28 / 44
三章 中間テストと告白
閑話 田中 美智留
しおりを挟む
「日高、今日この後時間ある? 話があるんだけど」
帰りのショートホームルームが終わり、ざわざわしている教室の中で私は真っ先に日高のところへ向かって言った。
私がそんな風に誘ってくるとは思わなかったんだろう。
少し驚いて間をあけてから「ああ、良いけど」と戸惑い気味に答える日高。
昨日、灯里から色々話を聞いて思うことがあった。
それで日高には一言言ってやらねばならないと決意していた。
それに、他にもどうしても気になっていることもあるし。
「美智留ちゃん?」
灯里が不思議そうに私が日高を誘うところを見ていた。
昨日の今日だから、きっとちゃんと向き合うためにも日高と一緒に帰ろうかとか思っていたのかも知れない。
でもごめんね。その前に日高には聞きたいことがあるんだ。
「ごめん灯里、今日だけ日高借りるわ」
「え? いや、別に私に許可とる必要はないかと……?」
と言いつつ、ちょっと残念そうに見える。
やっぱり日高と一緒に帰るつもりだったんだろうな。
ごめんね、ともう一度心の中で謝ってから「行こうか」と日高を連れて教室を出た。
校内から出たら「ちょっと私の行くとこ付き合ってね」と伝える。
「まあ、いいんだけど……。どうしたんだ? 俺に話って珍しいな?」
「……あんた、灯里のことが好きなんでしょう?」
少し考えたけれど、ここは直球で話すことにした。
言いたいことはその後の事だから。
「……やっぱりあいつ、お前らに相談してたのか」
「それは日高も同じでしょ? 昨日の昼、あんたも工藤達に話したでしょ?」
昼休み、戻ってきたら男子チームの様子もおかしかった。
工藤は何だか面白そうな顔してたし、花田は困り笑顔で灯里を見ていた。
日高はちょっと落ち込んでるように見えたし。
どういう話をしたのかは分からないけれど、灯里の事で窘められたって感じかな、と想像出来た。
一昨日灯里の様子がおかしかったのは花田も気付いていたみたいだったし。
「何で知ってるんだよ」
「様子を見て何となく、ね。やっぱり話してたんだ」
誘導尋問に引っかかったとでも思ったんだろうか?
日高は苦虫を噛み潰した様な顔をした。
そんなやり取りをしていたらすぐに目的地に着く。
学校からは数分でつく場所だったから。
「……おい、ここに行くのか?」
「そうよ、私の家」
正確には、私の家の前部分にある理容室。
いつもなら裏に回って家の玄関から入るんだけど、今日はサインポールが脇で回っている正面から入る。
でも日高はついてこない。
私は振り返って言った。
「来なさいよ、あんたの髪切ったげるから」
「いや、俺は別のところで切るから……」
渋る日高にため息を吐きつつ、重ねて言う。
「ここは場所貸してもらうだけで切るのは私だからタダだよ。それにバッサリ切ったりしないから安心して。……あんたの顔が実は良いってことも気付いてるから、来なよ」
踏ん切りをつけてもらうために、最後の言葉を付け加える。
すると今度は本気でビックリした様で驚きの表情のまま固まってしまった。
いくら隠していたって、顔の形が変わる訳じゃないんだから深く関わっている人間がいつまでも気付かない訳ないじゃない。
まあ、相当鈍感なら気付かないかも知れないけれど。
「ほら、入って。それ以上伸びると校則に引っかかって指導されちゃうでしょ?」
そう言うと、渋々といった様子だけど中に入ってくれた。
「あ、お帰り」
入ると同時にお父さんから声が掛かった。
