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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟
路面念車に乗って 6 きゃあっデンジャラスゾーンに迷い込んでしまった…
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少し時間を遡る。雪乃フルエレと為嘉アルベルトは、現在新ニナルティナ南部にあるハルカ城の政庁を、港湾都市に移転させるべく、市庁舎の視察をし終わった所であった。
「……やっぱり現在の市庁舎をそのまま使用するのは容積的に難しいと思います」
フルエレは率直な意見を言った。
「その様だね、あちこちの空き家やオフィスなんかに分散移転しても、使用する人々の不便になりかねない……」
「やはり離宮公園の方も視察が必要ですね……」
(なんちゃって、綺麗な公園に行ってデートしてみたい……)
下から覗き込む様に、にこっと笑ったフルエレはとても可愛くて、思わずうっとなる。
「そ、そうだね……それにー、お腹も空いて来たしサンドイッチとか飲み物とか買って、食べたり散策してみたり……なんてー嫌かな?」
前回フルエレが別荘から逃走した事件があり、アルベルトさんは徹底的に慎重に話を進める。
「私も同じ事考えてました!! 別荘にお誘いして頂いた時に、私とち狂っちゃって変な帰り方してしまったから、アルベルトさんに謝らなきゃって……お誘いしてもらって凄く嬉しいです」
フルエレもほぼ同時に同じ事を考えていた。
「あーそれは僕の方が悪かった話だから、ははは……」
二人は市庁舎周辺で食べ物と飲み物を買い、路線を一周して戻って来た路面念車に乗り込んだ。
「あーこっち行きは凄く空いてて良かったです! やっと座れるし景色も見れそう」
「そうだね」
二人は並んでロングシートに座った……
車窓から見える景色には、やはり破壊されたままの建物が多くあった。
「やっぱりまだまだあちこち壊れたまま……本当に心が痛むの」
(この内の数パーセントは確実に私が壊した物だから)
「……」
アルベルトさんは敢えて何も言わず黙ったまま聞いていた。
「あーあ、ニナルティナ湾タワーが折れたままだよ、あの二本の塔が並ぶ姿が好きだったのになあ、雪乃フルエレとか言う女はなんて事をしてくれたんだか……」
前のシートに座っていた中年男性が、フルエレの言葉に触発されたのかポツリと言った。
「それは違いますよ!」
「ええっ!?」
突然アルベルトさんが立ち上がり、目の前の中年男性に向かって抗議し始めた。
「やめて下さい、良いですから」
フルエレはアルベルトさんの服を引っ張り、小声で必死に止めた。喧嘩になって彼が怪我したり、逆に魔法で怪我をさせたりすれば大事になる。
「この街の破壊は、各国による占領に反対する旧ニナルティナ軍残党が、おびただしい数の魔竜を召喚し街を破壊させたテロ行為と、正体不明な黒い魔ローダーによる破壊が原因で、雪乃フルエレという女性はそれらからこの街を守った側なんですよ!!」
アルベルトさんは人目もはばからず必死反論した。だがしかし竜を召喚したのは、当の根名ニナルティナ王が雇っていた、悪い魔導士達とは知らなかった。
「そ、そうかよ……」
アルベルトさんの迫力に負け、中年男性は二両目に移動して行ってくれた……
「有難うございます……でも」
「でも?」
「でももし喧嘩にでもなったら……だからああいう事はもう止めて下さい……」
「ありがた迷惑だったかな……でも僕が本気でフルエレ君の誤解を、解いて廻りたいと言った事は信じて欲しい」
「は、はい……それは嬉しいです」
フルエレは嬉しかった半面、おっとりとした金持ちのいいとこのお坊ちゃま的に見ていたアルベルトさんが、こうした激しい意外な面を持っていた事に驚いた。今後こうした事で彼が窮地に立ったりしないか少し心配になった……
(う、他のお客さんの視線が気になる……)
中年男性は二両目に移動してくれたが、他の残りの客の時折チラチラ見て来る視線が、気になって終始落ち着かなくなったフルエレだった。
