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第一部 久住家にようこそ
天使は突然やってくる
しおりを挟む「ん……」
朝になって目が覚めたら隣にいたはずの人物の姿はどこにも無かった。しかも、愁一さんの部屋で眠っていたはずなのに、今はシルクのパジャマを着せられて自分に与えられた部屋のベッドに寝かされていた。また知らない間に俺を運んでくれたのだろう。
やはり愁一さんは優しい。躰のどこも痛くない……って、こっちが絆されただけなんだけど。
「まだ6時か。たまにご飯作りたいな」
最初の契約で別に食べたいものを勝手に作ってもいいと言われていたので、庶民的な料理が恋しくなった俺は調理場に足を向けた。
一応、一階の奥にある調理場に人の気配はあったが、お互いの顔が見えないように仕切られていた。
これは雇われた人間が内部の人間に変な気を起こさないようにするためなのか。
「ひ、広すぎるな……」
シェフとはまた違うところに綾人専用のキッチンと冷蔵庫が増設されていた。
専用の調理場は一般家庭のキッチン3個分くらいの広さ。有名な時短家政婦さんじゃない限り俺の料理スキルでは当たり前だが持て余す。
「卵……。そうだ、あれ作ろうっか」
久住兄弟が何を食べたいのかさっぱりわからないけど、簡単に好き嫌いなく食べれるものにしようと思い、卵と青葉、味噌と醤油、砂糖、刻みネギとチーズを混ぜた卵焼きを作った。
まるでホテルのバイキング形式のように長テーブルに並べられていたので、新鮮な野菜をそこから拝借する。
俺の作る味噌汁は母親から叩き込まれた直伝の味がある。久しぶりに自分で作った料理の味に満足してエプロンを外した。
「よし、こんなもんか?」
「おっはよー。あれ、綾人早いね」
あくびをして食堂にやってきたのは渉一人だった。他の兄弟は仕事の始まり時間が自由なので基本昼まで動かないことが多い。
「おはようございます渉さん。今日は日勤ですか」
「うん。定時で帰れると思うよ。あ、卵焼きだ。僕好きなんだよ」
鼻をヒクつかせて出来上がる食事を待っている彼の姿はやはり愛らしい。
昨日風呂場であんなに乱れていた姿とはとても思えない。実は双子で、エッチの時と仕事にいく時は入れ替わっているのではないかと疑いたくなるくらい別人に見える。
『あっ、ああっ……綾人、激しい……』
『渉さん、ここが気持ちいいんですか?』
『っん……もっと、奥……コッチ』
『裸エプロンとか、渉さんエロすぎる──』
いやいや、エロいのは俺のピンクな脳みそだろう!!
ほわほわしている渉さんがレア過ぎて、俺はフリルのエプロンをつけて悶える渉さんを妄想してしまった。しかも、似合いすぎる……。
朝っぱらから何考えてるんだ。渉さんはこれから仕事に行く人なんだって。
ついついエロい兄弟に絆されて忘れかけていたけど、キッチンを自由に使えるのだから、これから料理も頑張って、少しでも夜の営み以外で家政夫らしいことが出来たら、値段に見合う働きになるんじゃないか?
「今日は綾人が作ったご飯いただきます」
「卵焼きと付け合わせの野菜、味噌汁しかないですよ?」
「十分だよ、僕は朝食食べることが少なくて、いつもマヤさんに怒られるんだ」
マヤさんか。確か、渉さんの憧れの先輩だったような。陶酔しているので、彼がマヤさんの話をすると眸の色が変わる。
「……渉さん、他の皆さんは?」
「愁一兄さんはもう出勤したし、瑛太兄さんは今日出かける用事があるみたいで、多分お風呂に行ってると思う。匠真はまだ起きられないから当分寝てるよ」
匠真さんが起きられない理由はひとつしかない。この二人は兄弟なのにかなりおかしくて、毎晩躰の関係ありをもう12年間続けているという。
天使のような笑顔で、とんでもなく絶倫な渉はなかなか満足してくれなくて、匠真の方が体力が続かなくて参っているらしい。
「青葉とチーズが入ってる。美味しいね」
「ありがとうございます。これ一つで色々な栄養が取れると母から昔教わった料理です」
「うん! 味噌汁も美味しい。シェフには申し訳ないんだけど、朝は殆ど食べないんだ。でも綾人が作ってくれるなら、食べてから仕事に行こうかな……」
朝食を取らないと頭が悪くなるとか、集中力が欠けるとかいう話がある。それはブドウ糖が足りなくなるとかそんな話だったと思うけれども、俺が作る料理程度で渉さんがしっかり朝ご飯を食べてくれるなら家政夫冥利に尽きる。
「そうですよ、それに、朝食を毎日食べたら先輩看護師さんに褒められるんじゃないですか?」
「えへへ……マヤさんにナデナデされたいなぁ」
渉さんをこんなに陶酔させるなんて、そのマヤって看護師に嫉妬してしまう。一体どんな人なのか。知るのは怖いけど、見てみたい気もある。
「それに、俺の庶民料理で満足してくださるのでしたら毎日バリエーション考えて作りますよ。やっぱりみなさんに元気で輝いて欲しいですし」
「綾人、朝からそんな可愛いこと言っちゃダメだよ」
食事を終えた彼は肉食獣の眸をぎらつかせて俺に抱きついてきた。
「後は、デザートを頂いてから仕事に行ってきます」
「え、何も作ってないですよ?」
「あるでしょう、僕の目の前に」
渉は手慣れた手つきで綾人のチノパンを下げ、下着の中からそっと目的のものを取り出すと躊躇なく口に含んだ。
「あ、渉さんっ!? お、お仕事っ……っんん」
「大丈夫だよ、間に合うから」
口で食みながら舌ったらずな言い方でしゃぶられると足の力ががくっと抜けそうになる。
「綾人、シンクに掴まってしっかり立っててね?」
「う、うぅ……」
そう言われても尋常じゃない程卓越したフェラに足に力が入らない。
可愛い舌がちらちらと敏感な部分を舐め、強弱をつけて吸い上げられると同時に、右手が一緒に幹を上下に擦っていく。
長い睫毛が時々こちらの反応をうかがうように上目使いで見つめてくる。
て、天使の顔して……そんなもの朝から舐めないで欲しいっ……!!
「あ、渉さ……ん……離して……もう、ヤバ……」
「んむ……」
手淫と口淫の同時攻めに耐えきれなくなった俺は声を殺して渉の口の中に放ってしまっていた。
うわああああああやってしまった。
どうしよう。これから仕事に行く人にこんな、こんな……こんな!!
猛烈な罪悪感に見舞われている俺の横で天使はにっこりと微笑むと、口の横についた精液を何事もなかったかのように舐めていた。
「じゃ、行ってきます。朝ご飯もデザートも美味しかったよ、綾人」
最後にちゅっと唇に触れるだけのキスを落として天使は仕事に行った。
でも、やってる行為とあの顔は天使とはかけ離れている。
「あれは天使じゃなくて、堕天使だ。毎朝、ご飯の度にこれじゃあ……」
ずるずると力なくフローリングに座り、頭を振って項垂れる綾人の呟きを拾ってくれる人は誰もいなかった。
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