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III プレ女王国連合の成立

そうだっ聖都へ行こう!4 砂緒、ナノニルヴァの宮に潜入してしまう……

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「前にスピーチで話されていた時はその様な口調では……」
「なんやて、わてはシューネでおま。今のは変装用の口調やんけ。早うここからだしてえなワレ」

 今度は砂緒は慌ててドラマに出て来る妙な関西弁の様な口調で話し出した。

「いや、シューネ様はその様な口調でも……一体何が?」
「えーいめんどくさいですねっ! 一体どの様な口調で話せば良いのですか!」
「あ、その様な感じです……やはり貴方様はシューネ様のようですな」
「なんだよ、普通に話せば良いだけだったな!」
「顔も声も似ていて、話す口調も似ているとか気持ち悪いですが、そういう偶然もあるんでしょう。これは利用しない手は無いです……」

「どうかなされましたか? その御方は?」

 すっかり砂緒の事を重臣貴城乃たかぎのシューネだと思い込んだ所長は、冷や汗を流しながら平身低頭する。

「いえ私は実は聖都の貴族のバカ息子を演じ、宮に出仕した私腹を肥やす悪の地方貴族に接近し潜入調査をしていたのです。この者はその潜入調査のパートナーで愛人を演じていました。そこを運悪く仕事熱心な彼女に引っ掛かってしまい……事情を詳しく説明する訳にも行かずこの様な事に。しかしこうなった以上は所長にも協力してもらわなければなりませんね」
「すいません、すいません」
「どうりで……バカ息子役が板についておりましたぞ! いやこれは失礼……」

 所長は口を押さえ警備兵のリーダーの女性はひたすら謝り続けた。

「よくもそんなスラスラ嘘が出るな。しかも愛人て……後で覚えとけよ」
「方便ですよ」

「そ、それで協力とは?」
「ええ、実は今日の報告を持って宮に帰る予定でしたが、牢に入り部下と落ち合う予定時間を大幅に遅れてしまいました。極秘任務ゆえ少数の者にしか詳細を伝えておらず宮に帰れなくなってしまいました……」
「おおそれは全く申し訳ありません」
「これでは場合によっては貴方も打ち首の可能性があります。それを回避する為には警備兵専用の秘密の通用口から、宮の中に誰にも知られない様に入れて頂きたい」
「おい馬鹿か、何言っている? 此処を出れるだけで良いだろがっ!」

 セレネが慌てた。

「大丈夫ですよ。一人で行きますから、セレネは蛸の入った丸い食べ物でも好きなだけ食べて待ってて下さい」
「嫌だよ、なんだそれ!」

 砂緒は小声で適当なふざけた事しか言わない。

「は、はい……是非とも協力させて頂きます!」
「所長何か変ですよ、信用するのですか??」

 女性警備兵が恐る恐る警告するが、所長は完全に砂緒をシューネだと信じ込んで協力した。結局セレネは無事解放され夜の街で待つ事になり、砂緒一人が所長と一緒にナノニルヴァの宮の秘密の通用門から中に入れてもらう事になった。

「どうなっても知らないからなっ!」
「大丈夫です大丈夫ですって!」

「ここです、どうぞ他の者には知られぬように静かに宮の中に入れます」
「む、ご苦労ですね、今度の事でむしろ貴方の評価は上がり、昇給や昇進は間違いないでしょう」
「ほ、本当ですか!? 光栄で御座います!!」

 所長は敬礼すると、宮の中にまんまと潜入する砂緒と別れた。

「わたしゃ知らんぞ~~~」

 セレネはそんな状況をしり目にそーーっとその場から退散した。

「ねえ、やっぱりあの連中は怪しいわ! 他の信頼出来る上司にシューネ様の偽物が現れたと報告して!! 私が責任を取るわ!」
「ハッ!!」

 セレネと同様、所長をしり目にそーっとその場を離れた女性警備兵は、他の部下になんとかこの異常を別ルートで上に報告する様に命令した。


 夜月明りの中、決して高くは無いナノニルヴァの宮の塀にある通用門を潜り、砂緒は宮の内側に入った。入るとそこは巨大な庭園であり建物群へは距離があった。仕方なく砂緒はでたらめにあちこち歩き始めた。ここには怪盗アニメに出て来る様な触れると音が鳴るセンサーのレーザー的な結界等は無く、砂緒は難なく建物の一つに潜入する事が出来た。

「なんという不用心な国でしょうか。セブンリーフの城みたいに深い堀や高い塀がある物と思ってましたがそうした物も無く、てっきり次から次へと出て来る屈強な警備兵も無く、これは不用心過ぎやしませんか? 等と侵入者に言われたくないですよね。なにやら神聖連邦帝国という怖そうな名前とは裏腹にけっこう平和なのどかな国なんでしょうか」

 すっかり余裕が出て来た砂緒は一人で長い廊下をずんずん歩いた。

「あっ」
「おっ」

 油断し過ぎた砂緒は魔法ランプを持って歩いて来た侍女とばったり出くわす。

「ご苦労です」

 砂緒はシューネという者と激似という情報を信じ、泰然自若の態度で頭を軽く動かした。

「ああシューネ様が何故此処に? この様な夜の見回りまでのご検分、ご苦労様で御座います」

 侍女は慌てて頭を下げる。夜の闇の中とは言え、これで砂緒は本当にシューネとやらに似ているのだなと自信を持った。

「そうですね、あの方は健やかにお過ごしですか?」

 砂緒は数少ない神聖連邦帝国の情報の中から、瞬時に瑠璃ィるりいが言っていた言葉を言ってみた。

「あっ………………そういうご用件で御座いましたか。これは失礼を致しました」
「どちらにもお出かけ無く、奥の宮でご就寝で御座います」

 侍女は何かを悟った様にわざわざ教えてくれた。

(むむっ何なのでしょうか?)