「離宮公園、とても広くて綺麗な感じですね」
「ああ、先の王様のもう一つのお城だからね。もうここにも移転で決まりだよね……」
「そうだ、大きな綺麗な池があるそうですね、そこでお昼を食べませんか!」
フルエレはうきうきして言った。
「ああそうしよう!」
アルベルトさんも嬉しそうだった。二人は笑顔で語らいながら、適当なベンチを探して座りお昼を広げた。
「わぁー美味しそう! 恥ずかしいけど私食べるの好きです、えへへ」
「ううん、何でもぱくぱく美味しく食べる子は可愛いと思うよ」
そんな事を言われると、食べる場面を見られるのかと少し意識してサンドイッチを取った。
「さあ食べてよ」
「はい、では頂きま~~~~~す…………ん?」
フルエレが笑顔でサンドイッチを頬張ろうと、サンドイッチを構えると、構えた先にカップルの座るベンチがあった。ただそのカップルのスカート姿の女性は男性の膝の上に乗っかって、激しいキスをしている最中だった……
(うっ)
途端にフルエレの身体はカチンコチンに固まった。
「ん、どうしたんだい?」
笑顔で横を向いたアルベルトさんも気付いてしまった。少し離れてはいるが、自分達が座るベンチの両側のカップルも激しく密着してキスを始めていた。その途端、再び激しく唾を飲み込んでしまう……
「ゴクリ……」
(何だここは)
「ぱくり、あ凄く美味しいですよ、あ、アルベルトさんもどうぞ」
(フルエレ君は……見ない方針にした、よし私もそれに続こう! 彼女に恥をかかせぬ為に!)
「お、そうなのかい? それでは一つ、僕も頂こうかな、ははは……」
ガッチガチに固まったぎこちない動きでサンドイッチを取り食べ始めるが、食べた心地がしないし味もよく分からなかった。
「美味しいですね、ぱくぱく」
「そ、そうだね……」
しばらく二人は黙々と食べ続けた。
「………………」
「………………」
「…………もう我慢出来ない! 折角フルエレ君と楽しく……四時前だとしてもこんなに明るいのになんと破廉恥な! 二・三人蹴って来ます!!」
「やーめてーーーー!!」
(アルベルトさんが壊れたッッ!! 砂緒みたいな事言い出した……)
「もう食べて早く出ちゃいましょ……」
「少し抗議してくるだけですよ」
「いや、それはそれで通報されるから……ほんとに、ああっ!?」
「うわっ!?」
フルエレが立ち上がろうとしたアルベルトさんを押し留めようとした瞬間、タマゴサンドがアルベルトさんの高そうなスーツパンツにベチャッと付き、おまけに飲み物が膝から足首にかけてガバッとかかった。フルエレの顔は真っ暗になり斜線が掛かった……
(あああああーーーやってしまった!!!)
「すすすすす、すいませんっごめんなさいごめんなさい!!」
平謝りに謝った。
「いやいいんだ、僕が悪い、今のは完全に僕が悪い」
アルベルトさんは液体がかかった部分を引っ張った。
「なーそろそろ帰ろうよ、もういいだろ?」
魔輪を道路横に停車して、セレネが砂緒に帰宅を促した。
「あともう少しだけ、ねね良いでしょう、あと少しだけ」
「お前は……帰宅拒否かよ」
「そうだ、あそこの公園行って散策しましょう!」
「少しだけだぞ……」
セレネは高い宝石を貰った事もあり、無下に断る事は出来なかった。
二人は離宮公園の中をフラフラと散策した。
「思い出した……ここはこれからの時間ダメな所だ」
「ん、何が駄目なのですか? モンスターでも出るのですか?」
「いや違うけど、ここは……駄目だって、引き返そう……」
「いや行きましょう行きましょう、何があるのか楽しみです! ふふふふふ」
砂緒はセレネの腕を掴むと、強引に奥へ奥へと連れて行った。
「あ……そういう事ですか……」
砂緒とセレネが公園の中に進むと、若い男女があちこちのベンチで絡み合っていた……
「な、分かっただろ、もういいだろ帰ろ」
不安になったセレネは無意識で砂緒の腕に強く抱き着いていた……
「あっっっ!! 何という事でしょうか」
「ど、どした!?」
「セレネって本当に胸の膨らみがあったのですね……今ほのかに柔らかな感触が……」
