おそらくブレイブの父は、私がブレイブの恋人だと勘違いしているのだろう。私は姿勢を直して、言った。
「いえ、そういうわけではありませんが、公爵様は何か誤解されているようです。私はブレイブ様の恋人ではありません。ただ、助けていただいただけで……」
「知っている」
ブレイブの父は再び私のさえぎり、続けた。
「息子には長いこと親しい女性の影がない。結婚するように言っても聞く耳を持たん」
ブレイブは27歳だが、結婚もしていなければ婚約者もいないらしい。この国の公爵家の跡取りが未婚でいるのは珍しいこと。なぜならば、結婚しなければ公爵家を継ぐことができないのだ。だが、ブレイブは結婚を頑なに拒んでいるらしい。
「ではなぜ私に、ブレイブ様との結婚を求めるのですか?」
「君を守るためなら、ブレイブも結婚に応じるかもしれんと思ってな」
ブレイブの父は淡々と言葉を続ける。
「助けていただいたことでさえ、返しきれないほどの恩をいただいています。これ以上のことは望んでいません」
私の言葉に、ブレイブの父の顔が歪み、鋭い声が響く。
「大切なのは君の気持ちではない。ブレイブにはさっさと結婚して、公爵家を継いでもらわねばならんのだ」
「私は、ブレイブ様の気持ちを無視して結婚するつもりはありません」
ブレイブの父は長いため息をつくと、懐から一枚の写真を取り出し、私に見せる。その写真には見覚えのある顔が写っていた――私を追いかけてきた借金取りの男だ。
「……どうしてこの写真を……」
「どうやら君は借金を踏み倒してこの国に逃げてきたらしいな」
ブレイブの父は杖をこんこんと床に突き、さらに言葉を続ける。
「儂は関係ないかもしれんが、ブレイブのことをすでに君は巻き込んでいるのだ。そうじゃろう?」
その言葉に反論しようとした。だが確かに、私はブレイブを巻き込んでいる。出てくるのは苦し紛れの言葉だけだった。
「ブレイブ様に迷惑をかけるつもりはありません……」
「この男たちはすでに君の居場所に気づきつつある。だからこそ、この国まで来ているのだ。むしろ儂に感謝してほしいくらいだな」
「感謝……?」
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「どういう意味ですか……?」
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「お前は頭が悪いのか?儂はお前に何と言った?」
「ブレイブ様と……結婚してほしいと……」
「そうだ。もしも君がブレイブと結婚してくれるならば、儂が一時的に借金取りを追い払ってやろう。」
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