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第50話 銀狐、とある人と出会う 其の二

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 白霆はくていから香るものが、昔どこかで嗅いだことのあるような懐かしい香りなのだ。

 
「──なぁ? 白霆はくてい。お前何か香りのするもの、身体に付けてたりするのか?」

 
 晧の唐突な質問に、白霆はくていがきょとんとした表情をする。

 
「いえ、職業柄そういった類のものは付けておりませんが……どうしました?」
「え、そうなのか? お前から時々、懐かしい何かいい匂いがするんだが、どこで嗅いだのか覚えてなくてな。だから何の匂いか聞こうと……──白霆はくてい?」

 
 白霆はくていが息を呑むのが分かった。
 まさか、と小さく呟いた彼の声を狐の聴力が捉える。
 途端に変わった顔色に、晧の方が驚愕した。香りのことを尋ねただけで、どうしてこんなに白霆はくていが動揺するのか分からない。何か怪しい薬や薫香でも使っているのかと思ったが、そういった類は独特の気配や匂いがする為、鼻の利く晧にはすぐに分かるのだ。
 可能性はただひとつ。この香りは白霆はくていが本来持っている香りだということだ。

 
「──晧、私は……」
「ん?」

 
 白霆はくていが神妙な顔付きでじっと晧を見つめる。
 首を傾げながらも、晧が白霆はくていの話を聞こうとした、その時だった。
 ぴん、と晧の灰銀黒の耳が真っ直ぐに立つ。何か聞こえた気がして左右前後に耳を動かす。まるで遠くのものを、より聞こうとしているかのように。

 
「晧……」
「しっ! 静かに。いま……確かに何か聞こえた」

 
 晧は乾飯と干肉を布鞄にしまうと岩から立ち上がった。
 灰銀黒の狐耳に手を宛い、物音のした方向に向かって歩き出す。
 晧と白霆はくていは登山道から少し離れたところで休憩していた。音が聞こえたのは、更に奥の道の方だ。
 実は登山道の他にも、いくつか道が存在している。そのほとんどがこの山に住む者達が、隣の集落と行き来をしたり、枝を広い集めたり、木を切ったり、必要最低限の獣を狩ったりと、生活の為に毎日歩いて踏みしめた道なき道だ。頻繁に山に入っている者以外は、迷うことを怖れてほとんど使われることはない。
 この道もその一部なのだろう。
 木漏れ日が差し込んで、背の長い草を倒して出来た道が綺羅綺羅と輝いている。

 
(……ああ、この先だ)

 
 物音は確かに道の奥から聞こえてくる。

 
白霆はくてい……声だ! 人の苦しそうな声が聞こえる!」 
 
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