ゴブリン飯

布施鉱平

文字の大きさ
36 / 64
第二章

35話 緑色の893

しおりを挟む
「さ、お嬢。帰りますぜ」

 数匹のうち、他の者よりも一回り大きいゴブリンが前に出て、近寄りながら声をかけてきた。

「…………(ふるふる)」
 
 それに対し、ヒナは無言で首を振りながら、チロに体を寄せる。
 柔らかいものが腕に押し当てられ、緊迫した状況にも関わらず、チロは少し喜んだ。
 
「なんでぇ、お前は」
 
 そこでようやく気づいたかのように、ゴブリンがチロに視線を合わせてきた。
 実際、ヒナが寄り添うまで、一見して貧弱そうなチロなど眼中になかったのだろう。

「俺は、チロって言います。この洞窟に住んでる者です」
「そうかい。どきな、チビ・・

 聞かれたので自己紹介をしたが、返ってきたのはあからさまな言い間違いと恫喝だった。

「だ、だけど、ヒナも嫌がってますし、無理やりに連れてくってのは……」
「あぁっ!? てめぇ、なにお嬢のこと呼び捨てにしてやがるっ!」
「っすぞコラァ!」
「バラされてぇのか!?」

 なんとか話し合いに持ち込もうとしたが、ヒナの名前を口にしただけで、後ろに控えていたゴブリン達から怒声があがった。

 言い回しといい、沸点の低さといい、まるでVシネマに出てくるヤ○ザである。

 緑色で全裸のヤ○ザだ。

「お前ら、そこまでにしとけ」

 怒鳴り続けるゴブリン達を止めたのは、チロのことをチビと呼んだゴブリンだった。
 もしかしたら、若頭わかがしら的な立ち位置のゴブリンなのかもしれない。

「なぁ、チビさんよ。見ての通り、俺の部下はあんまり気が長くない。素直にそこをどいてくれねぇかな。お嬢の前で、血は流したくねぇんだ」

 若頭は静かな声で、しかし明確な脅しを口にした。

 本気であることは、睨みつけてくるその目を見れば疑いようもない。

 すぐに実行しないのは、チロのすぐ横にヒナがいるから、という理由だけだろう。
 
「……ゴルジ、チロにひどいことしたら、許さないから」

 一触即発の空気が流れる中、それを破ったのはヒナの声だった。

 若頭────ゴルジと呼ばれたゴブリンが、驚いたような顔でヒナを見る。

 そして、何かを言いかけた口をグッとつぐむと、チロに視線を戻し、これまでにないほどの強さで睨みつけてきた。

「てめぇ……お嬢をたぶらかしやがったな!」

 ゴルジが、牙を剥き出しにして叫んだ。

 それに呼応するように、手下のゴブリン達も牙を剥き、チロを威嚇し始める。

 どうやら、戦いは避けられそうにないようだった。


 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない

ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

処理中です...