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肆、寵姫傾国
七、
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外朝における後ろ盾を失い、皇太子と皇后は自身の身に危機が迫っているのを感じる。
例の御花苑の蜂の一件以来、皇帝ははっきりと皇太子に隔意を示すようにもなった。徳妃の策略に嵌ったことに気づいたが、どうしもようない。
徳妃は間違いなく、自らが生んだ偉祥を皇太子に立てたいと考えている。
このままでは、父に疎まれた自分は廃嫡の憂き目にあう。何か、盛り返す策が必要だった。
伯祥を追い落とすために利用した女に、逆に足元を掬われるなんて、皇太子にとっては耐えがたい屈辱。
――だがまだ、徳妃の産んだ皇子は生まれたばかり。つけ入るならそこだ。
幼児の死亡率は高く、わずかなことで命は失われる。それに――
皇太子はあることに気づいた。
偉祥は月足らずで生まれている。母の胎内にいたのは八か月かそこら。
――これはもしや、伯祥の子ではないのか。
皇帝は偉祥が自分に似ていると言うが、そもそも伯祥が皇帝に似ているのだ。
実際にどうであれ、その可能性を噂で振り撒けば、皇帝の目も覚め、偉祥への偏愛も削がれるのでは。
徳妃がもとは息子の嫁である事実も、もう一度世間に思い出させることができる。
徳妃の子は、死んだ魏王伯祥の子ではないか。
徳妃はもともと息子の嫁であったのに、美貌を武器に皇帝を誘惑し、後宮の寵を傾けている。
まさに傾国の毒婦で、世の乱れを招くに違いない。
皇子偉祥も皇帝の種ではないのでは――
皇太子の振り撒いた噂が、密かに出回り始めた。
「皇上駕到!」
独特の抑揚で皇帝の来駕が告げられて、紫玲は立ち上がり、畏まってその訪れを待つ。
「珍しいな、そなたから朕に訪れを請うのは」
「お忙しい中を申し訳ございません」
「よい。……よほどのことがあったと見える。偉祥に関わることか?」
大股で堂を横切ってきた皇帝が言えば、紫玲は優雅に腰を屈め、無言でそれを認めた。
皇帝は紫玲の手を取り、長椅子に導く。
「何が起きた」
紫玲は一瞬皇帝を見上げ、そして躊躇うように顔を俯ける。
「陛下の、御耳にも入ってはおりませんか? 偉祥についての――」
「……あのことか」
皇帝がポツリと言う。
皇子偉祥の父親は、火事で死んだ魏王伯祥ではないか――そんな噂が市井でも、そして後宮でも静かに広がりつつあった。目を伏せて不安げに俯く紫玲の憂い顔に皇帝は胸を掴まれるような気持ちになり、たまらず抱き寄せる。
「陛下……」
「紫玲、そなたは悪くはない。それに、偉祥は朕に瓜二つじゃ」
「はい。陛下の御子に間違いはございません」
皇帝の胸に抱かれ、紫玲は間近からその龍顔を仰ぎ見る。
――愛しい夫を追いつめ、自分を奪った憎い男の顔を。どれほどの嘘を並べても、我が子だけは守らなければ。
「なぜ、そんな噂が出てきたのか、偉祥を貶めようという者がいるのです。……もしかしたら……」
「紫玲? 心当たりがあるのか?」
皇帝に覗き込まれ、紫玲は睫毛を伏せ、思わせぶりに視線を揺らした。
「いえ、きっと、わたくしの思い過ごしです……」
「覚えがあるならば申してみよ。朕とて、悪意ある噂の根は絶たねばならぬと思うておる」
かなりためらったあげくに、紫玲は告げた。
