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III プレ女王国連合の成立

オゴ砦奪取 下 オゴ砦占拠の夜、セレネの疑念……

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 カキーーーーン!!
油断していると再び鋭い突きがあった。が、やはり鋭い突きではあったのだが、二刀流を生かしての素早い第二撃が無く、すぐさま白煙の中に身を隠す。

「明らかに……動きが変わったな……これなら……」

 セレネは相手の動きが鈍くなったと読み、余裕が出て来て考えを巡らす事が出来る様になった。そして背中の羽を展開すると、飛ばない程度に羽ばたかせた。

「むっ白煙が消えて行く……」

 これまで魔法ランプや蛇輪の魔法サーチライト類に霧の様に輝いて反射していた白煙が薄まって消えて行くのが分かった。そしてそのまま次第に白煙が消え、ただの月明りの夜の闇へと戻った……

「とは言え、砂緒が降りたという事はあの雷の魔法剣は使えまい!!」
「砂緒も魔法剣がもう使えないとか言ってたが……そもそも魔法剣は本人の魔法でやるもの!!」

 セレネが単独で乗る蛇輪が持つ魔法剣が氷の刃に変わる。セレネが掌から出す氷系魔法が増幅され刀身に分厚い氷が纏わり付いたのだった。

「なにっしかしまだまだ諦めん!!」

 カキーーーン!!
スピネルが諦めずに切り掛かるが、剣を交わした瞬間にデスペラード改の剣が凍り付き始める。砂緒の雷の時は魔法の攻撃は効かない魔ローダーだから感電するという事は無かったが、セレネの氷の魔法剣は攻撃としての効果は無くとも剣が凍り付く事で、敵魔ローダーの腕自体をも凍り付かせる効果がある様だった。

「一瞬で、腕が白くなった??」
「こんな面白い効果が!? ならどんどん戦うのみ!!」

 一転してセレネが次々に攻撃を繰り出して行く。剣を交わす度にどんどんデスペラードの剣の先から白く霜が付く様に白化して行き、次第に腕までがどんどん雪の様に真っ白に変わって行く。

「動きが……鈍く……」
「可哀そうなくらい効いて来たな……もう動きが見る影も無いぞ!!」

 ガーーーーン!!
遂に白化して動きがギチギチになった片腕が切り落とされた。

「しまった!!」

 片腕を切り落とされ、残る片腕も凍り付く様に白く重くなり、さらには砂緒に首をおかしくされ、既に戦闘能力は無くなりかけていたが、スピネルは友軍の撤退を完遂する為になおも粘りに粘るつもりだった。

「今よっ!! そりゃっ」

 その時突然動きの鈍くなっていたスピネルのデスペラード改の足元を、ミミイ王女の両腕を失った魔ローダーSRVが足元をすくう様に蹴った。突然の攻撃にさしものスピネルもガクンと体勢を崩しコケてしまう。

「やりましたっセレネ様っ!!」

 ミミイ王女がセレネに向かって喜んで叫んだ。

「貴様っ!!」

 逆にセレネは嫌いなミミイ王女に真剣勝負に水を差された様な気がして激怒した。

「えっなんで……」
「ほらっ怒られた……もうすぐ勝つ寸前の獲物取っちゃだめでしょうに……すいませんセレネさま。下がるよ!!」

 再び後ろに後退するSRV。しかしセレネは今の攻撃は無かった事として、寝転ぶデスペラードに止めの剣を突き刺す事はしなかった。セレネなりに非常に強い剣士である敵魔ローダーに敬意を感じての事だった。

