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第二十三話: 誰よりも傍にいたいから
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「セラ、ミレーナさんがロマリア城に帰るそうじゃぞ。お見送りするか?」
「……お見送りしません。」
「そうかそうか。ほっほっほ。」
どうしても見送りをする気になれなかった。セラは窓辺に立って、沈んでいく夕日をぼんやり眺める。
”ユリウス様と関わるのをやめてください。”
ミレーナの言葉が頭から離れない。あれはきっとミレーナからの警告だ。曖昧な関係のまま、ユリウスを自分の元に留まらせるのは、許さない。彼女の目は確かにそう訴えていた。
ミレーナの存在がセラの心の奥にある思いを浮き彫りにしていた。
(ユリウスが私のものであり続けてほしい。)
ユリウスが心を許し、一番大切に思うのはいつだって自分であってほしかった。今までは、それが当然だったから甘えていたのだ。心のどこかで求婚を断わったとしても、ユリウスの中での一番は自分であり続けるではないかと油断していた。
(ミレーナは……私よりユリウスの傍にいるんだわ……。)
じっとしていられなくて、セラは部屋の中で歩き回る。足元から天井へとあちこち視線をうつす。心の中のざわめきが止まらない。自分でも、制御できないほど、心が揺れ動いている。
ユリウスが好きだと言い放ったミレーナに、圧倒されていた。子袋を取り出して、ユリウスから貰った指輪を眺める。
”セラが好きだ。結婚して、ずっと傍にいてほしい。”
3日前、ユリウスは確かにセラに言った。今はまだ、ユリウスの心はセラのものだ。
(だけど……これから先、ずっとユリウスの心が私のものであるか、わからないのだわ。)
指輪をぎゅっと握り締める。
”結婚”だなんてしたくない。おそろしくて仕方ない。それでも、ユリウスを失ってしまうくらいなら、その恐れを乗り越えたい。
(私はユリウスのものでありたいし、彼も私のものでいてくれると願いたいわ。)
セラは心の中で誓った。その時。
「セラッ!」
ユリウスが焦った様子で、セラの部屋にやってきた。
「ユリウス……なぜ……?」
「ミレーナが神殿に瞬間移動魔法で行ったと聞いて……。その、なにか言われなかったか?」
「何かって?心当たりがあるの……?」
「いや……そう言うわけでは……。」
セラはユリウスをじっと見つめた。ユリウスの顔色は悪い。今まではどうだった?瞬間移動魔法を使うと気を失ってしまうとミレーナは言っていた。なぜ神殿に来るときは、気を失わないの?
「ミレーナが教えてくれたわ。魔法を使うと……気を失ってしまうんでしょう?」
できるだけ穏やかに言おうと心掛ける。だけど、今まで伝えてくれなかったのがかなしくて、つい強い口調になってしまう。
「セラに心配を掛けたくなかったんだ。本当にすまない。」
ユリウスが両手でセラの頬を包む。大きくて暖かい手。これまで何度もセラを勇気づけてきた手だ。
「だが、セラに来るときは瞬間移動魔法を使っても元気でいるだろう?少しずつ良くなっているんだよ。」
ユリウスは優しい口調でセラに言い聞かせる。
だが、無情にもそのタイミングでロージィの声がした。
「儂が回復魔法を使っているからじゃろうがい。のう、ユリウス。」
ロージィはドアを開け、呆れたようにユリウスを見る。
「もういい加減隠すのは無理じゃよ。ユリウス。しばらく瞬間移動魔法は使うなというておったじゃろうが。」
どうやらユリウスが神殿に来た時、気を失わなかったのは、ロージィがいたからだったらしい。
「師匠は知っていたのですか!」
「知っておったよ。何とかその病を解く方法はないかと探っておったのじゃ。その前に、お前が目を覚まさなくなったら、一大事じゃろうと思って、釘を刺しに来たのじゃ。」
そう言いながらロージィは優しくセラの頭を撫でた。
「爺が邪魔したの。頑張るんじゃぞ、セラ。」
「し、師匠!」
