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第三章
54話 ゴーダの想い
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「……俺はなぁ、チロ。この世界に生まれ変わってから、色んなことを諦めながら生きてきた。
本を読むこと、酒を飲むこと、バイクに乗ること…………そして、うまいものを食うこと」
────体内に醤油的な液体である『ショーユ』を作り出す植物、『ムンクさん』を見つけてから数日後。
洞窟に現れたゴーダは、薄切りにして茹でた角ウサギの肉をショーユにつけて食べながら、そんなことをチロに語っていた。
「中でも、うまいものが食えないのはやっぱりキツくてなぁ…………
とくに、嫁さんにこの世界のことを色々と教えてもらって、ゴブリンが人間と敵対している種族だって分かった時には、柄にもなくへこんだりしたもんだ。
なんたって、塩にしろ香辛料にしろ、人間と取引しなきゃ手に入れられないものばかりだからな」
ひょいぱくひょいぱくと、チロが『制土』によって作り出した陶製の箸を忙しく往復させながら、ゴーダは独白を続ける。
「綺麗な嫁さんに、可愛い娘…………前世と違って自分の家族を持てた俺は、幸せもんだ。それは間違いない。
────だけどなぁ、チロ。どうしても忘れられないんだよ。
炭火で焼いた、焼き鳥の匂い。
揚げたてのトンカツの、サクっとした歯ごたえ。
ラーメンの喉ごし、お好み焼きのソースが焦げる香り、イクラのプチプチとした食感……
どれもこれも、まるで今食べたばかりみたいに、はっきりと覚えている。
……なのに、肝心の『味』だけは、時間が経つにつれどんどん記憶から消えていっちまうんだ。
塩っ気すらない、ただ焼いただけの獣肉を食べているうちに、舌が上書きされちまうんだよ。
いっそのこと匂いも音も食感も、全部忘れられたら楽だろうに、まるで忘れられないんだ。
俺がどれだけ食い物の『外側』を鮮明に覚えていたところで、その『中身』はもう手に入らない。
二度と味わえない。
だから俺は、ずっと諦めていた。
…………お前に、会うまでは」
角ウサギ一匹分の肉をひとりで食べ尽くしたゴーダは、手に持っていた箸を地面に置くと、真剣な目でチロを見つめた。
「お前に会って、俺は塩の味を思い出しちまった。
塩で味付けされた料理の味を、思い出しちまった。
それどころかつい先日、お前は醤油そっくりの調味料まで見つけてきて、俺に故郷の────日本の味を思い出させちまった…………」
ゴーダは哀愁のこめられた声でそう言うと、すっとその場に立ち上がり、また言葉を続けた。
「だからなぁ、チロ。俺は……………………焼き魚が、食いたいんだ」
「…………」
「魚を串に刺して、火で炙って、シトラ草をちょっと絞って、その上からショーユをかけて食いたいんだ。お前はどうだ、食いたくないか?」
「めっちゃ、食いたいです」
ガシッ
チロも立ち上がり、ふたりはレスラーと幼稚園児ほどに大きさの違う手をガッシリと握り合った。
そして、
「「魚釣りに、行こう」」
そういうことに、なった。
「わたしもいくー」
「キュアァッ」
そしてもちろん、ヒナとキングも付いていくことになった。
本を読むこと、酒を飲むこと、バイクに乗ること…………そして、うまいものを食うこと」
────体内に醤油的な液体である『ショーユ』を作り出す植物、『ムンクさん』を見つけてから数日後。
洞窟に現れたゴーダは、薄切りにして茹でた角ウサギの肉をショーユにつけて食べながら、そんなことをチロに語っていた。
「中でも、うまいものが食えないのはやっぱりキツくてなぁ…………
とくに、嫁さんにこの世界のことを色々と教えてもらって、ゴブリンが人間と敵対している種族だって分かった時には、柄にもなくへこんだりしたもんだ。
なんたって、塩にしろ香辛料にしろ、人間と取引しなきゃ手に入れられないものばかりだからな」
ひょいぱくひょいぱくと、チロが『制土』によって作り出した陶製の箸を忙しく往復させながら、ゴーダは独白を続ける。
「綺麗な嫁さんに、可愛い娘…………前世と違って自分の家族を持てた俺は、幸せもんだ。それは間違いない。
────だけどなぁ、チロ。どうしても忘れられないんだよ。
炭火で焼いた、焼き鳥の匂い。
揚げたてのトンカツの、サクっとした歯ごたえ。
ラーメンの喉ごし、お好み焼きのソースが焦げる香り、イクラのプチプチとした食感……
どれもこれも、まるで今食べたばかりみたいに、はっきりと覚えている。
……なのに、肝心の『味』だけは、時間が経つにつれどんどん記憶から消えていっちまうんだ。
塩っ気すらない、ただ焼いただけの獣肉を食べているうちに、舌が上書きされちまうんだよ。
いっそのこと匂いも音も食感も、全部忘れられたら楽だろうに、まるで忘れられないんだ。
俺がどれだけ食い物の『外側』を鮮明に覚えていたところで、その『中身』はもう手に入らない。
二度と味わえない。
だから俺は、ずっと諦めていた。
…………お前に、会うまでは」
角ウサギ一匹分の肉をひとりで食べ尽くしたゴーダは、手に持っていた箸を地面に置くと、真剣な目でチロを見つめた。
「お前に会って、俺は塩の味を思い出しちまった。
塩で味付けされた料理の味を、思い出しちまった。
それどころかつい先日、お前は醤油そっくりの調味料まで見つけてきて、俺に故郷の────日本の味を思い出させちまった…………」
ゴーダは哀愁のこめられた声でそう言うと、すっとその場に立ち上がり、また言葉を続けた。
「だからなぁ、チロ。俺は……………………焼き魚が、食いたいんだ」
「…………」
「魚を串に刺して、火で炙って、シトラ草をちょっと絞って、その上からショーユをかけて食いたいんだ。お前はどうだ、食いたくないか?」
「めっちゃ、食いたいです」
ガシッ
チロも立ち上がり、ふたりはレスラーと幼稚園児ほどに大きさの違う手をガッシリと握り合った。
そして、
「「魚釣りに、行こう」」
そういうことに、なった。
「わたしもいくー」
「キュアァッ」
そしてもちろん、ヒナとキングも付いていくことになった。
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