「噂の出どころまではわかりませんが、長秋宮様や東宮様におかれましては、きっと偉祥の誕生を忌々しく思っておられるでしょう。――あの方たちは以前から、わたくしの前の身分のことをあれこれおっしゃっていましたし」
皇帝が、空を睨む。
「……そういうことは、ありうるであろうな」
「わたくしはただ、偉祥には健やかに育ってもらいたいと願うのみ。大それたことなど何一つ望みません。ですが、あちらさまにはわたくしとあの子の存在がそもそも気に入らないと思っていらっしゃる」
怯えたように皇帝に抱き着く紫玲の、折れそうに細い肩をそっと抱き寄せれば、かぐわしい髪の香が皇帝の鼻孔をくすぐる。風にも耐えぬ花のように可憐で、頼る者もない女が、ただ自分の寵だけに縋っている。その儚げな様子に皇帝はますます愛を覚え、優しく抱きしめて囁いた。
「心配せずともよい。そなたのことは、朕が守る。必ず」
皇帝の胸に顔を寄せ、紫玲が微かに、口元に笑みを浮かべた。
それから、数年の月日が流れる。
皇太子の思惑とは違い、皇帝の寵愛はいまだに徳妃の上にある。
密かに、何人かの女を皇帝の目につくように仕向けたりもしたが、皇帝の目は徳妃にだけ向けられている。
偉祥は丈夫な子供で、すくすくと育ちつつあった。
兄の伯祥にそっくりだが、伯祥が皇帝に似ていることもあって、不自然に思う者もいないらしい。
かつて、父に似た兄に抱いた憎らしい感情を、皇太子は歳の離れた異母弟にも抱き、唇を噛み締める。
なぜ、いまだに祟るのだ。あの異母兄が! まだ――
炎の中に焼け落ちたはずの、あの男が――
事態が大きく動いたのは偉祥が五歳の冬。
第二子を妊娠中だった徳妃が、ある夜、おびただしく出血して倒れた。
その日、内廷で政務の残りを片付けていた皇帝は、上奏文を投げ捨てて駆けつける。
徳妃は流産した。
「東宮より寄越した菓子を食した後だと申すのか」
「たまたま……とは存じますが」
青ざめた顔で徳妃が言う。黒い瞳が涙で潤み、白い頬は濡れていた。
「申し訳、ございません……わたくしが不注意で……」
白い手巾に顔を埋め、さめざめと泣く紫玲を、皇帝が抱き寄せる。
「自分を責めるでない。……もし本当にその菓子に問題があるならば……」
皇帝は卓上の菓子器の中に盛られた焼き菓子を見る。
ここ数日、偉祥は風邪をひいていた。その菓子は、皇太子からの見舞いの品だったのだ。
熱は下がったが、偉祥はまだ、甘い菓子を食べるほどには回復していない。妊娠中だった紫玲は、軽い気持ちでそれを一つ摘まんだのだと言うが――
「徐太監!」
皇帝が太監の徐公公を呼べば、即座に美貌の宦官が進み出る。
「御前に」
「この菓子を調べろ。……念のためだ」
「畏まりました」
深く頭を下げて徐公公が菓子器をもって下がると、皇帝は紫玲の細い肩を抱き寄せて言った。
「偉祥はなかなか見ごたえがある。朕は……あれに帝位を譲りたいと思うておる」
皇帝は唇を紫玲の耳元に寄せ、囁くように言った。顎髭が紫玲の耳朶に触れる。
「陛下……儲弐のことは国の大事にございます。我が子は愛おしゅうございますが、ですが、そのせいで危険に巻き込まれるのは……」
「心配せずともよい。そなたと偉祥は朕が守る」
「陛下……」
皇帝の胸に縋り、紫玲は龍袍に顔を埋めて密かにほくそ笑んだ。
紫玲はずっと、一番効果的に皇太子を追い落とす方法を考えていた。
皇太子は慎重な男で、尻尾を出さない。
偉祥の命を狙っているのは間違いないが、たとえ偉祥が倒れたところで、皇帝が皇太子を切りすてるかどうか、紫玲は確信できなかった。皇帝は、自分のことしか考えていない男だ。