セラはユリウスの求婚を受け入れることを決めたが、まだ誰にも伝えていない。だが、ロージィは全てを見透かしたように笑って、部屋を出ていった。
「……お見送りしません。」
「そうかそうか。ほっほっほ。」
どうしても見送りをする気になれなかった。セラは窓辺に立って、沈んでいく夕日をぼんやり眺める。
”ユリウス様と関わるのをやめてください。”
ミレーナの言葉が頭から離れない。あれはきっとミレーナからの警告だ。曖昧な関係のまま、ユリウスを自分の元に留まらせるのは、許さない。彼女の目は確かにそう訴えていた。
ミレーナの存在がセラの心の奥にある思いを浮き彫りにしていた。
(ユリウスが私のものであり続けてほしい。)
ユリウスが心を許し、一番大切に思うのはいつだって自分であってほしかった。今までは、それが当然だったから甘えていたのだ。心のどこかで求婚を断わったとしても、ユリウスの中での一番は自分であり続けるではないかと油断していた。
(ミレーナは……私よりユリウスの傍にいるんだわ……。)
じっとしていられなくて、セラは部屋の中で歩き回る。足元から天井へとあちこち視線をうつす。心の中のざわめきが止まらない。自分でも、制御できないほど、心が揺れ動いている。
ユリウスが好きだと言い放ったミレーナに、圧倒されていた。子袋を取り出して、ユリウスから貰った指輪を眺める。
”セラが好きだ。結婚して、ずっと傍にいてほしい。”
3日前、ユリウスは確かにセラに言った。今はまだ、ユリウスの心はセラのものだ。
(だけど……これから先、ずっとユリウスの心が私のものであるか、わからないのだわ。)
指輪をぎゅっと握り締める。
”結婚”だなんてしたくない。おそろしくて仕方ない。それでも、ユリウスを失ってしまうくらいなら、その恐れを乗り越えたい。
(私はユリウスのものでありたいし、彼も私のものでいてくれると願いたいわ。)
セラは心の中で誓った。その時。
「セラッ!」
ユリウスが焦った様子で、セラの部屋にやってきた。
「ユリウス……なぜ……?」
「ミレーナが神殿に瞬間移動魔法で行ったと聞いて……。その、なにか言われなかったか?」
「何かって?心当たりがあるの……?」
「いや……そう言うわけでは……。」
セラはユリウスをじっと見つめた。ユリウスの顔色は悪い。今まではどうだった?瞬間移動魔法を使うと気を失ってしまうとミレーナは言っていた。なぜ神殿に来るときは、気を失わないの?
「ミレーナが教えてくれたわ。魔法を使うと……気を失ってしまうんでしょう?」
できるだけ穏やかに言おうと心掛ける。だけど、今まで伝えてくれなかったのがかなしくて、つい強い口調になってしまう。
「セラに心配を掛けたくなかったんだ。本当にすまない。」
ユリウスが両手でセラの頬を包む。大きくて暖かい手。これまで何度もセラを勇気づけてきた手だ。
「だが、セラに来るときは瞬間移動魔法を使っても元気でいるだろう?少しずつ良くなっているんだよ。」
ユリウスは優しい口調でセラに言い聞かせる。
だが、無情にもそのタイミングでロージィの声がした。
「儂が回復魔法を使っているからじゃろうがい。のう、ユリウス。」
ロージィはドアを開け、呆れたようにユリウスを見る。
「もういい加減隠すのは無理じゃよ。ユリウス。しばらく瞬間移動魔法は使うなというておったじゃろうが。」
どうやらユリウスが神殿に来た時、気を失わなかったのは、ロージィがいたからだったらしい。
「師匠は知っていたのですか!」
「知っておったよ。何とかその病を解く方法はないかと探っておったのじゃ。その前に、お前が目を覚まさなくなったら、一大事じゃろうと思って、釘を刺しに来たのじゃ。」
そう言いながらロージィは優しくセラの頭を撫でた。
「爺が邪魔したの。頑張るんじゃぞ、セラ。」
「し、師匠!」
セラはユリウスの求婚を受け入れることを決めたが、まだ誰にも伝えていない。だが、ロージィは全てを見透かしたように笑って、部屋を出ていった。
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