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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

初めてのお客さま 1 ラグジュアリー感を考え内装に凝ったらお金尽きる .

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「ひ、暇過ぎです……」

 豪華な革張りの椅子に座る、頭にブリムを着けたメイド姿の雪乃フルエレは、これまた豪華な彫刻が施された木製の長方形のテーブルに突っ伏する。各テーブルの上には煌びやかなステンドグラスの魔法力ランプが灯っており、各窓にはレースのカーテンがかけられている。いつの間にか冒険者ギルド内はほぼ純喫茶の様相になっていた。

「フルエレ、私はもうこのお店の余り物のウェルカムドリンクとハートマークの入ったオムレツとやらは飽きました。違う味の物が食べてみたいのですが。贅沢は言いません、城で出た食事を出しなさい」

 何故かウエイターの恰好をした砂緒すなおが黙々とフルエレの正面で食事をしている。

「貴方……食べるのは苦手と言ってなかったかしら……」

 ―数日前。

「ひ、暇過ぎです……」

 メイドさんの恰好をしたフルエレは、冒険者ギルドの巨大なコルクボード前のカウンターに突っ伏する。コルクボードには『草引き依頼』『屋根の修理』『結婚式への出席』などの言っては悪いが冒険と無関係な依頼ばかりが少数貼られている。これはもう冒険者ギルドでは無くて、シルバー人材センターの範疇だった。
 ガチャッ

「あ、お客様いらっしゃいませ冒険者の方ですか?」
「おおお、雪乃ちゃん、朝採り野菜を置いて行くから、使ってくだされ」
「あ、有難うございます!」

 再び突っ伏するフルエレ。

「わざわざ野菜を無料でもらっておきながら、あからさまにがっかり顔をするのはおよしなさい」
「してないしてない笑顔でした!」
「フルエレ……何故ニンゲンが寄り付かないか分かりますか?」
「え、何故なの?」

 理由は明白だった。ここは続く戦乱による過疎化と、営業再開したばかりでまだ人に知れ渡っていないだけ、それが最大の理由だったが……

「貴方はお客様のラグジュアリー感を考えた事があるのですか!?」
「ら、ラグジュアリー……感ですって!?」

 砂緒の突然の言葉に雷に打たれた様な衝撃を受けるフルエレ。

「そうなのです。例え目的外のお客様であっても、いつまでも居たくなる、そんな滞留時間を伸ばす、その為にはラグジュアリー感が重要なのですよ!」
「た、滞留時間ですって!?」

 確かにフルエレがホール内を見渡しても、味気ない丸椅子が数個並ぶだけ、とてもラグジュアリー感等とは無縁な場所だった。

「早速王都に家具を買いに行きましょう!」
「はい!」

 そして店内には豪華な革張りの椅子とテーブルが運び込まれた。衣図いずライグの計らいで多少他の者よりも多めにお金を配分された二人だが、かなりの打撃だった。

「まだ足りませんね。椅子とテーブルだけでは。安心感を与えるインテリア等も導入しましょうか」
「え、えーお金が……そろそろ」

 自信満々の砂緒だが、デパートだった時に中の人々が言っていた事をオウム返ししているだけだった!
 ガチャッ

「あ、お客様いらっしゃいませ冒険者の方ですか?」
「すーなーおくんー! 小競り合いレベルだが、ニナルティナの連中が性懲りも無く攻めて来やがった! また一緒に戦おうぜ」

 大将衣図いずライグだ。ここリュフミュランの端っこにあるライグ村は、隣国のニナルティナから度々侵攻を受け、今まで大将の実力一つで事実上王都の防波堤となっていた。

「静かにして下さい。今店内の家具の配置で悩んでいる所なのです。戦争などにかまけている暇はないのですよ! 自分達の実力で応戦してください」
「お、おま……ここが滅亡したらお前らの所為だからな! 幽霊になって出るぞ」
「良いのかしら、本当に放っていて」

 フルエレが心配そうに言う。

「安心して下さい、この村は魔戦車を鹵獲し、さらに魔銃を多数保有して急速に防御力がアップしているのです! 大将は分配金で複数の防塁も建設、もはや以前の敵は敵では無いでしょう」
「そうなんだ」
「それにもし本当に危険になったらちゃんと出動しますよ。ここが滅亡したらフルエレが困りますからね」
「まあ」