皇帝は偉祥を可愛がっていはいるが、そこまでの執着はない。
今、皇帝が執着しているのは、紫玲本人である。皇太子が紫玲に危害を加えれば、皇帝も怒り狂うかも――
紫玲は機会をうかがい、二度目の妊娠を利用した。
今度は正真正銘、皇帝の子。
伯祥の子ではなく、その父親との、罪の子。
――紫玲にとっては今でも、皇帝に抱かれるのは人倫に背く罪深い行いに他ならない。
ただ偉祥を守り、偉祥を帝位に即けるために、心を殺して身体を差し出しているだけ。
罪の証のようにこの身に宿った忌まわしい――そして憐れな子。
この子には罪はない。でも――
紫玲は、自ら毒を口にした。徐公公は最後まで止めたけれど、紫玲の決意は覆らなかった。
罪の子を産む罪と、罪の子を殺す罪。紫玲は胎児の死を利用して、皇太子を告発することを選んだ。
わずかな量でも毒は確実に紫玲の身体を蝕み、激痛にのたうちまわる。流れる血が、胎児の命が失われたことを知らせる。
――わたしが、殺した。夫の父親との罪の子を孕み、その子を自ら殺す。罪に罪を重ね、その罪を以てあの男を追い落としてみせる。
皇太子が贈った菓子から毒が検出された。愛しい女の胎の子を殺され、皇帝は激怒する。
当然、皇太子は無罪を主張したが、聞き入れられず廃嫡。その後、自殺した。母の皇后も廃位され、冷宮に送られ、そこで憂死した。
その報せを聞いた夜、紫玲は、一人、承仁宮の奥の復壁に入る。
版築の壁をくりぬいて作った秘密の小部屋。蝋燭の明かりに照らされたその部屋には無字の白木の位牌が置かれていた。
その前に跪き、無言で祈った。
――ようやく、あなたの恨みを晴らした!
滂沱の涙が流れ、頬を濡らす。
――復讐は成し遂げた。そしてこの罪を以て、わたしは地獄に堕ちる――
翌年。
徳妃蔡氏は皇后に冊立され、皇六子・偉祥が皇太子となる。
例の御花苑の蜂の一件以来、皇帝ははっきりと皇太子に隔意を示すようにもなった。徳妃の策略に嵌ったことに気づいたが、どうしもようない。
徳妃は間違いなく、自らが生んだ偉祥を皇太子に立てたいと考えている。
このままでは、父に疎まれた自分は廃嫡の憂き目にあう。何か、盛り返す策が必要だった。
伯祥を追い落とすために利用した女に、逆に足元を掬われるなんて、皇太子にとっては耐えがたい屈辱。
――だがまだ、徳妃の産んだ皇子は生まれたばかり。つけ入るならそこだ。
幼児の死亡率は高く、わずかなことで命は失われる。それに――
皇太子はあることに気づいた。
偉祥は月足らずで生まれている。母の胎内にいたのは八か月かそこら。
――これはもしや、伯祥の子ではないのか。
皇帝は偉祥が自分に似ていると言うが、そもそも伯祥が皇帝に似ているのだ。
実際にどうであれ、その可能性を噂で振り撒けば、皇帝の目も覚め、偉祥への偏愛も削がれるのでは。
徳妃がもとは息子の嫁である事実も、もう一度世間に思い出させることができる。
徳妃の子は、死んだ魏王伯祥の子ではないか。
徳妃はもともと息子の嫁であったのに、美貌を武器に皇帝を誘惑し、後宮の寵を傾けている。
まさに傾国の毒婦で、世の乱れを招くに違いない。
皇子偉祥も皇帝の種ではないのでは――
皇太子の振り撒いた噂が、密かに出回り始めた。
「皇上駕到!」
独特の抑揚で皇帝の来駕が告げられて、紫玲は立ち上がり、畏まってその訪れを待つ。
「珍しいな、そなたから朕に訪れを請うのは」
「お忙しい中を申し訳ございません」
