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第十七話:セラの夢
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指輪を眺めてぼうっとしているうちに、日が沈み、夕方になっていた。
「セラー!晩御飯じゃぞー!」
ドアの向こうからロージィの声が聞こえてくる。
(もうそんな時間か。)
セラはテーブルの上の指輪を小さな子袋の中に入れる。
(いつか返すときまでに、無くすわけにはいかないものね。)
心の中で少し言い訳を考えながら、セラはその子袋をポケットの中に入れた。なんとなく、その指輪から遠ざかるのが嫌だったのだ。
テーブルの上には、美味しそうな料理がならんでいる。ロージィが作ってくれたのだ。セラを引き取り魔法騎士団を引退したロージィは、まるでセラの母親のようにあれこれと世話を焼いてくれている。
「さあ、食べよう。」
陽気な笑顔を浮かべるロージィ。つくづく、引き取ってくれたのがロージィでよかった。
「ユリウスと何があったんじゃあ?」
ロージィはにやにやと笑いながら、セラに尋ねる。何かあったとばれている。こうなれば、ロージィは聞きだすまで納得しないだろう。世話焼きなのは良いのだが、少々おせっかいなところもなるのだ。
「それは……。」
セラは口ごもる。
「さあさ、師匠に教えるんじゃあ。儂はセラの4倍以上生きとるのだ。良い助言ができるに違いないのだあ。」
(どうしよう。恥ずかしいけれど……誰かに聞いてほしいわ……。)
ユリウスのことを相談する相手にロージィ以外思いつかなかった。そもそもセラが心を許している相手は、ユリウスとロージィしかいないのだから。
「ユリウスに好きだと言われ……結婚してほしいと言われました。」
「ついにか。」
「知ってたのですか?」
ロージィはゆっくりと頷いて、水を一口飲んだ。
「ああ。ユリウスの気持ちはずっと知っていた。」
「ずっと……いつからユリウスは……?」
セラを好きだったのか。最後まで尋ねられず、セラは俯いた。
「かっかっか。いつからじゃろうなあ。儂は、最初からだと思うんじゃ。」
「最初から……?」
「うむ。ユリウスはセラに初めてあった時からずっとセラを好きであったし、守ると決めておったのじゃよ。」
「そんなわけ……だって私、ユリウスと会った時はもっとずっと小さくて……。」
「けしからん奴だが……一途なことは間違いなかろうなぁ。」
ロージィは楽しそうに笑って、パンを口に放りこむ。
「私は……どうすればいいのでしょう?」
「セラの思う通りにすればいいのじゃよ。」
「私は……ユリウスの求婚を断わるつもりです。」
「そうかそうか。セラがそうしたいなら、それが良いんじゃよ。」
セラは驚いてロージィを見た。
「師匠はユリウスと私に結婚してほしいのだと思っていました。」
師匠はユリウスにもセラと同じくらい沢山の愛情を注いでいた。そんな師匠ならば、セラに考えなおすように説得するかもしれないと間がていたのだ。
「かっかっか。そんなことはないじょ。振られたユリウスをなぐさめるだけじゃあ。大切なのはセラの気持ちだからのう。」
ロージィの言葉に、セラは少し考えこんだ。
(私は……何を望んでいるのだろう。)
ユリウスと結婚したくないし、子供も欲しくない。だが、ユリウスの傍を離れるのは嫌だった。彼から渡された指輪も、手放すことができないほどに。
「どうすれば、良いのでしょう……。」
セラは呟く。
「ゆっくり考えるんじゃよ。難しいことは考えずに、ユリウスに好きだと言われたときにどう感じたかを考えると良いのじゃあ。」
まるで恋愛マスターのように、ロージィはセラにアドバイスした。
「師匠は、誰かに求婚したことがあるのですか?」
セラの突然の質問に、ロージィはむせた。
「ごほっごほごほっっ。」
「師匠?大丈夫ですか?」
「う、うむむ。求婚、なあ。儂は誰にも求婚はしたことがないのう。」
「そうなんですか。」
「し、しかしな!儂は若いころモテたのだぞ!いつも女の子たちは儂を追いかけておってな!」
「それでも、師匠は誰のことも好きにならなかったのですか?」
「いいや。儂にも好きな人はおったぞ。ただのう、儂が一緒に入れる人じゃなかったんじゃ。だから、いつも遠くから見てな、それで満足しておったのじゃよ。」
セラはロージィの好きな人の話を初めて聞いた。ロージィは結婚しておらず、子供もいない。
(師匠にも想い人がいたんだ。)
セラにまじまじと見つめられて恥ずかしくなったのか、ロージィは立ち上がった。
「ともかく、自分の気持ちを大切にするんじゃ。ユリウスはただ、セラの傍にいたいだけの単純な男じゃ。それを忘れるんじゃないぞ!」
お皿をもって、キッチンに向かうロージィをぼんやり眺めて、セラ考える。
セラには二つ夢がある。絶対に叶わない夢と、叶えたい夢。
叶わない願いは”両親を生き返らせること”だ。いつか両親に会えたら、彼女が受け継いだ魔力で、沢山の人を救ったのだと伝えたかった。
(そんなの、叶うはずないのよね。)
セラは温かいスープを一口飲む。
もう一つの叶えたい夢は、ユリウスが幸せになること。誰もを不幸にしたセラの魔力で救えた人。ユリウスの存在はセラの支えだった。両親の悲劇を思い出して苦しくなっても、ユリウスがいれば、魔法使いでよかったと思えた。
(どうすればユリウスを幸せにできるんだろう。)
