家政夫は大変です

蒼龍葵

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第一部 久住家にようこそ

優しい唇と悪魔の指先

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 夜になってベンツの到着音が聞こえたことに安堵する。
 やっと愁一さんに会える。なんで今まで全然帰って来なかったのだろう。
 会いたかった……
 ん、まてよ、会いたいとはまた違う。単純に愁一さんがこの久住4兄弟の中で1番まともな人間だからだ。
 と、とにかく、愁一さんとしっかり話をして、まさかこんな契約だと思わなかったし、内容を少し変えてもらわないと。

「お帰りなさい、愁一さん」
「ただいま、綾人」

 彼は相変わらず上質なスーツをびしっと着こなし、側に寄ると甘美なトワレの香りが鼻腔を掠めた。

「上着、お預かりします」
「ああ」

 レザーバックとジャケットを預かった瞬間、まるで連れ添った女房のようで少しだけ恥ずかしくなった。
 俺が惚けている間に愁一さんは自分の部屋に向かって歩き出す。俺は慌てて3歩後ろを歩き、愁一さんの部屋に向かった。

 そういえば、まだ愁一さんの部屋には入ったことがない。ついでに契約内容と、仕事についてもう少し彼と話をしなくてはならない。
 この自由過ぎる兄弟に付き合っていたら躰が持ちません!

「……何か言いたそうな顔だな?」

 部屋の入口に突っ立ったまま動かない俺を見かねて、ネクタイを緩めた愁一さんが近づいて来た。
 あーもう、ネクタイを外して胸元も少しはだけた状態なんて──エロいです愁一さん。

「他の兄弟のこと、なんですけど……」
「あぁ、手がつけられないか……やはりな。では、給料も予定の倍額支払おう」

 金持ちはすぐにぽんぽん金額を上げて解決しようとする……!
 しかも、倍額って恐ろしいんですけど、それより今の仕事内容の方が問題なわけで。
 別に、兄弟が嫌いなわけじゃない。それぞれみんな格好いいし、エッチが激しいくらいで、俺に傷をつけるようなこともしない。

「あの、そうじゃなくて……躰が持たないです。その……色々と」
「そうか」

 何を言いたいのか察してくれたらしい。
 ふっと口元を緩めた愁一は綾人の顎を掴み、そのまま唇を重ねてきた。

「んっ……」

 クラクラする香りに、優しい唇。半開きになった唇の中に無遠慮な舌が乱入してきた。そのまま俺の唾液を貪るように吸い上げ一旦離れていく。

「はぁ……はぁ……」
「綾人、私はお前を手放す気はない。もしあいつらが手に負えない時は、この部屋に逃げ込んでくるといい。私の部屋にあいつらは入らないから」
「そ、そんなことしてもいいんですか?」
「当然だ。お前は私のものだよ綾人。弟達の面倒もみてほしいとお願いしたが、手に負えないのは分かっていた」

 ですよねぇ。確かにみんな前の人とは違うとか言っていたから、余程手余ししてドロップアウトしていったのだろう。

「済まない」
「ちょ、ちょっと! 愁一さんは悪くないですって! 俺に頭なんて下げないでください」

 俺は愁一さんに謝って欲しかったわけじゃない。リストラされた俺に衣食住をぽんと提供してくれた優しさ。
 今も、お互いのことを何も知らないけど、それでも怖い感じはない。

「愁一さんにお会いしたら、契約内容を少し見直してもらおうと思っていたんです。でも……」

 まだ頭を下げている雇い主をそっと抱きしめる。

「今のままで十分です」
「綾人……」

 そう、8年勤めた愛着もあった会社をクビになったショックを俺はすっかり忘れていた。
 気がつくとあの兄弟のことが頭を過ぎる。俺のどこがいいんだ? なんて思うけど、求められることに不快はない。

「綾人、来い」
「ん、んっ……」

 スイッチが入ったのか、俺は愁一さんに抱き上げられ、そのままキングサイズのベッドの上にそっと下ろされた。
 さっき風呂に入ってきて良かった。じゃないと兄弟達に散々悪戯されたままの躰になっていた。

