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第一部 久住家にようこそ
狡猾な小娘と鬼畜なプログラマー
しおりを挟む久住家に飼われてから、俺の携帯に知り合いが電話してくることは少ない。
しかも発信者は電話帳に登録していない番号……誰だろうと訝しながら着信に出る。
「もしもし?」
『久しぶり、元気』
その声に思わず声を失った。一体どうして元カノの麻耶からこんなタイミングで電話が来るんだ!?
キッチンのシンクを背もたれにしながら電話に手を当てて思わず小声になる。
「いや、元気っていうか、何で俺の電話番号……」
『綾人って、久住さんのお家で働いてるって本当?』
久住家は美形兄弟がいることで有名だ。全員があのルックスに仕事内容……モテないわけがない。
しかし、俺以外の使用人は全員別棟をそれぞれ与えられているらしく、屋敷の外部にわざわざ出ることも少ないため、ここで働いているという情報が漏れることはない。
それに俺の携帯はここで飼われる際に愁一さんが新しいものに変更したので、連絡先が消えたし、番号も変わった。
一体どこから新しい番号が漏れたんだ。ハッキングでもされたか?
「えっ……いや、そのぉ……」
『実は、綾人にお願いがあって……匠真さんと会えないかなあ?』
よりによって匠真さんか……この兄弟の中で一番ぱっと見た感じの派手さがなく、真面目で誠実っぽい。麻耶も見る目あるなあなんて思わず感心してしまう。
『綾人もまだフリーでしょう? 合コンしないかって提案があって、男性が二人足りないのよ』
「はああ……大体、匠真さん忙しいから確定は出来ないよ。それに、俺の都合で──って、あ」
横からひょいと携帯電話を奪われる。俺の電話を奪い取った匠真は最初から話を聴いていたのか、にっこりと微笑んだ。
「こんばんは、久住匠真です。君が麻耶ちゃんね。来週の土曜日? オーケー。俺の仕事は家でプログラムできるものだから、その方向で予定開けておくよ」
じゃあね、と勝手に電話を切りそのまま携帯電話を返してくれた。
「あ、あの匠真さん……」
「合コンの人数埋め程度に元彼の綾人を呼び出すなんて、相当神経の太い元カノだね」
今回の合コンは明らかに匠真さん狙いだろう。だから返事を渋ったのに一体匠真さんは何を考えているのだろう?
「元彼女にも興味あるし、行くよ」
「すいません……匠真さんにご迷惑を……」
しょぼんと項垂れると匠真が額に軽いキスをしてきた。
「……ま、こないだのお詫びも兼ねてね。この程度で制裁できるとは思っていないけど」
「ははっ。でもあれは愁一さんがすごく怒っていたので気を付けてくださいよ」
T高校での一件の詫びも兼ねて付き合ってくれるらしい。ここの兄弟達は愁一さんには絶対に逆らわないし、彼の言う事は絶対だ。
今もおやすみ、と手にキスをしただけで匠真は大人しく部屋に戻っていった。拍子抜けだ。
◇
約束の土曜日──待ち合わせの場所には女子6人、男子4人が揃っていた。
そこに綾人と匠真が合流した瞬間、女子がきゃあきゃあ黄色い声をあげた。当然だ、匠真さんは黙っているとテレビでよく見るモデルみたいな容姿なのだから。
「綾人、久しぶりね。今日はありがとっ」
「感謝しろよ、この人、こんな軽い付き合いに来れる人じゃないんだから」
「わかってるわよー。んじゃあいきましょー」
昔と同じように麻耶は自然と俺の腕を取って自分の腕に絡めてきた。まさか、本当にヨリを戻したいのだろうか。いや、まさかな。
麻耶と別れたのはほんの些細な喧嘩が発端で、別に彼女のことを嫌って別れたわけではない。
もう何年も昔のことだし、今更よりを戻すことはないだろう。
飲み会は匠真の周りに女子がきゃあきゃあ行かないように対面式になっていた。
俺の隣に匠真さんと麻耶が座り、他のメンバーも偏らないように配慮されている。
「匠真さん、お仕事は何されてるんですかあ?」
「プログラムの組み立てとデータの整理かな。後はハックされたパソコンの修復と新しいプログラムの入れ直し。要するにIT関係全般だね。因みに、綾人は俺の大事な秘書」
ぐいっといきなり肩を寄せられて飲んでいたビールを零しそうになった。
俺がリストラされたのはみんな多分知っているし、この先俺に仕事の矛先が来た時に話題にならないよう気を使ってくれたのだろうか?
「綾人、今日は本当にありがとう」
帰り際、麻耶は俺と二人きりになりたいとみんなと違う方向に向かった。
「ねえ、私達……もう一度付き合わない?」
「俺は……」
「久住さんの家で働いているんでしょう?どんな感じ? 仕事は……」
付き合おう、と言う割に訊いてくる内容は匠真さんや兄弟のことだった。
「なぁんだ。やっぱりね……最初はちゃんと綾人のこと見てるのかと思ったけど、女ってそうだよな」
「た、匠真さん!?」
いつの間に俺達の後ろを追跡していたのだろう。
「久住の家は金鶴としか思わない女は絶対に受け入れない。もう二度と綾人を使って探ろうとするな」
「ご、ごめんなさい……綾人、またね……?」
今更またねと言われてももう麻耶に恋愛感情なんてない。帰ったら連絡先も消そう。
要するに、金だろ。
S商事に勤めていた頃は麻耶と上手くやれていた。それが別れる切欠になったのが彼女の周りにT商事に勤めるイケメンからアプローチが来てから。
顔が良くて、安定した仕事。彼女は俺を捨ててそのイケメンに走ったのだ。
「……綾人、ホテル、いく?」
耳元で囁かれる声が酷く優しい。俺の目は彼の大きな手で覆われていたが、眦から悔し涙が伝っていた。
◇
「あ……んん」
「声、押さえなくてもいいよ、今日は家じゃないし」
いつもの癖で口を押えてしまっていたが、匠真にやんわりと剥がされる。
今日は酷く優しい。いつも鬼畜なこの人がふんわりと触れるだけのキスしかしてこない。
「匠真さん……」
「何、激しくされたい?」
「……ッ…んなの……」
わかってるくせに、この男はわざと聞いてくる。
ベッドに寝転んだままふいっと顔を背けると首筋をきつく吸い上げられた。そのまま肩口も軽く喰まれる。
「な、に」
「お望み通り。激しくされたいんだろ? あの狡猾な小娘を忘れさせてやるよ……」
獰猛な獣になった匠真は瞼に口づけながら片手で器用に綾人のシャツを脱がせた。
途中から抵抗が出来ないように両腕をヘッドボードに固定する。
「あー……今日は色々持ってないから、暴れんなよ?」
俺様気質の匠真の甘い声にゾクゾクしてしまう。
そうだ、今は麻耶よりもこの人たちに翻弄されてから、すっかり変わってしまっていた。抵抗なんてするわけがない。匠真の首にぎゅっとしがみつき、酷くして欲しいと囁き返すと、目の前の獣が嬉しそうに笑った。
──その日は結局朝まで離してもらえず、電話に出ない上、無断で朝帰りしたことを心配した愁一に怒られる羽目となる。
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