「お? 美智留ちゃんか。高校生になったんだなぁ。家から近くて良いだろう」
そう聞いてきたのは常連のおじさん。
おじさんの髪は整えられているから、切った後なんだろう。
他のお客さんがいないときはそのまま居座って話をしている常連さんだ。
二つあるスタイリングチェアは誰も座っていないので、今も何かの話で盛り上がっていたところなんだろう。
おじさんは日高を見て「彼氏か?」なんて聞くけれど、本気で言ってるわけじゃない事は明白だ。
「そんなわけないでしょ」
「だろうなぁ、その子の髪見りゃあ分かるよ。また見ていられなくて連れてきたんだろ?」
「そういう事」
中学の頃から男女問わず髪がボサボサな子はここに連れてきてカットしていた私。
だから入学当初から日高の髪は切りたいとずっと思っていた。
でも流石に同じクラスになっただけ、という状態で切らせてとは言えない。
だからそこそこ付き合いの出来た今、丁度良いから話をするついでに切らせてもらおうと思ったわけだ。
これが今日日高を誘ったもう一つの理由。
「お父さん、奥のチェア借りるね」
「おう。いつも言うが、慎重にやるんだぞ」
「うん、分かってる」
場所を貸すからには相手に傷を負わせることは厳禁だと、いつも言われること。
当たり前のことだけれど、とても大事なこと。
ただでさえ理容師のはさみはよく切れるから、緊張感を忘れちゃいけない。
人の髪を切るようになってから、口うるさいくらいお父さんから言われた言葉だ。
「日高、座って」
促して座らせると、カットクロスを掛ける。
「メガネも外してね」
と言うと、一瞬ためらいつつも私が彼の素顔に気付いていることを思い出したのか外してくれた。
内側の髪から切るために髪を上げると、日高の整った顔がハッキリ見えて来る。
「おお……」
思わず感嘆の声を上げてしまった。
整った顔をしているとは思っていたけれど、ちゃんと見ると予想以上だった。
「この顔で灯里に迫ってるの? わー心臓に悪いだろうね」
「……どういう感想だよそれ」
「だって、あんた顔だけで女寄ってきそうだもん。普通の女子高生じゃあ心臓爆発しそう」
ちょっと大げさに言うと、日高は「確かに寄ってくるけど……」と目を逸らした。
「でも灯里には全く通用しねぇんだよ」
ボソッと口にした言葉だったけれど、近くにいた私にはしっかりと聞こえる。
「え? 通用しない?」
聞き返すと、チラリと鏡越しに私を見た日高はもう一度目を逸らして答えた。
「メガネ外して、素顔さらして迫っても誘惑されてくれねぇんだよ……」
だから攻めあぐねてるんだと唸る。
「へぇ……」
ちょっと、意外だった。
灯里は地味な格好をしてはいても、普通の女子高生だと思っていたから。
でも確かに顔で相手を判断するような子ではないと思う。
たまに人の顔をジッと見たりしているのは気付いていたけれど、顔の良い人ばかり見ていたわけじゃないし、何か別の基準で見ている感じだった。
そう、例えば私が日高の髪を切らずにはいられなかったような。
私は櫛とはさみを両の手に持ちながら、それにしてもと思う。
「って言うか日高、そっちの口調が素なの?」
メガネを取った辺りから口調が崩れている気がする。
しかも灯里の事を名前で呼んでいるし。
「あーまあな。素顔バレてるし何かもういっかなーと思って」
「いい加減だね……。灯里にもそんな感じなの?」
呆れつつも、そこはしっかり聞いた。
「ああ。あいつにも結構前にバレてたから」
「へぇ」
灯里は結構鈍感っぽいのに、いつ気付いたんだろう?
それか何かハプニングでもあったのかな?