「お前は香りがないから、すぐに男の移り香がつくのが問題だな」

 あ、速攻でバレてる。一体誰の匂いなのだろう。渉さんは香水なんて使わないし、匠真さんは確かに爽やかな香りがするけど、別に香水って感じじゃない。
 瑛太さんには今日は朝から会ってないから匂いがつくなんて。

「えっと……さっきは渉さんと匠真さんと風呂にいってました…」
「……あいつら2人が揃っている時は近づかない方が賢明だ」

 確かに、12年間抱き合うような関係の二人に介入するのは危険だ。
 でも、いくらこの屋敷が広くてもどうしても誰かには会ってしまう。生活時間がバラバラってこともないし、契約がある限り求められたら応じないといけないから難しいと思う。

「んっ……」

 愁一さんのキスは頭がとろとろになる。激しいものではないけど、恋人に向けて行う甘いものだから、躰の芯がずん、と疼く。

「んっ、ぁ……」

 愁一さんの長い指が後ろの蕾にそっと触れてきた。流石に何度も彼らに連続で求められていたので少し痛い。
 触れただけで何があったのか察したのだろう。指は一瞬で後退する。

「しゅ、いち……さん?」

 躰は愁一さんを求めて疼いていたので、内壁が物欲しげにヒクついた。

「いきなり無理をさせてしまったな。弟達に釘を刺しておこう」
「い、いえ、大丈夫です……」

 大丈夫ではない。大丈夫ではないけど、愁一の躰が無償に欲しい。
 俺は頭がおかしくなったのだろうか。ケツは壊れたと思うくらい変な感覚だし、はっきり言って自分のものとは思えない声をずっと上げていたから喉も痛い。
 彼の弟達に、あちこち開発されて頭がおかしくなったのだろうか。それとも、紳士的に抱いてくれるこの腕の優しさに蕩けてしまったのか。
 どっちでもいい。俺は、愁一さんに抱いて欲しいって思ったから。

「キスだけでイけそうだな」
「な……んんっ」

 パジャマを脱がされ、露わになった乳首を口に含まれ、舌先で転がされた。俺も、と思い愁一さんのワイシャツに手をかけたが、頭の上にネクタイで拘束された。
 愁一のキスは腹部まで降り、下着の中で苦しそうに喘ぐ半身はまだ触ってもいない。

「愁一さん……さ、触って、ください……」
「可愛いな、綾人は」

 真っ赤になったまま懇願すると、愁一は布越しで半立ちの幹をしごいた。上から暖かいローションを垂らされ、愁一の舌はまた乳首を悪戯する。

「あっ、ああ!」

 舐めて欲しい。もどかしい。手淫だけでもイケそうだったけど、物足りなさを感じてしまうくらい、俺の躰は開発されていた。

「もっと……欲しい……!」

 ふっと微笑んだ愁一は俺の両足を持ち上げ、カエルがひっくり返ったような恥ずかしい姿勢にした所で、完全に彼の目の前に晒している蕾も同時に刺激してきた。

「あっ、ああっ!!」

 指が無遠慮に中を蹂躙する。入口に垂らされたローションがどんどん奥の方に入り、ぐちゅ、ぐちゅといやらしい音を立てた。
 頭から犯される。スローセックスに俺の全身は悦びに震えた。なかなかいかせてもらえない。けれども、与えられる愛情の深さを感じる。

「愁一、さん……」
「欲しいのか」
「はい……コレが、欲しい……」

 どうしてポロポロの状態なのに愁一を求めたのか自分でもさっぱり分からない。こんなに優しいならば、やめてくださいと言うことくらい出来た筈だった。
 なのに、彼の眸に魅入られて、頭の芯から足の先までとろとろになるくらいのキスを浴びていたら、途中でやめるなんて選択肢は無かった。

 弟達のセックスが激しすぎることは伝えたし、明日からはきちんとした家政夫が出来るかもしれない。
 2回イカされたところで俺は愁一さんに何度も優しく囁かれて深い眠りについた。
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