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震える令嬢
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「────まぁ、ではサトルさんはそのように幼い頃から働いてらっしゃったんですか?」
「え、ええ、まあ…………」
…………俺はどうして馬車に乗っているんだろうか。
隣から嬉しそうに話しかけてくる女の子に目をやる。
うん、ちょう可愛い。
そして胸も大きい。
でも、緊張と不安でそれを楽しむ余裕がない。
俺はなんの因果か、最も関わり合いになりたくなかった人種、『貴族』のお屋敷にドナドナされようとしているのだ。
正直生きた心地がしない。
思えば幼かったあの日。
両親の元から人買いに売られて馬車に乗った時もこんな気持ちだったなぁ。
「私は今年で十六になるのですが、ようやくお許しが出てお爺様のお手伝いをさせていただくことになったのです。それで────」
あぁ…………クレアちゃんの情報が知りたくもないのにどんどん入ってくる。
クレアーネ・セルドア・クローネン────
ゼスト・セルドア・クローネン辺境伯の孫娘で、今年十六歳。
母親は健在だが、父親は隣国との戦で戦死。
孫バカの辺境伯に、外界とあまり接触を持たないよう大事に育てられていたが、最近その辺境伯の体調が思わしくないらしく、クレアちゃんが仕事を手伝っているのだとか。
趣味は刺繍とお菓子作り。
年の近い異性と話したことがないらしく、俺と話すのがすごく楽しいらしい。
よかったね。
でも多分、同年代の異性と出会う機会がなかったのは、君のおじいさんが孫娘に変な虫がつかないように手を回してたんだと思うよ?
だから、俺は不安だなぁ。
不安すぎるなぁ…………
屋敷に行ったら、君のおじいさんに殺されるんじゃないかと思うんだよね。
「────お爺様も、昔は冒険者の方と一緒に旅をしたことがあるそうです。きっとサトルさんとも仲良くなれますわ」
…………クレアちゃんは天使みたいに外見も心も綺麗なんだけど、ちょっと世間知らず過ぎるなぁ。
世の中、もっと裏とか闇とかがいっぱいあるんだよ?
もうすぐ俺の人生も終わりかと考えると、この清らかなクレアちゃんにそれを教えてあげたくなってきた。
……………………
………………
…………
……〈振動〉。
◇クレアーネ視点────
私のお隣に座っているのはサトルさん。
私の乗っている馬車がゴブリンの群れに襲撃を受けたとき、自分の身の危険も顧みず助けに来てくれた勇気ある方です。
本来であれば移動の際にはちゃんと装備を整えた騎士団の方々に守ってもらっているのですが、隣国『クライネ皇国』が再侵攻に備えて私を狙っているとの情報があったため、かく乱目的で商人に扮して護衛も最小限にしたのが間違いでした。
幸いなことに死者は出ませんでしたが、ゴブリンの数が多く全方位を守るには手がまわらなかったようで、サトルさんが来てくれなければどうなっていたか分かりません。
もしかしたら、私がゴブリンに攫われていた可能性だってあるのです。
ゴブリンは攫った女の人にひどいことをするのだと聞き及びますし、もしそうなっていたら、私はクローネン家の娘として汚される前に命を絶っていたでしょう。
つまり、サトルさんは私の命の恩人だと言っても過言ではないのです!
なので、どうしてもちゃんとお礼がしたかった私は、サトルさんを半ば強引にお屋敷に招待することにしました。
さらに、同世代の男性とお話もしてみたかったので、サトルさんには私と同じ馬車に乗ってもらいました。
…………少しはしたなかったでしょうか?
でも、サトルさんは驚きこそしたものの、嫌な顔一つせずに私とお話してくれています。
時々下の方に目を逸らすのは、きっと恥ずかしがり屋さんなのでしょう。
私はサトルさんに自分のことを色々話し、サトルさんのお話も色々と聞かせていただきました。
どれほどそうしてお話をしていたでしょうか。
私は、自分自身に妙な感覚があることに気づきました。
なんというか、その…………む、胸の先の方が、うずうずというか、ジンジンしているのです。
最初は気のせいかと思いました。
実際、少ししたらその感覚も消えたのです。
ですが、すぐにまたジンジンと痺れるような感覚が胸の先から発生し、気のせいではなかったのだと分かりました。
服が擦れているのとも違います。
まるで、その部分にそっと息を吹きかけられているような、そんな感覚なのです。
もちろん! もちろんそんなことを誰かにされたことはありません!