 失礼にも思わせぶりに頭を下げる侍女に逆に不審がる砂緒だった。侍女はシューネとあの方、つまり姫乃殿下の幼い頃からの親しい関係を知っており、何か二人に異変があったと誤解してわざわざ教えてくれたのだった。

「ときに奥の宮とは、あちらでしたよね?」

 砂緒は適当に立派そうな建物を選んで指をさして見る。

「ふふ、その様な手には引っ掛かりません。奥の宮はこちらの回廊を進んだ奥で御座います。いつ何時も部下を試すのはおよし下さい……」

 何もかも砂緒に都合よく解釈してくれる有難い侍女だった。

「そうですね、その通りです。では夜の見回り、ご苦労です。ではこれにて」

 砂緒はくるりと方向を変え、侍女が指差す回廊に向かう。

「あ、お待ちを!」

 ドキーーーーンと心臓が高鳴る。

「……何か?」
「その……お恥ずかしいのですが、シューネ様少年に若返られた様、何か秘法か秘儀が御座いますのでしょうか? 教えて頂きたいです」

 侍女が頬を赤らめながら聞いてくる。

「これは、秘儀や秘法では無く、日々の鍛錬です。鍛錬すれば若返るのです! では!!」
「そ、そうなのですか!? し、失礼致しました」

 今度こそ頭を下げる侍女を置いて、内心必死にその場を離れた。


 石造りの長い屋根付き回廊を進み、ようやく奥の宮という建物に辿り着く。此処でも誰も居なかったため余裕と思った砂緒は油断してずんずん進んで行く。

「しかし夜のこの宮は風光明媚ですね。観光なら本当に良かった」
「待て」

 完全に油断していた砂緒が、再びギクーーーーンと肩が飛び上がる。

「これ、私が重臣のシューネであると気付かぬのか?」
「何を言うのだ、私がその貴城乃シューネであるが」

 言われて砂緒がゆっくり振り返ると、剣を抜いた自分が居た。いや、正確に言えば自分の姿その物の男が剣を抜いてこちらに向かって来て居た。

「な、ほ、本当だ……マジでそっくりですね、不気味です……」
「…………何者だ? 何故私と同じ顔をしている??」

 しかしシューネも同じ様にびっくりして固まっていた。

「ぼ、僕砂ってんだ! 何故か所長さんにシューネ様シューネ様言われて此処に連れてこられたんだっ! 家に帰してくれようそっくりな兄ちゃん!!」

 砂緒は相手を油断させようと、思い切り適当な嘘を付いてみた。

「……いや、警備兵に捕まったとしてこの奥の宮まで到達するのはおかしい。運が良くとも何人かには会うはず。その話は嘘であろう」

 正気に戻ってシューネは剣を構え、おまけに片手に何等かの魔法を発生させる。

(む、さすが私のそっくりさん、慎重な上に馬鹿ではなさそうです。ですが私が強いとは思っていないはずです)

「な、なんだよ!? 怖いよそっくりなお兄さん、乱暴しないで、ううっ」

 砂緒は震えながら怖がる演技をしてみた。

(むぅ良く見ると確かにそっくりとは言え十五歳くらいの少年……いや、むしろ少年なのに本質は異様に落ち着いている気がする。何かのあやかしかもしれないですね。やはりこの場で息の根を止めましょう……)

「動くな。声も発するな」

 一切油断しないシューネは剣で必殺の構えを見せた。

(なんと……どこまでも油断しない面白く無い人間ですね。仕方ない……)

「斬る!!」

 バチバチッ!!

「何!? あがっ」

 次の瞬間、姿勢を一切変えない砂緒の指先から暗闇の中電気がほとばしり、シューネにまとわりついて彼は瞬間で倒れた。

「何だ……今の……は?」

 だらだらと唾液と涙を流し、ヒクヒクとしながらも気を失わないシューネ。

「おやおや同じ顔のイケメンを殺すのは嫌なのでかなり威力を弱めてみましたが、なかなかしぶとい。死ぬ前に気絶した方が良いですよ」

 バチッ!!
砂緒が次に電気を放った瞬間、今度こそシューネは気絶した。ひくひくとしたまま言葉を発さなくなった。

「むーーなんか自分を攻撃しているみたいで嫌な気分です………………そうだ! 良い事を思い付いてしまいました」

 砂緒は笑うと、ひくひくするシューネの衣服をはぎだした。そして脱がした少し大きめの衣服を着ると、自分の着ていた服を破き、縄替わりにシューネの手首や足首を縛り建物の陰に隠した。

「大人しく寝てて下さいよ、魅惑のあの方とやらの顔を拝むだけですので」

 砂緒は再び進み出した。
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