ゴブリン飯

布施鉱平

文字の大きさ
55 / 64
第三章

53話 郷愁(きょうしゅう)

しおりを挟む
「う、うぅ……うま、うま……」
「……チロ」
「キュアァ……」

 ヒナとキングはチロから距離を取り、遠巻きにその行動を見守っていた。

 チロは今、呪われているとしか思えないほど不気味な植物である『ムンクさん』から流れ出た黒い液体を、指先につけては舐め、指先につけては舐めを繰り返している。

 しかも、涙を流して「うま、うま……」と呟きながらだ。

「どうしよう、キング……チロが、おかしくなっちゃった…………」

 その異様な姿に、ヒナはキングを抱きしめたまま泣きそうな声を上げた。
 
 本当は、今すぐにでもチロをムンクさんから引き剥がし、黒い液体を舐めるのをやめさせたほうがいいかもしれない。

 だが、ヒナにはそれが正しいことなのか分からず、またそれを行う勇気もなかった。

 もし、強引に引き剥がしたせいでチロが壊れてしまい、「う、うま…………ヒャァアアアアッ! ウマッ、ウッマァァアアアアアッ!」とか叫び出したりでもしたら、取り返しがつかないうえに怖すぎるからだ。
 
「どうしよう、キング……わたしは、どうすればいいの?」
「…………」
 
 ヒナの問いかけに、キングは目を閉じて考えるような仕草をした。

 そして数秒後にカッと目を見開くと、「キュアッ」と一度短く鳴き声を上げ、顔を洞窟の入口の方向に向けた。

 一瞬、キングがなにを言おうとしているのか分からなかったヒナだったが、

「……そうか、お父さんなら、なんとかしてくれるかもしれない!」

 すぐにその意図を察し、希望を見出した表情を浮かべると、洞窟の入口に向かって走り出した。

 だが、途中で一度足を止めて振り返り、

「まっててね、チロ…………すぐにお父さんを連れて、帰ってくるから…………」

 未だに「うま、うま……」と呟きながら黒い液体を舐め続けるチロに声をかけると、今度はもう振り返ることなく、父親のいるゴブリン集落へと走り去っていくのだった。
 







 

 ────それから、数十分後。

 ヒナに連れられてきたゴーダに拳骨げんこつを落とされたことにより、チロは正気を取り戻した。

 しかし、チロから事情の説明を受けたゴーダもまた、郷愁の念を抑えられなくなって黒い液体を舐めてしまい、涙を流しながら「うま、うま…………」としばらくトリップすることになるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない

ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...