 フルエレは頬に両手を置いて、如何にも人間的にまともな事を口走る砂緒に喜んだ。

「しかし……まだ足りない物があります。それはお客様に無料でお出しするウェルカムドリンクサービスと、えそんなお値段で食べれるの!? と500Nゴールド程度で食べれるオムレツ等のフードメニューです。オムレツの上にはハートマークも重要なのですよ」
「フード……メニュー……?」

 先程の砂緒の嬉しい言葉に軽い洗脳状態に入ったフルエレは、ふらふらと言う通り従ってしまっていた。

「まだ足りない物がありますね。それはお客様が入って来た時に聞き逃さぬように、入り口のドアにぶら下がってて、カランコロンカランコロン鳴るドアベルです!!」
「はっドアベルですって!?」

 それはもはや喫茶店だった。


「やっぱりひ、暇過ぎです……」

 当たり前だが砂緒のアイディアは何の意味も無かった! 豪華内装の為に殆どのお金を使い果たし、食費も切り詰めなければならない有様だった。

「自分を恨みたい。もう少し多めにお金を貰えば良かった……三分の一くらいは。なんで軌道に乗る前に店内内装なんかに凝っちゃったんだろう……」

 黙々と砂緒がオムレツを食べる横でフルエレが沈み込んでく。

「でも良いじゃないですか、私はここにフルエレと居るだけでなんだか安心しますよ」
「……そ、その手には騙されませんから」

 フルエレは怒っているのに笑顔が出て来て隠しきれず、下を向いた。
 ガチャッカランコロンカランコロンカラン

「あ、お客様いらっしゃいませ冒険者の方ですか?」
「何だこのうるさい物体は? 取れ」

 一緒に戦った高身長の女戦士イェラさんだった。鎧姿では無いイェラはスタイルバツグンであり男達の羨望の的だったが、非常に強く誰も手だし出来ない上に、彼女自身も人を寄せ付けない物があった。

「あ、イェラさんですか、ようこそ……お越しくださいました」
「あからさまにがっかりだな」
「安心するのです、この子は大体においてこのような態度のニンゲンなのですよ」
「変な嘘つかないで下さい!」

 無言で言い争う二人を見守り続けるイェラ。

「ここは常に人も居なくて居心地が良い。手芸をするのでしばらく使って良いか?」
「はい……そうですね、人居ないですものね。は!? 手芸をするんですか?」

 突然生き返ってフルエレが聞く。

「そうだ変か」
「いいえ凄く素敵です! 何を作ってるんですか?」
「キルトだ」
「誰かにあげちゃうんですか?」
「いや、作っては貯蔵してるだけだ」

 イェラは革張りの豪華な椅子に座りこむと、ぐーーっと手を伸ばし反り返って背筋を伸ばす。その途端にフルエレとは比べられない程の量感のある大きな胸が天井に向かって突き出る。女子のフルエレもごくりと唾を飲み込んだ。

「イェラ……」

 はっと振り返ると砂緒がイェラを三白眼で凝視している。砂緒は人間になったばかりのゴーレムだと思い込んでいるので安心していたが、こういう事に興味が出始めちゃった!? と少し心配になってきた。

「ウェルカムドリンクは何に致しましょう」

 職務に忠実だった!

「グレープフルーツソーダだ覚えておけ」
「かしこまりました」

 砂緒はすたすたと無言で簡易調理場に行った。ほぼ店員その物だった。
 ガチャッカランコロンカランコロンカラン
その場に残った二人が音が鳴るドアを向く。

「はいはい……どうせ兵隊さんかおじいさんか、リズさんでしょうね」

 フルエレが諦め顔で開いたドアの前まで出迎えると、フルエレよりもまだ小さい年齢と思われる、銀髪のおさげ髪をしたとても可愛い女の子が立っている。

「私、猫呼ねここクラウディアと申すものです。遠く旅をしているのですが、リュフミュランにも冒険者ギルドが復活したと聞き及びましてやって来ました。入ってもよろしいでしょうか?」
「おきゃ、おきゃ、お客さんらった」

 フルエレが震えながら少女をぎこちなく案内する。入って来た少女は髪の毛の上に白い猫耳が生えいて可愛いスカートには尻尾まで生えていた。
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