「攻撃を加えんか……ならば」

 デスペラードはギギっと軋む腕で凍り付いた残りの剣をぽいっと捨てた。

「なっ? なんだよ」
『降参だ……私では君に敵わない様だ。このままの撤退を要求する。叶わなくとも走って逃げる!』

 真剣勝負の後に率直な物言いで敵ながら感心したセレネはちょっと悩んだ。

「何を勝手な事を……セレネ様、止めをお願いします!!」
「……なんかミミイに言われると腹が立つが、アイツを残せばあとで仲間が被害を被る、ここで斬る!!」

 セレネは剣を構えた。

「むう、そこまで甘く無かったか……ではこれだな」

 カッッ
セレネが剣を構えた直後、一瞬太陽の様に明るい輝きが辺りを飲み込んだ。デスペラード改が最後の仕掛けを発動したのだった。

「ちっセコい技ばかり使って!?」

 セレネは光の中、闇雲に切り掛かろうとした。

「止めて下さいっ!! 既に友軍の魔戦車隊が足元に来ています!! 踏んでしまいますっ!!」

 メランが慌ててセレネを制止して魔ローダーの戦闘は終わった。当然眩い光が消えた後にはデスペラードの姿はどこにも無かった。


「終わりましたか? じゃあこちらもっはああああああああ!!」

 ドカーーーン!!
 砂緒は拳を最大限硬化させると、砦の正門の鉄の扉を粉々に砕いた。

「よしっ一番乗りだっ!! 魔戦車隊突入!!」

 何時の間にか蛇輪の足元を抜け、堀に掛かる橋にまで接近していた魔戦車部隊が、一気に砂緒が砕いた正門から突入していく。

「あっ私が一番乗りのつもりだったのに……」
「西リュフミュラン軍いっけーーーーーー!! 一番乗りはこのイェラだっ!!」

 呟く砂緒の横を槍と剣を同時に振り回しながらイェラが駆け抜けて行く。

「あっイェラ危ないです、待ちなさい!!」

 慌てて砂緒はイェラを追いかけて門の中に突入した。

「ありっ……誰も居ないぞ……」
「誰もいませんねえ……」

 砂緒が慌てて門の中にイェラを追いかけたが、そのイェラは敵がどこにも居なくて辺りをキョロキョロして突っ立って居た。砦の中はメドース・リガリァ兵処か、現地兵も一緒になって裏門から逃げていて、もぬけの殻となっていたのだった。

「わはははーーーー! 立ちはだかる者は容赦せんぞっ! 衣図ライグさまのお通りだっ!!」

 今度は巨大な馬に乗った衣図ライグが突入して来たが、突っ立つ砂緒とイェラを見て同じ様にキョトンとした。

「私その場面、今イェラで観たばかりです……もはやここはもぬけの殻の様です」
「なんだなんだ、敵さんもういないのかよ、つまんねえな」
「仕方ない……私はグルメタウンの情報でも探るとしよう……」

 イェラは砦の中に進んで行った。

「あっ待ちなさいって敵が潜んでたら危ないでしょっ!!」

 砂緒は慌ててイェラに付いてったが、結局敵は一人も潜んでおらず、イェラが求めるグルメタウンの情報を見つける事は出来なかった。


 その後、セレネやミミイ王女、メラン達が魔ローダーから降り、深夜だが臨時の今後の方針を決める会議が開かれた。

「この砦がもぬけの殻という事で兵の損耗が無く奪取出来たのは良かった。今後はこの砦を強化して敵側の新ニナルティナ侵入を防ぐ要衝としたい」

 セレネが語るとすぐさま衣図ライグが発言の許可を求めた。

「その事についてだが、ここオゴの地は我らの本国、西リュフミュランとも近い。よってここの防御は我ら西リュフミュラン軍が担当させてもらいてえ。その方が増員も送りやすいしな、いざという時に本国と連携して大規模に軍を動かす事も出来る。どうだ?」

 少し考えてからセレネが言った。

「それは有難い。今ユッマランドの本軍が瓦解状態にあるので此処に沢山の兵を常駐させる方法に悩んでいた。そう言ってもらえるならお言葉に甘えよう。ここオゴ砦は西リュフミュラン軍主体で守備して頂こう」
「ありがてえ!! どんな事があっても死守するぜっ!!」

 衣図ライグが片手を上げた。

「うむ、では今夜は一旦ここで宿泊する事としよう、会議はお開きだ」
「ははっ」

 セレネの言葉を聞いて、見張りの兵を除き衣図ライグ以下メランや兎幸、ミミイそれぞれが自分好みの部屋を探して眠りに就こうと消えて行った。

「じゃあな砂緒、明日また会おう!」
「ああイェラもゆっくり休んで下さい」

 砂緒は久しぶりに行動を共にしたイェラに笑顔で手を振った。砂緒はイェラには妙な失言や態度を取る事も無く、自然に接する事が出来る数少ない女性だった。最近接点が減っているとは言え、砂緒の中でイェラに対する好感度はずっと下がってはいなかった。

「ちょいちょい、砂緒、こいこい」

 衣図ライグとイェラさらにラフら西リュフミュラン軍の面々が消えたのを見計らってセレネが小声で砂緒を呼んだ。

「はぁ~~~何ですかセレネ? まさかセレネがそんな欲しがりさんだとは思いも寄りませんでした、一度体を許してしまうととことん迄貪欲に求めて来るんですね……はいはい、これですね、ンーーーーー」

 砂緒は目を閉じて口を尖らせた。

「ちがわっ!!」

 セレネが思い切り砂緒を殴り飛ばす。

「あうっ痛いです何ですか……」
「あの衣図ライグとか言う男、信用出来るのか?」

 セレネがさらに小声で訊く。

「信用とは?」
「あの男、この戦いに加担する事で、自国の勢力範囲を広げたいだけでは無いのだろうな?」

 砂緒は思いも寄らないセレネの発言を聞いて唖然とした。

「……衣図ライグに限ってそんな事はあり得ません。貴方と会う前からフルエレと一緒に戦って良く分かっていますから」
「ふーーーん、砂緒がそう言うならそうなんだろう。で、今夜は一緒の部屋で寝る?」
「いいえ、そんな訳無いでしょう……ではゆっくりお休みなさい」
「お、おお」

 いつもの笑顔でのやり取りでは無くて砂緒は衣図ライグに疑いの目を向けるセレネにちょっとムッとしていての発言だった。セレネは余計な事を言ったかと少し後悔した。
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