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2.スープの回
しおりを挟む〝悪逆非道〟〝冷酷〟〝そこに行けばどんな奴隷でも揃う〟〝王室神殿公認〟
数えればキリがない程に悪名高いこの商会は、代々続く由緒ある世襲制の商会らしい。
中央都と呼ばれる華やかでいて煌びやかな整備されたこの国の中心部にはお貴族様や王室、神殿の他に様々なお店が立ち並び、勿論他の奴隷を取り扱う商店も存在するけど、〝奴隷専門〟で有名なのは、ここ、〝ヴァルグリム奴隷商会〟だ。
中央都にあるお店の前を一回通ったことがあるけど、重厚感のある高そうな建物に、屈強な門番。
中はある程度の身分が無いと入ることすら叶わないらしい。
そんなお金持ちかつ権力のある商会の会長のご飯を作ることになるなんて、お店の前を通った時は考えもつかなかった
。
「えま、さま。おつぎは、おへやにごあんないする、ます」
ーーーーーぐるぎゅぎゅぎゅー。
お腹の音だ。
25番ちゃんは咄嗟にお腹を押さえた後、ボンっと効果音がしそうなくらいに突然茹で上がる。真っ赤な顔を隠したいのにお腹を隠さなきゃいけない。そんな風にわたわたと慌て出した。
「…おなか、空いてますか?」
「い!いえ!25ばんおなかすいてな」ぐるぎゅぎゅぎゅーー…。
また再度鳴ったおなかの音に、とうとう25番ちゃんは俯いてしまう。
ふむ、と、辺りを見渡すと、食べられそうなものが置いてある食材置き場を見つけた。
ちょっとだけ、ちょっとだけわくわくしている自分がいる。
新しい厨房、目の前にはおなかを空かせた子供。
そしてわたしはごはん炊き。やることと言えば一つだ。
「ご飯、食べましょう!」
にっこり、思わず自分でも頬が綻んでしまったのがわかった。
25番ちゃんは私の方を見上げると、びっくりしたように目を見開く。
「えまさまのごはん……?」
「兎獣人さんだから野菜系のメニューがいいですよね、好き嫌いはありますか?」
「…おにく、たべる、しない、ます」
「りょーかい!」
手頃な植物でできたカゴがあったので、それをひっつかみ、足早に食材置き場に向かう。
赤根一本。ちいさめの白玉葱一個。土芋は二個。お、白牙だ。ちょっと匂いが強いけどこれは強壮薬でもあるし、一片だけ入れよう。
ぽいぽいとリズミカルにカゴに入れていく。
葉巻菜。春の葉巻菜は甘くて美味しいんだよね~。これは…薄桃色の岩塩に、高いけどグッと味が良くなるちょっとだけスパイシーな黒胡実、乾き月桂の葉もある。
……え!?それに油もある!?すごい、オリブの実の油だ。調味料も充実した台所だなあ。
干し肉は灰角豚に原鶏…よくある干し肉だけど、今日はお肉嫌いな25番ちゃんのためのメニューだ。これらは使わないでおこう。
そうだ、骨ならいっか。
それと、原鶏のたまごがあるからそっちも使おう。
「25番ちゃん、お水はどうしてる?」
「……え、あ、
おみず、えるふがつくった、みずまほうのいしがある、てをかざす、おみずでる、ます。
ほのおも、おなじ。だけど、まきじゅんびして、てをかざす、ます」
「なるほどこれね!
はー…すごいなあ、エルフさんは。
こんな小さな石なのにすごい丁寧に彫り込まれてる。
じゃー遠慮なく…こうかな?」
おー、すごい。
綺麗なお水が丁度よく台所の水場に流れ出した。
カゴから野菜を取り出し、じゃぶじゃぶと洗う。
泥がついていると美味しくないのは全世界共通である。
また再度手をかざすと、お水は止まった。
…なんだか井戸の往復をしたり水がめの容量を気にしなくていいなんて、これってもしかしてすごい高いのでは…?なんて思ったりもする。
気にしないでおこう。気にしたら負けだこれ。
野菜を切り分けていく、25番ちゃんは兎獣人だ。
ヒューマンよりも口が小さいから、ちいさめちいさめに。
本当は皮を切りたいところだけど、お店で出すわけじゃないし春野菜の皮は甘くて美味しいから見た目が悪くてもいっかあ。
同様に、かまどに薪を入れ手をかざす。天板が温まったら、まず、鍋にオリブの油を少しだけ。
みじん切りにした白牙のかけらを入れると、厨房にふんわり美味しそうな匂いが漂い出した。
続いて細かく刻んだ野菜を投入。
ここで焦ってはいけない。
とにかくゆっくり、時折火から下ろしながら焦げ付かないように炒めていくのが美味しさのポイントだ。
そうすると、野菜が油を吸ってつやつやと輝く。このつやつやになった野菜はじんわりと優しい甘さを出してくれる。
炒め終えたら、香りのいい乾き月桂の葉に、調味料、原鶏の身では無く骨を入れる。
塩と黒胡実だけだとどうしても薄くなってしまうから、出汁を少しだけ。
真っ白とまではいかないけど、麦粉があったので、水を加えて団子を作る。
平べったい形が好きなのですこしへそをつけながら、スープへと投入していく。侮るなかれ、これがもちもちで美味しいのだ。
骨と乾き月桂の葉を取り出して、あとはコトコトと煮て。仕上げに溶き卵を入れれば完成だ。
おいしくなれ、おいしくなれ。そう思いながらかき混ぜる。
「おいしそ、な、におい」
「…はい、お待たせしました!
ありあわせで作った麦団子入りの野菜スープです
熱いから、気をつけて食べてね」
立ちっぱなしで、座りもせずに、ずっとそわそわしていた25番ちゃんの前に大きめのスープを出すと、キラキラうるうるした可愛らしい瞳で私とスープを交互に見比べる。
食べていい!?食べていい!?と言わんばかりの目だったので、どうぞ、と言うとすごい勢いで食べ始める。
あっつ、あっつ、はふ、ほふ、うま、
そんな声が聞こえると、わたしは嬉しくなってしまう。
「…えまさま、たべない、ますか?」
「わたしはね、25番ちゃんが食べてるのを見るのが楽しいから。いっぱい食べて?」
「そです、か、はい!」
どうやら25番ちゃんは赤根が好きらしい。確かにうさぎって赤根を好んで食べているイメージだ。
美味しい美味しいと言ってくれると、どうしたって心が潤ってしまうのはごはん炊きのサガだろうか。
25番ちゃんの血色が、会った時より少しだけ良くなった気がする。きっとあたたかいものパワーである。
ーーーーーぴくり。
夢中で食べていた25番ちゃんの耳が震えた。
お皿のスープを一気に飲み干すと、シャツで口元を拭う。そして厨房の扉へと体を向き直し、背筋を伸ばした。
「えまさま、こちらへ」
「……え、あ、うん」
言われるがままに25番ちゃんの横に立つ。突然のことすぎてなにがなんだかわからない。
「ーーーーーーーーーおかえりなさいませ、ごしゅじんさま」
深々と頭を下げながら25番ちゃんは、確かにそう言った。
それと同時に扉が開く。
そこには、この家の主人。
アデル・ヴァルグリム様がいらっしゃった。
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