「本気で怒るぞ」
セレネはパッと腕から離れる。
「実は私、もしセレネが男の娘だったとしても、受け入れる覚悟と準備はしていたんです!」
「そんな覚悟するな」
「そうだ! ここらへんのカップル全てにちょっかい出して廻りましょう! わはははは」
フラフラと歩き出す砂緒の腕を掴んで必死に止めるセレネ。
「それやったら本気絶交だからな」
「どらどら、良いカップルはいますかな?」
砂緒は有料双眼鏡の能力を、決して使ってはいけない場面で発動してみた。
(ん~~~どのカップルさんも激しいですなあ、結構結構……ん? あんな所にフルエレの様な後ろ姿が……)
「どした?」
セレネが砂緒を見ると、信じられない様な怒りとも悲しみとも判別出来ない顔になっていた。砂緒の目には、フルエレがアルベルトさんの前にしゃがみこみ、なにか妖しい動きをさせられている様に見えた……
「ちょっと待ってて下さい、今からブラジルを殺して来ます。止めても無駄ですから」
「お、おい? どうしたんだ??」
セレネの声も聞かず、砂緒は全速力で走り出した。
「ごめんなさい、拭いても拭いても全然落ちない……」
フルエレは立ち上がり、冷や汗の出る額を拭った。
「い、いやいいんだよ、本当にいいんだ、こんなの後で洗えば良いからね」
(フ、フルエレ君、ここでしゃがみ込むポーズはやめたまえ……天然なのかな何て言えば)
「ブラジル殺す!! フルエレも、フルエレもこんな所にノコノコ来て!!」
猛ダッシュで走る砂緒の双眼鏡の視界に、ハンカチを持って立ち上がり、こぼれたサンドイッチを回収するフルエレの姿が見えた……
(あ、勘違いでしたあああああ、良くあるパターンでしたあ、恥ずかしぃーーーーーーーー)
砂緒はアメリカの子供向けアニメのキャラクターの様に、キキッと急ブレーキをかけると、反転してすぐさまセレネの元に戻って来た。
「どうしたー?」
「私の勘違いでした、出ましょう、気分悪いですここ」
「ん???」
砂緒がようやく出る気になってホッとしたセレネだった。
「……やっぱり現在の市庁舎をそのまま使用するのは容積的に難しいと思います」
フルエレは率直な意見を言った。
「その様だね、あちこちの空き家やオフィスなんかに分散移転しても、使用する人々の不便になりかねない……」
「やはり離宮公園の方も視察が必要ですね……」
(なんちゃって、綺麗な公園に行ってデートしてみたい……)
下から覗き込む様に、にこっと笑ったフルエレはとても可愛くて、思わずうっとなる。
「そ、そうだね……それにー、お腹も空いて来たしサンドイッチとか飲み物とか買って、食べたり散策してみたり……なんてー嫌かな?」
前回フルエレが別荘から逃走した事件があり、アルベルトさんは徹底的に慎重に話を進める。
「私も同じ事考えてました!! 別荘にお誘いして頂いた時に、私とち狂っちゃって変な帰り方してしまったから、アルベルトさんに謝らなきゃって……お誘いしてもらって凄く嬉しいです」
フルエレもほぼ同時に同じ事を考えていた。
「あーそれは僕の方が悪かった話だから、ははは……」
二人は市庁舎周辺で食べ物と飲み物を買い、路線を一周して戻って来た路面念車に乗り込んだ。
「あーこっち行きは凄く空いてて良かったです! やっと座れるし景色も見れそう」
「そうだね」
二人は並んでロングシートに座った……
車窓から見える景色には、やはり破壊されたままの建物が多くあった。
「やっぱりまだまだあちこち壊れたまま……本当に心が痛むの」
(この内の数パーセントは確実に私が壊した物だから)
「……」
アルベルトさんは敢えて何も言わず黙ったまま聞いていた。
「あーあ、ニナルティナ湾タワーが折れたままだよ、あの二本の塔が並ぶ姿が好きだったのになあ、雪乃フルエレとか言う女はなんて事をしてくれたんだか……」
前のシートに座っていた中年男性が、フルエレの言葉に触発されたのかポツリと言った。
「それは違いますよ!」
「ええっ!?」
突然アルベルトさんが立ち上がり、目の前の中年男性に向かって抗議し始めた。
「やめて下さい、良いですから」