何にせよ、好きな女の子の前で素を出してるってのは好感が持てる。
少し感心しながら私は日高の傷んだ髪を切り始めた。
内側は少し長めに切り、すきばさみを使う。
外側を被せる様な感じにするため、内側の髪は結構思い切って切っていく。
ようは顔が隠せる長さがあれば良いんだろうから、前髪や横の髪を出来るだけ残す様にしていった。
切りながら会話も出来れば良いんだけれど、緊張感をもってはさみを使おうと思うとまだ上手く会話を弾ませられない。
理容師か美容師、どちらになりたいのか私はまだ悩んでいる。
どっちかにはなるとは決めているものの、カット技術が優れているという理容師も憧れるし、髪結いなども出来る美容師も素敵で。
最近は顔そりが出来るか出来ないか、女性にパーマを掛けれるか掛けれないかの違いしかほとんどないけれど、別々の国家資格が必要だから迷ってしまう。
そんなことを思いながらカットを進めていくと、日高の方から話しかけてきた。
「……それで、話ってのは何なんだ? 髪切ることなのか?」
暗にそんなわけないよな、って感じに聞かれる。
事実その通りだ。
髪を切るのはやりたいことであって話したい事じゃない。
そして一番言いたいことはまだ口に出していなかった。
チラリとお父さんたちの方を見る。
話が盛り上がっているようで、こちらのことは気にしていなさそうだ。
大声を出さなければ聞こえないだろう。
「……日高さ、いきなりキスはまずかったんじゃないの?」
少し考えてから、私は話し始めた。
「灯里は思ってた以上に鈍感みたいだったからさ、告白する前にそういうことしたらからかってるとか遊ばれてるとしか思わないんじゃない?」
というか、ほぼそんな感じだった。
昨日ちゃんと告白してもらったのと、私達との夜のメッセージのやり取りで自分の気持ちともちゃんと向き合うって言ってくれたけれど……。
それでも日高がキスしまくったりとかしたらまた変な方向に考えてしまいかねない。
「……灯里が、そう言ってたのか……?」
「まあ、昨日の昼の時点ではからかわれてるとしか思ってなかったわね」
恐る恐ると言った感じに聞いて来たので、正確に答えてあげる。
「帰りにあんたがちゃんと告白したみたいだから、あんたが灯里の事好きだってことはちゃんと伝わってたけれど……」
そこで少し安堵したような表情を見せた日高に、私は据わった目を向けた。
「言っておくけど、伝わっただけで灯里はあんたの事好きかどうか分からないって言ってたからね?」
念を押すように言ったけれど、日高は口端を上げ不敵な笑みを浮かべる。
「“分からない”なら何とかするさ。逃がすつもりはねぇ」
その言葉に少し驚く。
顔が良いのは知っていても、性格までこんなだとは思っていなかったから。
本当に、灯里の言っていた通りの性格なんだね……。
そう驚きながらも釘は刺しておく。
「だからって、ボディタッチ激しすぎると勘違いしかねないからね? 部屋に連れ込むとかも止めといた方が良いよ」
具体的に言うと、日高の頭がピクリと動く。
まさか……。
「もう連れ込んだとか言わないわよね?」
頬が引きつる。
でもそう言われた日高の目は気まずいというより遠い目をしていて……。
「昨日な、来るかって言ってはみたんだ……」
そして自嘲の笑みを浮かべる。
「そしたらOKされてな……。警戒心なさ過ぎて逆に俺の方からやっぱり駄目だって言う羽目になった……」
「……うわぁ……」
灯里、あんたそこまで鈍感だったとは……。
私は初めて本気で日高に哀れみの目を向けた。
その後は何となく話も出来ず、すぐにブローをして髪を切るのを終える。
地味男なままで、少しはサッパリしたように見えるだろう。
日高は出来に満足してくれたのか、感心しつつ「サンキュ」とお礼を言ってくれた。
そして私は「まあ、色々頑張って」と励ましの言葉を添えて見送る。
見送りながら、日高と灯里のカップルは日高の駆け引き次第なのかなぁなんて思ったのだった。
帰りのショートホームルームが終わり、ざわざわしている教室の中で私は真っ先に日高のところへ向かって言った。
私がそんな風に誘ってくるとは思わなかったんだろう。