ですが、何かに例えるならそうとしか言いようがないのです。
私は戸惑いました。
こんなこと初めてで、なぜ急にそんな感覚が現れたのかも分かりません。
ほんとに、こんなこと初めてで…………
その自分の頭に浮かんだ『初めて』という言葉に、私ははっとしました。
初めて…………同じ年頃の男性と話したのも、これが初めてです。
私は隣に座るサトルさんの顔を見つめました。
私の知っている誰とも違う、素朴で優しそうな顔のサトルさん。
見ず知らずの人間を助けるために、命をかけて戦ってくれた勇気あるサトルさん。
小さい頃から辛い目に遭っていたのに、それを受け入れて強く生きているサトルさん…………
なぜか目が離せなくなり、私は少し下を見ているサトルさんの顔を、ずっと見ていました。
そして、サトルさんの下がっていた視線が上がり、私と目があったその瞬間。
「あぅん」
胸の先に強い痺れが走り、私は思わず声を上げてしまいました。
今まで感じたことのない、強く、そして甘い感覚。
思わず目を瞑り、私はしばらくその甘い余韻に陶然としていました。
そして、その余韻がゆっくりと消えていくのを寂しく思いながら、再び目を開いたとき。
私は気づいたのです。
この感覚が『恋』なのだと。
「え、ええ、まあ…………」
…………俺はどうして馬車に乗っているんだろうか。
隣から嬉しそうに話しかけてくる女の子に目をやる。
うん、ちょう可愛い。
そして胸も大きい。
でも、緊張と不安でそれを楽しむ余裕がない。
俺はなんの因果か、最も関わり合いになりたくなかった人種、『貴族』のお屋敷にドナドナされようとしているのだ。
正直生きた心地がしない。
思えば幼かったあの日。
両親の元から人買いに売られて馬車に乗った時もこんな気持ちだったなぁ。
「私は今年で十六になるのですが、ようやくお許しが出てお爺様のお手伝いをさせていただくことになったのです。それで────」
あぁ…………クレアちゃんの情報が知りたくもないのにどんどん入ってくる。
クレアーネ・セルドア・クローネン────
ゼスト・セルドア・クローネン辺境伯の孫娘で、今年十六歳。
母親は健在だが、父親は隣国との戦で戦死。
孫バカの辺境伯に、外界とあまり接触を持たないよう大事に育てられていたが、最近その辺境伯の体調が思わしくないらしく、クレアちゃんが仕事を手伝っているのだとか。
趣味は刺繍とお菓子作り。
年の近い異性と話したことがないらしく、俺と話すのがすごく楽しいらしい。
よかったね。
でも多分、同年代の異性と出会う機会がなかったのは、君のおじいさんが孫娘に変な虫がつかないように手を回してたんだと思うよ?
だから、俺は不安だなぁ。
不安すぎるなぁ…………
屋敷に行ったら、君のおじいさんに殺されるんじゃないかと思うんだよね。
「────お爺様も、昔は冒険者の方と一緒に旅をしたことがあるそうです。きっとサトルさんとも仲良くなれますわ」
…………クレアちゃんは天使みたいに外見も心も綺麗なんだけど、ちょっと世間知らず過ぎるなぁ。
世の中、もっと裏とか闇とかがいっぱいあるんだよ?
もうすぐ俺の人生も終わりかと考えると、この清らかなクレアちゃんにそれを教えてあげたくなってきた。
……………………
………………
…………
……〈振動〉。
◇クレアーネ視点────
私のお隣に座っているのはサトルさん。
私の乗っている馬車がゴブリンの群れに襲撃を受けたとき、自分の身の危険も顧みず助けに来てくれた勇気ある方です。
本来であれば移動の際にはちゃんと装備を整えた騎士団の方々に守ってもらっているのですが、隣国『クライネ皇国』が再侵攻に備えて私を狙っているとの情報があったため、かく乱目的で商人に扮して護衛も最小限にしたのが間違いでした。
幸いなことに死者は出ませんでしたが、ゴブリンの数が多く全方位を守るには手がまわらなかったようで、サトルさんが来てくれなければどうなっていたか分かりません。
もしかしたら、私がゴブリンに攫われていた可能性だってあるのです。
ゴブリンは攫った女の人にひどいことをするのだと聞き及びますし、もしそうなっていたら、私はクローネン家の娘として汚される前に命を絶っていたでしょう。
つまり、サトルさんは私の命の恩人だと言っても過言ではないのです!
なので、どうしてもちゃんとお礼がしたかった私は、サトルさんを半ば強引にお屋敷に招待することにしました。
さらに、同世代の男性とお話もしてみたかったので、サトルさんには私と同じ馬車に乗ってもらいました。
…………少しはしたなかったでしょうか?
でも、サトルさんは驚きこそしたものの、嫌な顔一つせずに私とお話してくれています。
時々下の方に目を逸らすのは、きっと恥ずかしがり屋さんなのでしょう。
私はサトルさんに自分のことを色々話し、サトルさんのお話も色々と聞かせていただきました。
どれほどそうしてお話をしていたでしょうか。
私は、自分自身に妙な感覚があることに気づきました。
なんというか、その…………む、胸の先の方が、うずうずというか、ジンジンしているのです。
最初は気のせいかと思いました。
実際、少ししたらその感覚も消えたのです。
ですが、すぐにまたジンジンと痺れるような感覚が胸の先から発生し、気のせいではなかったのだと分かりました。
服が擦れているのとも違います。
まるで、その部分にそっと息を吹きかけられているような、そんな感覚なのです。
もちろん! もちろんそんなことを誰かにされたことはありません!
ですが、何かに例えるならそうとしか言いようがないのです。
私は戸惑いました。
こんなこと初めてで、なぜ急にそんな感覚が現れたのかも分かりません。
ほんとに、こんなこと初めてで…………
その自分の頭に浮かんだ『初めて』という言葉に、私ははっとしました。
初めて…………同じ年頃の男性と話したのも、これが初めてです。
私は隣に座るサトルさんの顔を見つめました。
私の知っている誰とも違う、素朴で優しそうな顔のサトルさん。
見ず知らずの人間を助けるために、命をかけて戦ってくれた勇気あるサトルさん。
小さい頃から辛い目に遭っていたのに、それを受け入れて強く生きているサトルさん…………
なぜか目が離せなくなり、私は少し下を見ているサトルさんの顔を、ずっと見ていました。
そして、サトルさんの下がっていた視線が上がり、私と目があったその瞬間。
「あぅん」
胸の先に強い痺れが走り、私は思わず声を上げてしまいました。
今まで感じたことのない、強く、そして甘い感覚。
思わず目を瞑り、私はしばらくその甘い余韻に陶然としていました。
そして、その余韻がゆっくりと消えていくのを寂しく思いながら、再び目を開いたとき。
私は気づいたのです。
この感覚が『恋』なのだと。
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