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ラカトリア学園 高等部

145 婚約者という名の絶望 2

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 メアリは今にも泣きそうな声で、右手で指輪を握りしめ、まるで祈りを捧げるかのように額に当て涙を流していた。今の言葉はそんなに何か悪いことだったのか? 
 この展開……女性三人に対して、俺一人では到底太刀打ちができない。

「メアリさん。泣かないで、アレスさんはきっと照れているだけですよ。肝心な事は何も言ってくれないけど、アレスさんは優しいから」

「はい」

 パメラはメアリに心配そうに寄り添っているが、俺を見ると目を細め何かを訴えていた。
 つまり、この俺に何かを言えと言うことか? これだと、まるで茶番に付き合わされている気分だな。
 俺のことを本気で慕っているというのか?

 俺が何をしてこんな事になったと言うんだ?
 ミーアやパメラだって、たまたま助けただけだ。たったそれだけのことが、これだけ大事になるはずもない。

「アレス様?」

「ミ、ミーア。すこしは俺の話をだな」

「メアリ様にとって、あの指輪が何故大事なのかお分かりですよね?」

「い、いや、あのだな……」

「それに私の物も、とても大切な思い出の宝物です。お慕いしているお相手から、たとえ同じ物が他にあったにせよ、これだけは変えられない宝なのですよ?」

 ミーアのそれと同じ様に、メアリにとってあれは同様の価値があると? ミーアと違い、たった数日居ただけだと言うのにか?
 何でこんな事になった? ちょっと助けたってだけの話だろ?
 あの時コテージで一緒のベッドに寝たから?

「アレス様?」

「わからねえよ……何でこんな事に……」

「私達は皆、アレス様をお慕いしております。私達の行動や言動。そして、嫉妬もアレス様と共に居たいからなのです」

 そんな事は言われなくても分かる。
 でも俺には、そうなる資格がないんだ……怖いんだよ。
 ミーアじゃなくても、パメラでもメアリでも、他の誰かでも俺が殺してしまうことに……離れようとしても離れることもなく、そして新たな道連れが用意される。

「ですので、もう少しだけで構いません、もっと寛容に成られてください。私達は常にアレス様のお側に居ます。離れることなど……どうかお捨てください」

 そうなのか、これが俺にとっての普通になるというわけか。
 もしかすると、これからもシナリオはどんどん俺への対策を強めるために、俺を羽交い締めにするのだろう。

 そして、いつの日かあの光景を目にするまで……。

「ああ、やっぱりそうなるんだな」

 俺はその言葉と同時に、まるで糸が切れたかのように意識を失った。


   * * *


 何であの二人があれだけ、執拗に俺のことに執着をしていたのか。
 目が覚めると一人ベッドの上でぼーっと窓の外を見ていた。
 ここに来て心が折れそうになっていた。

 足掻くことで、俺には守るべき者が増えていく。
 メアリはただ助けたいと思っただけで、好意なんて元から気にもしていない。それなのに今は好意をぶつけられ、婚約者として俺の近くにいる。

 俺はこれから先どうすれば?
 こんな負の連鎖に似たシナリオは過酷でしか無い。
 俺が助けた。それだけで済まされず、婚約者として俺の隣に居る。
 それがどれだけ危険なことか……三人は何も知らないから。

 俺だけが知っている、最悪の結末はやはり変えられそうにもない。

 ダンジョンに居る時が一番良かった。何も考えずただレベルを上げ、最後の目的のためにという言い訳が成り立ったから。
 今更一人で行動したとしても、誰もがそれを許さない。

 それに、ミーアはあの時俺を追うといった。
 例えどんな場所だろうとも、命をかけてまで……何をやっても彼女達はきっと折れない、それはなぜか?
 他に婚約者が出来ようとも、俺を好きだという人間が近くにいようとも、必ず彼女は隣りにいる。それはなぜか?

「俺が攻略対象だから……か」

 このゲームの主人公はアレスではない。パメラ、レフリア、ミーアが主人公の世界だ。最後にもう一人いるらしいが、その話は多分、今は関係ないだろう。
 俺がここにいることでシナリオは歪み、全く別のキャラですら俺を攻略しようとしているのだ。

 これ以上行動することで、事態の改善は無くただ悪化していく。
 俺は何もかも諦めて、誰かを犠牲にして、最後の時を待てば良いのだろうか?
 シナリオはそれを望んでいるということか?
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