「よい。……よほどのことがあったと見える。偉祥に関わることか?」
大股で堂を横切ってきた皇帝が言えば、紫玲は優雅に腰を屈め、無言でそれを認めた。
皇帝は紫玲の手を取り、長椅子に導く。
「何が起きた」
紫玲は一瞬皇帝を見上げ、そして躊躇うように顔を俯ける。
「陛下の、御耳にも入ってはおりませんか? 偉祥についての――」
「……あのことか」
皇帝がポツリと言う。
皇子偉祥の父親は、火事で死んだ魏王伯祥ではないか――そんな噂が市井でも、そして後宮でも静かに広がりつつあった。目を伏せて不安げに俯く紫玲の憂い顔に皇帝は胸を掴まれるような気持ちになり、たまらず抱き寄せる。
「陛下……」
「紫玲、そなたは悪くはない。それに、偉祥は朕に瓜二つじゃ」
「はい。陛下の御子に間違いはございません」
皇帝の胸に抱かれ、紫玲は間近からその龍顔を仰ぎ見る。
――愛しい夫を追いつめ、自分を奪った憎い男の顔を。どれほどの嘘を並べても、我が子だけは守らなければ。
「なぜ、そんな噂が出てきたのか、偉祥を貶めようという者がいるのです。……もしかしたら……」
「紫玲? 心当たりがあるのか?」
皇帝に覗き込まれ、紫玲は睫毛を伏せ、思わせぶりに視線を揺らした。
「いえ、きっと、わたくしの思い過ごしです……」
「覚えがあるならば申してみよ。朕とて、悪意ある噂の根は絶たねばならぬと思うておる」
かなりためらったあげくに、紫玲は告げた。
「噂の出どころまではわかりませんが、長秋宮様や東宮様におかれましては、きっと偉祥の誕生を忌々しく思っておられるでしょう。――あの方たちは以前から、わたくしの前の身分のことをあれこれおっしゃっていましたし」
皇帝が、空を睨む。
「……そういうことは、ありうるであろうな」
「わたくしはただ、偉祥には健やかに育ってもらいたいと願うのみ。大それたことなど何一つ望みません。ですが、あちらさまにはわたくしとあの子の存在がそもそも気に入らないと思っていらっしゃる」
怯えたように皇帝に抱き着く紫玲の、折れそうに細い肩をそっと抱き寄せれば、かぐわしい髪の香が皇帝の鼻孔をくすぐる。風にも耐えぬ花のように可憐で、頼る者もない女が、ただ自分の寵だけに縋っている。その儚げな様子に皇帝はますます愛を覚え、優しく抱きしめて囁いた。
「心配せずともよい。そなたのことは、朕が守る。必ず」
皇帝の胸に顔を寄せ、紫玲が微かに、口元に笑みを浮かべた。
それから、数年の月日が流れる。
皇太子の思惑とは違い、皇帝の寵愛はいまだに徳妃の上にある。
密かに、何人かの女を皇帝の目につくように仕向けたりもしたが、皇帝の目は徳妃にだけ向けられている。
偉祥は丈夫な子供で、すくすくと育ちつつあった。
兄の伯祥にそっくりだが、伯祥が皇帝に似ていることもあって、不自然に思う者もいないらしい。
かつて、父に似た兄に抱いた憎らしい感情を、皇太子は歳の離れた異母弟にも抱き、唇を噛み締める。
なぜ、いまだに祟るのだ。あの異母兄が! まだ――
炎の中に焼け落ちたはずの、あの男が――
事態が大きく動いたのは偉祥が五歳の冬。
第二子を妊娠中だった徳妃が、ある夜、おびただしく出血して倒れた。
その日、内廷で政務の残りを片付けていた皇帝は、上奏文を投げ捨てて駆けつける。
徳妃は流産した。
「東宮より寄越した菓子を食した後だと申すのか」
「たまたま……とは存じますが」
青ざめた顔で徳妃が言う。黒い瞳が涙で潤み、白い頬は濡れていた。
「申し訳、ございません……わたくしが不注意で……」