少し驚いて間をあけてから「ああ、良いけど」と戸惑い気味に答える日高。
昨日、灯里から色々話を聞いて思うことがあった。
それで日高には一言言ってやらねばならないと決意していた。
それに、他にもどうしても気になっていることもあるし。
「美智留ちゃん?」
灯里が不思議そうに私が日高を誘うところを見ていた。
昨日の今日だから、きっとちゃんと向き合うためにも日高と一緒に帰ろうかとか思っていたのかも知れない。
でもごめんね。その前に日高には聞きたいことがあるんだ。
「ごめん灯里、今日だけ日高借りるわ」
「え? いや、別に私に許可とる必要はないかと……?」
と言いつつ、ちょっと残念そうに見える。
やっぱり日高と一緒に帰るつもりだったんだろうな。
ごめんね、ともう一度心の中で謝ってから「行こうか」と日高を連れて教室を出た。
校内から出たら「ちょっと私の行くとこ付き合ってね」と伝える。
「まあ、いいんだけど……。どうしたんだ? 俺に話って珍しいな?」
「……あんた、灯里のことが好きなんでしょう?」
少し考えたけれど、ここは直球で話すことにした。
言いたいことはその後の事だから。
「……やっぱりあいつ、お前らに相談してたのか」
「それは日高も同じでしょ? 昨日の昼、あんたも工藤達に話したでしょ?」
昼休み、戻ってきたら男子チームの様子もおかしかった。
工藤は何だか面白そうな顔してたし、花田は困り笑顔で灯里を見ていた。
日高はちょっと落ち込んでるように見えたし。
どういう話をしたのかは分からないけれど、灯里の事で窘められたって感じかな、と想像出来た。
一昨日灯里の様子がおかしかったのは花田も気付いていたみたいだったし。
「何で知ってるんだよ」
「様子を見て何となく、ね。やっぱり話してたんだ」
誘導尋問に引っかかったとでも思ったんだろうか?
日高は苦虫を噛み潰した様な顔をした。
そんなやり取りをしていたらすぐに目的地に着く。
学校からは数分でつく場所だったから。
「……おい、ここに行くのか?」
「そうよ、私の家」
正確には、私の家の前部分にある理容室。
いつもなら裏に回って家の玄関から入るんだけど、今日はサインポールが脇で回っている正面から入る。
でも日高はついてこない。
私は振り返って言った。
「来なさいよ、あんたの髪切ったげるから」
「いや、俺は別のところで切るから……」
渋る日高にため息を吐きつつ、重ねて言う。
「ここは場所貸してもらうだけで切るのは私だからタダだよ。それにバッサリ切ったりしないから安心して。……あんたの顔が実は良いってことも気付いてるから、来なよ」
踏ん切りをつけてもらうために、最後の言葉を付け加える。
すると今度は本気でビックリした様で驚きの表情のまま固まってしまった。
いくら隠していたって、顔の形が変わる訳じゃないんだから深く関わっている人間がいつまでも気付かない訳ないじゃない。
まあ、相当鈍感なら気付かないかも知れないけれど。
「ほら、入って。それ以上伸びると校則に引っかかって指導されちゃうでしょ?」
そう言うと、渋々といった様子だけど中に入ってくれた。
「あ、お帰り」
入ると同時にお父さんから声が掛かった。
「お? 美智留ちゃんか。高校生になったんだなぁ。家から近くて良いだろう」
そう聞いてきたのは常連のおじさん。
おじさんの髪は整えられているから、切った後なんだろう。
他のお客さんがいないときはそのまま居座って話をしている常連さんだ。
二つあるスタイリングチェアは誰も座っていないので、今も何かの話で盛り上がっていたところなんだろう。
おじさんは日高を見て「彼氏か?」なんて聞くけれど、本気で言ってるわけじゃない事は明白だ。
「そんなわけないでしょ」
「だろうなぁ、その子の髪見りゃあ分かるよ。また見ていられなくて連れてきたんだろ?」
「そういう事」
中学の頃から男女問わず髪がボサボサな子はここに連れてきてカットしていた私。
だから入学当初から日高の髪は切りたいとずっと思っていた。
でも流石に同じクラスになっただけ、という状態で切らせてとは言えない。
だからそこそこ付き合いの出来た今、丁度良いから話をするついでに切らせてもらおうと思ったわけだ。