フルエレはアルベルトさんの服を引っ張り、小声で必死に止めた。喧嘩になって彼が怪我したり、逆に魔法で怪我をさせたりすれば大事になる。
「この街の破壊は、各国による占領に反対する旧ニナルティナ軍残党が、おびただしい数の魔竜を召喚し街を破壊させたテロ行為と、正体不明な黒い魔ローダーによる破壊が原因で、雪乃フルエレという女性はそれらからこの街を守った側なんですよ!!」
アルベルトさんは人目もはばからず必死反論した。だがしかし竜を召喚したのは、当の根名ニナルティナ王が雇っていた、悪い魔導士達とは知らなかった。
「そ、そうかよ……」
アルベルトさんの迫力に負け、中年男性は二両目に移動して行ってくれた……
「有難うございます……でも」
「でも?」
「でももし喧嘩にでもなったら……だからああいう事はもう止めて下さい……」
「ありがた迷惑だったかな……でも僕が本気でフルエレ君の誤解を、解いて廻りたいと言った事は信じて欲しい」
「は、はい……それは嬉しいです」
フルエレは嬉しかった半面、おっとりとした金持ちのいいとこのお坊ちゃま的に見ていたアルベルトさんが、こうした激しい意外な面を持っていた事に驚いた。今後こうした事で彼が窮地に立ったりしないか少し心配になった……
(う、他のお客さんの視線が気になる……)
中年男性は二両目に移動してくれたが、他の残りの客の時折チラチラ見て来る視線が、気になって終始落ち着かなくなったフルエレだった。
「離宮公園、とても広くて綺麗な感じですね」
「ああ、先の王様のもう一つのお城だからね。もうここにも移転で決まりだよね……」
「そうだ、大きな綺麗な池があるそうですね、そこでお昼を食べませんか!」
フルエレはうきうきして言った。
「ああそうしよう!」
アルベルトさんも嬉しそうだった。二人は笑顔で語らいながら、適当なベンチを探して座りお昼を広げた。
「わぁー美味しそう! 恥ずかしいけど私食べるの好きです、えへへ」
「ううん、何でもぱくぱく美味しく食べる子は可愛いと思うよ」
そんな事を言われると、食べる場面を見られるのかと少し意識してサンドイッチを取った。
「さあ食べてよ」
「はい、では頂きま~~~~~す…………ん?」
フルエレが笑顔でサンドイッチを頬張ろうと、サンドイッチを構えると、構えた先にカップルの座るベンチがあった。ただそのカップルのスカート姿の女性は男性の膝の上に乗っかって、激しいキスをしている最中だった……
(うっ)
途端にフルエレの身体はカチンコチンに固まった。
「ん、どうしたんだい?」
笑顔で横を向いたアルベルトさんも気付いてしまった。少し離れてはいるが、自分達が座るベンチの両側のカップルも激しく密着してキスを始めていた。その途端、再び激しく唾を飲み込んでしまう……
「ゴクリ……」
(何だここは)
「ぱくり、あ凄く美味しいですよ、あ、アルベルトさんもどうぞ」
(フルエレ君は……見ない方針にした、よし私もそれに続こう! 彼女に恥をかかせぬ為に!)
「お、そうなのかい? それでは一つ、僕も頂こうかな、ははは……」
ガッチガチに固まったぎこちない動きでサンドイッチを取り食べ始めるが、食べた心地がしないし味もよく分からなかった。
「美味しいですね、ぱくぱく」
「そ、そうだね……」
しばらく二人は黙々と食べ続けた。
「………………」
「………………」
「…………もう我慢出来ない! 折角フルエレ君と楽しく……四時前だとしてもこんなに明るいのになんと破廉恥な! 二・三人蹴って来ます!!」
「やーめてーーーー!!」
(アルベルトさんが壊れたッッ!! 砂緒みたいな事言い出した……)
「もう食べて早く出ちゃいましょ……」
「少し抗議してくるだけですよ」
「いや、それはそれで通報されるから……ほんとに、ああっ!?」
「うわっ!?」
フルエレが立ち上がろうとしたアルベルトさんを押し留めようとした瞬間、タマゴサンドがアルベルトさんの高そうなスーツパンツにベチャッと付き、おまけに飲み物が膝から足首にかけてガバッとかかった。フルエレの顔は真っ暗になり斜線が掛かった……
(あああああーーーやってしまった!!!)