セラはユリウスの傍にいたい。だけど、それがユリウスの幸せになるのか、セラにはわからなかった。
「セラー!晩御飯じゃぞー!」
ドアの向こうからロージィの声が聞こえてくる。
(もうそんな時間か。)
セラはテーブルの上の指輪を小さな子袋の中に入れる。
(いつか返すときまでに、無くすわけにはいかないものね。)
心の中で少し言い訳を考えながら、セラはその子袋をポケットの中に入れた。なんとなく、その指輪から遠ざかるのが嫌だったのだ。
テーブルの上には、美味しそうな料理がならんでいる。ロージィが作ってくれたのだ。セラを引き取り魔法騎士団を引退したロージィは、まるでセラの母親のようにあれこれと世話を焼いてくれている。
「さあ、食べよう。」
陽気な笑顔を浮かべるロージィ。つくづく、引き取ってくれたのがロージィでよかった。
「ユリウスと何があったんじゃあ?」
ロージィはにやにやと笑いながら、セラに尋ねる。何かあったとばれている。こうなれば、ロージィは聞きだすまで納得しないだろう。世話焼きなのは良いのだが、少々おせっかいなところもなるのだ。
「それは……。」
セラは口ごもる。
「さあさ、師匠に教えるんじゃあ。儂はセラの4倍以上生きとるのだ。良い助言ができるに違いないのだあ。」
(どうしよう。恥ずかしいけれど……誰かに聞いてほしいわ……。)
ユリウスのことを相談する相手にロージィ以外思いつかなかった。そもそもセラが心を許している相手は、ユリウスとロージィしかいないのだから。
「ユリウスに好きだと言われ……結婚してほしいと言われました。」
「ついにか。」
「知ってたのですか?」
ロージィはゆっくりと頷いて、水を一口飲んだ。
「ああ。ユリウスの気持ちはずっと知っていた。」
「ずっと……いつからユリウスは……?」
セラを好きだったのか。最後まで尋ねられず、セラは俯いた。
「かっかっか。いつからじゃろうなあ。儂は、最初からだと思うんじゃ。」
「最初から……?」
「うむ。ユリウスはセラに初めてあった時からずっとセラを好きであったし、守ると決めておったのじゃよ。」
「そんなわけ……だって私、ユリウスと会った時はもっとずっと小さくて……。」
「けしからん奴だが……一途なことは間違いなかろうなぁ。」
ロージィは楽しそうに笑って、パンを口に放りこむ。
「私は……どうすればいいのでしょう?」
「セラの思う通りにすればいいのじゃよ。」
「私は……ユリウスの求婚を断わるつもりです。」
「そうかそうか。セラがそうしたいなら、それが良いんじゃよ。」
セラは驚いてロージィを見た。
「師匠はユリウスと私に結婚してほしいのだと思っていました。」
師匠はユリウスにもセラと同じくらい沢山の愛情を注いでいた。そんな師匠ならば、セラに考えなおすように説得するかもしれないと間がていたのだ。
「かっかっか。そんなことはないじょ。振られたユリウスをなぐさめるだけじゃあ。大切なのはセラの気持ちだからのう。」
ロージィの言葉に、セラは少し考えこんだ。
(私は……何を望んでいるのだろう。)
ユリウスと結婚したくないし、子供も欲しくない。だが、ユリウスの傍を離れるのは嫌だった。彼から渡された指輪も、手放すことができないほどに。
「どうすれば、良いのでしょう……。」
セラは呟く。
「ゆっくり考えるんじゃよ。難しいことは考えずに、ユリウスに好きだと言われたときにどう感じたかを考えると良いのじゃあ。」
まるで恋愛マスターのように、ロージィはセラにアドバイスした。
「師匠は、誰かに求婚したことがあるのですか?」
セラの突然の質問に、ロージィはむせた。
「ごほっごほごほっっ。」
「師匠?大丈夫ですか?」
「う、うむむ。求婚、なあ。儂は誰にも求婚はしたことがないのう。」
「そうなんですか。」
「し、しかしな!儂は若いころモテたのだぞ!いつも女の子たちは儂を追いかけておってな!」
「それでも、師匠は誰のことも好きにならなかったのですか?」
「いいや。儂にも好きな人はおったぞ。ただのう、儂が一緒に入れる人じゃなかったんじゃ。だから、いつも遠くから見てな、それで満足しておったのじゃよ。」
セラはロージィの好きな人の話を初めて聞いた。ロージィは結婚しておらず、子供もいない。
(師匠にも想い人がいたんだ。)
セラにまじまじと見つめられて恥ずかしくなったのか、ロージィは立ち上がった。
「ともかく、自分の気持ちを大切にするんじゃ。ユリウスはただ、セラの傍にいたいだけの単純な男じゃ。それを忘れるんじゃないぞ!」
お皿をもって、キッチンに向かうロージィをぼんやり眺めて、セラ考える。
セラには二つ夢がある。絶対に叶わない夢と、叶えたい夢。
叶わない願いは”両親を生き返らせること”だ。いつか両親に会えたら、彼女が受け継いだ魔力で、沢山の人を救ったのだと伝えたかった。
(そんなの、叶うはずないのよね。)
セラは温かいスープを一口飲む。
もう一つの叶えたい夢は、ユリウスが幸せになること。誰もを不幸にしたセラの魔力で救えた人。ユリウスの存在はセラの支えだった。両親の悲劇を思い出して苦しくなっても、ユリウスがいれば、魔法使いでよかったと思えた。
(どうすればユリウスを幸せにできるんだろう。)
セラはユリウスの傍にいたい。だけど、それがユリウスの幸せになるのか、セラにはわからなかった。
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