家政夫は大変です

蒼龍葵

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第一部 久住家にようこそ

天使の病気は魔性の香り

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 病院で働いている渉もインフルエンザには勝てなかったらしい。
 3日間自宅安静と熱が下がるまでは出社出来ない為、今も部屋から出ずに眠っている。
 心配性の匠真が「どうすればいい?」と部屋前でうろうろしているが、こればかりは抗ウイルス薬を飲んで栄養をつけて治すしかない。

「匠真さんもお仕事があるでしょう。渉さんのことは俺に任せてください」
「あ、あぁ……頼む綾人」

 いくら匠真の仕事が自宅で出来る範疇とは言え、外部から頼まれる仕事はかなり多い。
 家政夫の自分はこの兄弟の健康管理が仕事なので、これだけは他の人には頼みたくない。むしろこういう仕事の方がいい。

 渉の部屋をノックして薬とお粥をもって中に入る。

「渉さん、お薬と食事です」
「……あやと?」

 熱はなかなか38度から下がらずぐったりしている渉は顔も真っ赤で布団の隙間から顔だけ覗かせていた。
 解熱剤を使うと言っても何故か座薬は嫌だと拒否するため結局弱い薬で対応していた。

「あやと、ここ…きて」
「はい」

 渉のベッドの上に腰掛け、彼の背中を支えてゆっくりと上体を引き起こす。
 リクライニングベッドではないから加減が難しい。

「眩暈します? 吐きそう?」
「……ん、大丈夫」

 目を閉じたままの渉の唇に木のスプーンを当てる。せめて少しでも栄養を取らないと病気って治りにくい。

「これ、綾人が作ってくれたの?」
「え、ええ。やっぱシェフにお願いすりゃ良かったかな……」

 素人が作るものより専属のシェフに任せるべきだったかな、と思ったが、意外なことに渉が目を輝かせた。

「綾人が作ってくれたものなら食べる!」
「渉さんは優しいですね。俺の料理なんて普通ですよ普通……」

 口を開けてスプーンが運ばれるのを待っている渉は餌を待つ小雛のように可愛らしかった。
 具合が悪い人を目の前にしてるのに何を考えているんだ俺は!!
 一瞬だけ理性がぐらつく。スプーンにのったお粥をもぐもぐしている姿、熱が下がらないせいで色っぽい吐息。いつもより潤んだアーモンド形の二重の眸。
 視線を泳がせる俺を不審に思ったのか渉はふふっと笑っていた。

「……綾人、もしかして、欲情しちゃった?」
「ち、ちがっ」

 何でバレたんだろう。そんなに俺って態度に出やすいんだろうか?
 小雛が小悪魔の顔に変貌し、熱い指先で俺の喉仏にそっと触れて、そのまま鎖骨、胸元へとするすると降りていく。

「綾人、ドキドキしてる。こういう時は沢山汗をかくといいんだよ」

 って、熱38度もある人間が何言ってんだ。やばい、このままだと変な方向に流されそうだから早く薬を飲ませて部屋から出ないと。

「渉さん、後は薬を──って」

 俺をベッドの上に押し倒した渉さんは逃げられないようにしっかりと馬乗りになった。

「あ、渉さん!」
「あー……綾人の躰つめたくて気持ちいぃ」
「冷たくて気持ちいいんでしたら好きなだけ触ってください」
「綾人にインフルエンザうつしちゃうね。ごめんね……」
「いいですよ、今更ですから」

 飛沫感染に、接触感染──間違いなくうつるだろう。それでもいい。渉が早く元気になってくれるなら。
 冷たくて気持ちいいと言いながらあちこち触っていく渉に全てを委ねていると、全然関係ない下半身まで天使の顔が下がって来た。

「渉さん、そこは冷たくないでしょっ」
「うん、綾人のココ……すごく熱くなってる。風邪引いた時は熱いもの食べたいよね?」

 いや、風邪じゃないし。そもそも、食べ物じゃないし!!
 

「──っあ!?」

 舌先で先端を舐めたと思いきや、ぱくっと口の中に含んだ。そのまま飴を転がすように舌で肉棒を舐めている。
 なんで、高熱なのにこのテクだけは変わらないんだ。やっぱ天性の魔性か!?

「綾人の、気持ちいい声すごく好き。もっと聞かせて……」
「あっ…いや、そうじゃなくて……渉さんちゃんと……寝て、くださ」
「うん、綾人と一緒に寝るよ?」

 そうじゃない、その寝るじゃなくてっ!!
 もうこの人のフェラが気持ちよすぎて上手く言葉が出ない。いつもより息が上がっているせいか、渉の口から漏れる吐息も色気を増していた。

「渉さんっ!!」
「ん……?」

 渉の肩を掴んで押し倒すと彼は簡単にベッドに沈んだ。

「たまには、俺だって渉さんを気持ちよくさせたいです」
「あやと……」

 とは言え、いつもしてもらって何ですけど、こういうのって初めてなんだよなあ。 
 気持ちよく出来るか分からないが、俺はお返しとばかりに渉さんの半身を舐めた。

「んっ……」

 ご奉仕好きの渉にとって、まさか自分が奉仕されるとは思っていなかったのだろう。ぴくりと身じろぎながら色っぽい吐息を零している。

 あぁ、こういうことか。
 好きなひとの、気持ちいいと思う声や態度が見たくて渉さんは……。

「綾人、ちょっと……無理、しないで」
「気持ちいいの? 渉さん」
「んんぅ……きもち、いい……」

 口に含んだままわざと音を立てながらそう言うと渉は躰を桜色に染めた。
 先端に軽く歯を立てると甘い声を上げて渉の細い躰がしなる。

「あ……っだめ、……我慢、できな…ぃ」

 眦から渉の綺麗な涙が伝い落ちる。我慢するな、とさらに深くまで渉の雄を銜えると、どろりとした精が吐き出された。
 流石に初めての体験で全部飲むことは出来なかったけど、喉の奥が辛い。
 何度も咽る俺を見かねて渉がバカと小さく呟いた。

「……そういうのは……綾人にさせたくない……」

 潤んだ目でこちらを見つめる渉は気恥ずかしそうな顔をしていた。

「気持ちよかったですか?」
「うん……最高」

 吐精してさらに気だるくなった躰をシーツに沈めて渉は薬を何とか気力で飲み、眸を閉じた。

「良かった……ゆっくり眠ってくださいね」

 お粥と薬の空を持ち、綾人は部屋のドアを閉める。

「はああああっ~~」

 俺は病人に何てことをしてしまったんだと猛烈な自責の念に駆られて渉の部屋の前にずるずると座り込んでしまった。


 翌日、渉の熱は下がり、インフルエンザを受け継いだ綾人の看病を嬉しそうにしていた。

「綾人、昨日はありがとうね。お礼に僕も綾人の看病全部するから……こういう時は、いっぱい汗をかくといいんだよ?」

 薬と謎の注射を持っている渉が怖い!
 お願いだから、病気の時はゆっくり寝かせてくださいと心から願う綾人なのであった。
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