白い手巾に顔を埋め、さめざめと泣く紫玲を、皇帝が抱き寄せる。
「自分を責めるでない。……もし本当にその菓子に問題があるならば……」
皇帝は卓上の菓子器の中に盛られた焼き菓子を見る。
ここ数日、偉祥は風邪をひいていた。その菓子は、皇太子からの見舞いの品だったのだ。
熱は下がったが、偉祥はまだ、甘い菓子を食べるほどには回復していない。妊娠中だった紫玲は、軽い気持ちでそれを一つ摘まんだのだと言うが――
「徐太監!」
皇帝が太監の徐公公を呼べば、即座に美貌の宦官が進み出る。
「御前に」
「この菓子を調べろ。……念のためだ」
「畏まりました」
深く頭を下げて徐公公が菓子器をもって下がると、皇帝は紫玲の細い肩を抱き寄せて言った。
「偉祥はなかなか見ごたえがある。朕は……あれに帝位を譲りたいと思うておる」
皇帝は唇を紫玲の耳元に寄せ、囁くように言った。顎髭が紫玲の耳朶に触れる。
「陛下……儲弐のことは国の大事にございます。我が子は愛おしゅうございますが、ですが、そのせいで危険に巻き込まれるのは……」
「心配せずともよい。そなたと偉祥は朕が守る」
「陛下……」
皇帝の胸に縋り、紫玲は龍袍に顔を埋めて密かにほくそ笑んだ。
紫玲はずっと、一番効果的に皇太子を追い落とす方法を考えていた。
皇太子は慎重な男で、尻尾を出さない。
偉祥の命を狙っているのは間違いないが、たとえ偉祥が倒れたところで、皇帝が皇太子を切りすてるかどうか、紫玲は確信できなかった。皇帝は、自分のことしか考えていない男だ。
皇帝は偉祥を可愛がっていはいるが、そこまでの執着はない。
今、皇帝が執着しているのは、紫玲本人である。皇太子が紫玲に危害を加えれば、皇帝も怒り狂うかも――
紫玲は機会をうかがい、二度目の妊娠を利用した。
今度は正真正銘、皇帝の子。
伯祥の子ではなく、その父親との、罪の子。
――紫玲にとっては今でも、皇帝に抱かれるのは人倫に背く罪深い行いに他ならない。
ただ偉祥を守り、偉祥を帝位に即けるために、心を殺して身体を差し出しているだけ。
罪の証のようにこの身に宿った忌まわしい――そして憐れな子。
この子には罪はない。でも――
紫玲は、自ら毒を口にした。徐公公は最後まで止めたけれど、紫玲の決意は覆らなかった。
罪の子を産む罪と、罪の子を殺す罪。紫玲は胎児の死を利用して、皇太子を告発することを選んだ。
わずかな量でも毒は確実に紫玲の身体を蝕み、激痛にのたうちまわる。流れる血が、胎児の命が失われたことを知らせる。
――わたしが、殺した。夫の父親との罪の子を孕み、その子を自ら殺す。罪に罪を重ね、その罪を以てあの男を追い落としてみせる。
皇太子が贈った菓子から毒が検出された。愛しい女の胎の子を殺され、皇帝は激怒する。
当然、皇太子は無罪を主張したが、聞き入れられず廃嫡。その後、自殺した。母の皇后も廃位され、冷宮に送られ、そこで憂死した。
その報せを聞いた夜、紫玲は、一人、承仁宮の奥の復壁に入る。
版築の壁をくりぬいて作った秘密の小部屋。蝋燭の明かりに照らされたその部屋には無字の白木の位牌が置かれていた。
その前に跪き、無言で祈った。
――ようやく、あなたの恨みを晴らした!
滂沱の涙が流れ、頬を濡らす。
――復讐は成し遂げた。そしてこの罪を以て、わたしは地獄に堕ちる――
翌年。
徳妃蔡氏は皇后に冊立され、皇六子・偉祥が皇太子となる。
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