これが今日日高を誘ったもう一つの理由。
「お父さん、奥のチェア借りるね」
「おう。いつも言うが、慎重にやるんだぞ」
「うん、分かってる」
場所を貸すからには相手に傷を負わせることは厳禁だと、いつも言われること。
当たり前のことだけれど、とても大事なこと。
ただでさえ理容師のはさみはよく切れるから、緊張感を忘れちゃいけない。
人の髪を切るようになってから、口うるさいくらいお父さんから言われた言葉だ。
「日高、座って」
促して座らせると、カットクロスを掛ける。
「メガネも外してね」
と言うと、一瞬ためらいつつも私が彼の素顔に気付いていることを思い出したのか外してくれた。
内側の髪から切るために髪を上げると、日高の整った顔がハッキリ見えて来る。
「おお……」
思わず感嘆の声を上げてしまった。
整った顔をしているとは思っていたけれど、ちゃんと見ると予想以上だった。
「この顔で灯里に迫ってるの? わー心臓に悪いだろうね」
「……どういう感想だよそれ」
「だって、あんた顔だけで女寄ってきそうだもん。普通の女子高生じゃあ心臓爆発しそう」
ちょっと大げさに言うと、日高は「確かに寄ってくるけど……」と目を逸らした。
「でも灯里には全く通用しねぇんだよ」
ボソッと口にした言葉だったけれど、近くにいた私にはしっかりと聞こえる。
「え? 通用しない?」
聞き返すと、チラリと鏡越しに私を見た日高はもう一度目を逸らして答えた。
「メガネ外して、素顔さらして迫っても誘惑されてくれねぇんだよ……」
だから攻めあぐねてるんだと唸る。
「へぇ……」
ちょっと、意外だった。
灯里は地味な格好をしてはいても、普通の女子高生だと思っていたから。
でも確かに顔で相手を判断するような子ではないと思う。
たまに人の顔をジッと見たりしているのは気付いていたけれど、顔の良い人ばかり見ていたわけじゃないし、何か別の基準で見ている感じだった。
そう、例えば私が日高の髪を切らずにはいられなかったような。
私は櫛とはさみを両の手に持ちながら、それにしてもと思う。
「って言うか日高、そっちの口調が素なの?」
メガネを取った辺りから口調が崩れている気がする。
しかも灯里の事を名前で呼んでいるし。
「あーまあな。素顔バレてるし何かもういっかなーと思って」
「いい加減だね……。灯里にもそんな感じなの?」
呆れつつも、そこはしっかり聞いた。
「ああ。あいつにも結構前にバレてたから」
「へぇ」
灯里は結構鈍感っぽいのに、いつ気付いたんだろう?
それか何かハプニングでもあったのかな?
何にせよ、好きな女の子の前で素を出してるってのは好感が持てる。
少し感心しながら私は日高の傷んだ髪を切り始めた。
内側は少し長めに切り、すきばさみを使う。
外側を被せる様な感じにするため、内側の髪は結構思い切って切っていく。
ようは顔が隠せる長さがあれば良いんだろうから、前髪や横の髪を出来るだけ残す様にしていった。
切りながら会話も出来れば良いんだけれど、緊張感をもってはさみを使おうと思うとまだ上手く会話を弾ませられない。
理容師か美容師、どちらになりたいのか私はまだ悩んでいる。
どっちかにはなるとは決めているものの、カット技術が優れているという理容師も憧れるし、髪結いなども出来る美容師も素敵で。
最近は顔そりが出来るか出来ないか、女性にパーマを掛けれるか掛けれないかの違いしかほとんどないけれど、別々の国家資格が必要だから迷ってしまう。
そんなことを思いながらカットを進めていくと、日高の方から話しかけてきた。
「……それで、話ってのは何なんだ? 髪切ることなのか?」
暗にそんなわけないよな、って感じに聞かれる。
事実その通りだ。
髪を切るのはやりたいことであって話したい事じゃない。
そして一番言いたいことはまだ口に出していなかった。
チラリとお父さんたちの方を見る。
話が盛り上がっているようで、こちらのことは気にしていなさそうだ。
大声を出さなければ聞こえないだろう。
「……日高さ、いきなりキスはまずかったんじゃないの?」
少し考えてから、私は話し始めた。
「灯里は思ってた以上に鈍感みたいだったからさ、告白する前にそういうことしたらからかってるとか遊ばれてるとしか思わないんじゃない?」
