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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

カガチ⑫ フゥーとヌッ様の戦い Ⅱ 油断

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「ええい、控えおろう! この方をどなたと心得るか? この方こそ神聖連邦帝国姫乃ソラーレ女王の弟御であるぞ、即刻ハッチを開けい!」

 美柑ミカは蹴りながら叫んだ。

「美柑恥ずかしいよやめてよ、それに姉上は女王じゃないよ。僕達は怪しい者じゃない力を貸すよ!」

 外の行為は360度ほぼ全天魔法スクリーンとマイクで丸見えだった。

「むむっ姫乃殿下の弟御紅蓮さま?? 僕がタカラ山新城で気を失っている時に救ってくれた子か?」
猫弐矢ねこにゃさま、本当に姫乃殿下の? 開けて良いのでしょうか??」
「いや、此処まで飛んでくる時点でただ者じゃないよ、開けてみよう」
「はい!」

 貴城乃たかぎのシューネと夜叛やはんモズ達が必死に絶対服従を掛け続けている今、逡巡している暇は無かった。
 シュッ!

「開いたっ」
「うん入ろっ」

 二人は急いで中に入った。

「本当なら色々じっくり話したいが、そういう状況じゃないんだっ!」
「今取り込み中なんです、とにかく魔力を貸して下さい」
「うんそうだね、美柑早速やるよ!」
「はぁ~~い」

 急かすフゥーに促され二人は急いで両側から中腰で操縦桿に触れた。現在四人で魔力を注入している事になる。

『来ました! 楽になりましたっ早速行きますっどりゃあああああああヌッさまメガトンキィイイイイイイイイック!!』

 後ずさっていた魔ローダー・ヌが、軽く助走を付けて蹴りを入れるとやはり巨大な爆発が起こった。
 ドカーーーーーン!!!

「行けそうです! お二人様御助力有難う御座います!!」

 フゥーは両側の二人にお礼した。

「い、いいや」

 しかし紅蓮は生返事で冷や汗を流しながら美柑の目を見た。

(重いね……しんどくない?)
(うん、凄く重い……)

 二人は別に超能力者では無いが、お互いの状況と顔色を見るだけで、大体相手が考えている事が判る様になっていた。紅蓮と美柑は背中にズッシリと重い物が圧し掛かる様な負担を感じていた。共に高い戦闘能力の持ち主だが、雪乃フルエレ女王の様に無限の魔力を持つ訳では無かった……

『続けて行きます!! おりゃあああああああああ』

 フゥーは多くの人々の助けを得ながら、憧れだったヌ様を起動して人々の役に立っているという充実感で一杯になり、勢いを盛り返して次々に連打を繰り返した。徐々に千岐大蛇チマタノカガチは川上に押し返されていく。

「凄いですな、このまま勝てるのではないですかな」
「うむ……」
「どうでしょう、此処で一旦絶対服従を切っても良いのでは??」

 夜叛モズは連日の昼夜逆転の生活の中で疲労が蓄積し、フゥーとヌの活躍を目にして初めてホッとして休憩したい気持ちに駆られた。

「そうだなこちらの方が旗色が良い様だし、二人の追加操縦者の負担も大きい。一旦少し切ってみるか?」
「はい、では絶対服従解除!!」

 モズは満を持して魔ローダー桃伝説ももでんせつの相手を服従させる事が出来る魔呂スキル、絶対服従を切った。
 プツッ

「くおおおおおおおおおおおおーーーーーん!!!」

 直後、チマタノカガチは狂った様な大きな叫び声を上げ前進を再開し始め、それまで時代劇の切られ役の様に何もせずにぼーっとヌ様を見つめているだけだった正面以外の残りの無数の首達が、突然暴れ狂って丁度パンチを繰り出そうとしていたヌ様の前後左右から包む様に襲い掛かった。

『きゃあああああ!? どうしたのどういう事なのですかっ??』

 突然の豹変にパニくったフゥーは信じられないという顔で猫弐矢に救いを求めた。

『チッしまった!! シューネ魔呂スキルを切っただろう!? 何て事をするんだ、早く戻せっ!!』

 猫弐矢の切羽詰まった叫びを聞いて、二人は顔を見合わせ慌ててスキルを再開した。

『絶対服従ッ!!』
「キュピーーーーン!!」
『猫弐矢今掛けた、モズが勝手に解除してしまったのだスマン』
『何ですと!? 貴方が解除して良いと最終的に判断しましたっ』
『嘘を言うなっ』

 くおおおおおおおおおおおん
 しかし絶対服従を再発動しても、数本の長く巨大な首がヌ様の両腕に絡みついたまま離さなかった。このままでは先の量産型魔呂、GSXR25の様に全身が飲み込まれようとしていた。

『あいつらこんな時に……』
『どうしましょう、腕が食われてこのままでは体全体が巻き込まれます。おらあああメガトンパンチッッ!!』

 ドカンドカン!!
 絡み付かれながらフゥーは必死にパンチを繰り出すが、完全には剥がれるに至らずむしろスキルの影響で静観している首まで新たに目覚めさせて、攻撃を増加させている事になっていた。

「お嬢さん、こうなりゃ両手をパージするんだっ! それしか無いよ」
「紅蓮……」

 見知らぬ王子の大胆な提案に一瞬戸惑ったが、猫弐矢が頷いたので直ぐに頭を切り替えた。

『ヌッさまごめんなさい! 両腕パージ!!』

 パチパチパチッドドーーン
 フゥーの脳内の指令で瞬時に両肩を一周する様に魔法爆発が起こり、ボロッと腕が抜けた。その腕がおとりになる様に、飲み込まれつつあった巨大なヌ様の身体はスルッと後ろに抜け出たのだった。

『抜けたよフゥーくん! シューネ許さないぞ、スキルを絶やすな!!』
『本当に済まない、モズは後に厳しく罰する許してくれっ』
『シューネ様~~キーーーッ』

 モズは地団太踏む思いで歯を食いしばり必死に絶対服従を掛け続けた。

『メイドさん聞いてるか、仮宮殿のGSXR25に操縦者をなるべく詰めてすぐに寄越せ! 我らの交代要員にする!!』
『臨時総司令代理のメイドです! 早速に手配致します!!』

 冗談で指名されたメイドさんはてきぱきと即座に桃伝説の交代要員を派遣した。

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