「すすすすす、すいませんっごめんなさいごめんなさい!!」
平謝りに謝った。
「いやいいんだ、僕が悪い、今のは完全に僕が悪い」
アルベルトさんは液体がかかった部分を引っ張った。
「なーそろそろ帰ろうよ、もういいだろ?」
魔輪を道路横に停車して、セレネが砂緒に帰宅を促した。
「あともう少しだけ、ねね良いでしょう、あと少しだけ」
「お前は……帰宅拒否かよ」
「そうだ、あそこの公園行って散策しましょう!」
「少しだけだぞ……」
セレネは高い宝石を貰った事もあり、無下に断る事は出来なかった。
二人は離宮公園の中をフラフラと散策した。
「思い出した……ここはこれからの時間ダメな所だ」
「ん、何が駄目なのですか? モンスターでも出るのですか?」
「いや違うけど、ここは……駄目だって、引き返そう……」
「いや行きましょう行きましょう、何があるのか楽しみです! ふふふふふ」
砂緒はセレネの腕を掴むと、強引に奥へ奥へと連れて行った。
「あ……そういう事ですか……」
砂緒とセレネが公園の中に進むと、若い男女があちこちのベンチで絡み合っていた……
「な、分かっただろ、もういいだろ帰ろ」
不安になったセレネは無意識で砂緒の腕に強く抱き着いていた……
「あっっっ!! 何という事でしょうか」
「ど、どした!?」
「セレネって本当に胸の膨らみがあったのですね……今ほのかに柔らかな感触が……」
「本気で怒るぞ」
セレネはパッと腕から離れる。
「実は私、もしセレネが男の娘だったとしても、受け入れる覚悟と準備はしていたんです!」
「そんな覚悟するな」
「そうだ! ここらへんのカップル全てにちょっかい出して廻りましょう! わはははは」
フラフラと歩き出す砂緒の腕を掴んで必死に止めるセレネ。
「それやったら本気絶交だからな」
「どらどら、良いカップルはいますかな?」
砂緒は有料双眼鏡の能力を、決して使ってはいけない場面で発動してみた。
(ん~~~どのカップルさんも激しいですなあ、結構結構……ん? あんな所にフルエレの様な後ろ姿が……)
「どした?」
セレネが砂緒を見ると、信じられない様な怒りとも悲しみとも判別出来ない顔になっていた。砂緒の目には、フルエレがアルベルトさんの前にしゃがみこみ、なにか妖しい動きをさせられている様に見えた……
「ちょっと待ってて下さい、今からブラジルを殺して来ます。止めても無駄ですから」
「お、おい? どうしたんだ??」
セレネの声も聞かず、砂緒は全速力で走り出した。
「ごめんなさい、拭いても拭いても全然落ちない……」
フルエレは立ち上がり、冷や汗の出る額を拭った。
「い、いやいいんだよ、本当にいいんだ、こんなの後で洗えば良いからね」
(フ、フルエレ君、ここでしゃがみ込むポーズはやめたまえ……天然なのかな何て言えば)
「ブラジル殺す!! フルエレも、フルエレもこんな所にノコノコ来て!!」
猛ダッシュで走る砂緒の双眼鏡の視界に、ハンカチを持って立ち上がり、こぼれたサンドイッチを回収するフルエレの姿が見えた……
(あ、勘違いでしたあああああ、良くあるパターンでしたあ、恥ずかしぃーーーーーーーー)
砂緒はアメリカの子供向けアニメのキャラクターの様に、キキッと急ブレーキをかけると、反転してすぐさまセレネの元に戻って来た。
「どうしたー?」
「私の勘違いでした、出ましょう、気分悪いですここ」
「ん???」
砂緒がようやく出る気になってホッとしたセレネだった。
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