というか、ほぼそんな感じだった。
昨日ちゃんと告白してもらったのと、私達との夜のメッセージのやり取りで自分の気持ちともちゃんと向き合うって言ってくれたけれど……。
それでも日高がキスしまくったりとかしたらまた変な方向に考えてしまいかねない。
「……灯里が、そう言ってたのか……?」
「まあ、昨日の昼の時点ではからかわれてるとしか思ってなかったわね」
恐る恐ると言った感じに聞いて来たので、正確に答えてあげる。
「帰りにあんたがちゃんと告白したみたいだから、あんたが灯里の事好きだってことはちゃんと伝わってたけれど……」
そこで少し安堵したような表情を見せた日高に、私は据わった目を向けた。
「言っておくけど、伝わっただけで灯里はあんたの事好きかどうか分からないって言ってたからね?」
念を押すように言ったけれど、日高は口端を上げ不敵な笑みを浮かべる。
「“分からない”なら何とかするさ。逃がすつもりはねぇ」
その言葉に少し驚く。
顔が良いのは知っていても、性格までこんなだとは思っていなかったから。
本当に、灯里の言っていた通りの性格なんだね……。
そう驚きながらも釘は刺しておく。
「だからって、ボディタッチ激しすぎると勘違いしかねないからね? 部屋に連れ込むとかも止めといた方が良いよ」
具体的に言うと、日高の頭がピクリと動く。
まさか……。
「もう連れ込んだとか言わないわよね?」
頬が引きつる。
でもそう言われた日高の目は気まずいというより遠い目をしていて……。
「昨日な、来るかって言ってはみたんだ……」
そして自嘲の笑みを浮かべる。
「そしたらOKされてな……。警戒心なさ過ぎて逆に俺の方からやっぱり駄目だって言う羽目になった……」
「……うわぁ……」
灯里、あんたそこまで鈍感だったとは……。
私は初めて本気で日高に哀れみの目を向けた。
その後は何となく話も出来ず、すぐにブローをして髪を切るのを終える。
地味男なままで、少しはサッパリしたように見えるだろう。
日高は出来に満足してくれたのか、感心しつつ「サンキュ」とお礼を言ってくれた。
そして私は「まあ、色々頑張って」と励ましの言葉を添えて見送る。
見送りながら、日高と灯里のカップルは日高の駆け引き次第なのかなぁなんて思ったのだった。
1
あなたにおすすめの小説
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話
そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん!
好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。
ほのぼのラブコメというか日常系小説
オチなどはなく、ただひたすらにまったりします
挿絵や文章にもAIを使用しております。
苦手な方はご注意ください。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい
99
ライト文芸
奥手で引っ込み思案な新入社員 × 教育係のエリート社員
佐倉美和(23)は、新入社員研修時に元読者モデルの同期・橘さくらと比較され、「じゃない方の佐倉」という不名誉なあだ名をつけられてしまい、以来人付き合いが消極的になってしまっている。
そんな彼女の教育係で営業部のエリート・幸崎優吾(28)は「皆に平等に優しい人格者」としてもっぱらな評判。
美和にも当然優しく接してくれているのだが、「それが逆に申し訳なくて辛い」と思ってしまう。
ある日、美和は学生時代からの友人で同期の城山雪の誘いでデパートのコスメ売り場に出かけ、美容部員の手によって別人のように変身する。
少しだけ自分に自信を持てたことで、美和と幸崎との間で、新しい関係が始まろうとしていた・・・
素敵な表紙はミカスケ様のフリーイラストをお借りしています。
http://misoko.net/
他サイト様でも投稿しています。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる