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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

スナコちゃん再々降臨!! ④ 七人姉妹の仇、登場即解決!?

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八岐大蛇チマタノカガチが眠りに就いたぞ……今から一斉攻撃するのか?』
『普通そうするわよねえ』
『私は準備万端ですぞ、ささっ早速やりましょう』

 セレネが言った言葉に、メランと自称砂緒の霊魂が即座に応じた。

『いや……それは我らが通った道なのだが、チマタノカガチは攻撃すれば即座に目を覚ます。だから結局は夜でも昼でも同じ結果となる以上、カガチが眠りに就く昼間は我らも休んだ方が良いという事になった。我らの話をちゃんと聞いておれば』
『うるさい。応援してもらって説教する気か?』

 貴城乃たかぎのシューネがくどくど言った事に、正論なのだがセレネはキレて言葉を遮った。

『セレネくん、君達がシューネの事が気に入らないのは充分理解している、それに応援に来てくれた事も感謝している。その上で今はシューネが言った事が正しいんだ、とにかく一旦帰投して欲しい』

 一瞬蛇輪へびりん組は全員黙り込んだ。論理的には猫弐矢ねこにゃの言葉が正しいのだが、何か従いたくない気持ちがあったからだ。と、唐突に自称砂緒の霊魂が笑い出した。

『ハハハハハハハ、今までザコ共がチマチマ苦労していた事は分かりますが、しかし要はカガチに反撃させない程に一撃で秒で瞬殺すれば良いのでしょう? それなら寝てるも起きてるも関係無いでしょうに』

 突然砂緒が大言壮語して、帰投を始めたヌッ様組はフルエレ意外残り全員ムッとなった。 

『砂緒くん、君が出て来てくれたのは頼もしいけど、カガチはそんなに弱く無い』
『口だけなら何とでも言える』
『キミと一度だけ刃を交えた僕も言うけど、無理だろうね』

 猫弐矢とシューネと紅蓮がほぼ同時に否定的な見解を示した。特に砂緒を吹き飛ばし、さらにカガチの首を何本か落とした紅蓮の言葉は説得力があった。

『ハハハハハハハ、この臆病者共めがっ!』
『そうだそうだ言うてやれ言うてやれ!!』
『え、いいの? セレネそんな事言って大丈夫!? いくら砂緒さんでも今回はちょっと……』

 さらに調子に乗りまくる砂緒とセレネにメランは多少慌てた。砂緒もセレネも何度となく彼の雷の威力を見て来たので、今度も余裕で決着が着くと踏んでいるのだ。

『砂緒、少し言い過ぎじゃない? 本当に今度の敵は凄く強そうよ?』
『いやですがフルエレ』

 横で無言を貫いているフゥーは、信頼している雪乃フルエレ女王までが警告して、そぉーれ見ろ! と内心喜んだ。

『ほら、フルエレくんもそう言って……』
『でも、砂緒の性格が歪んでて皆を不快にさせるのは本当だけど、もし砂緒の一撃で解決したらそれはそれでもうけものだと思うの。カガチを倒せたら砂緒は歪んだ自尊心が満足するし、クラウディアは元の平和に戻るし、でももし砂緒が大失敗して大恥を晒しても、すぐに撤退すればカガチはまた眠りに就いて結局今と同じ状態に戻るだけでしょ、だから皆は休憩ついでに身勝手な砂緒の言う通りにさせて上げて欲しいの……』
『フルエレさん……あたしゃ感動したよ』
『フルエレ、一部言葉に引っ掛かる部分はありますが、遂に私の願いを聞いてくれますか』

 フルエレは今度は一転、猫弐矢の言葉を遮ってまで申し訳無さそうにしつつも彼を擁護し始めて、フゥーを大いにがっかりさせた。

『いやしかしだねフルエレくん』
『フルエレ女王のお言葉ならば従うべきだと思います。戦う意思を持つ方を止める事は出来ないです』

 突然フゥーが話し出してフルエレに同意し、皆を驚かせた。

『ほほう、フゥーにしては殊勝な態度ですね、褒めて遣わそう』
『……ただし砂緒様、条件があります。今は我らに合わせて一旦帰投し、皆にお顔を見せて頂きたいのです。霊魂だとか言葉だけでは信用出来ません。その上でどうぞ一人ででも出撃されてカガチを倒して下されば』

 フゥーの言葉は一休さん並みの頓智だった。彼は今自称霊魂なので皆に会う事は出来ない、もし易々と会えば霊魂だとか何とかふざけた嘘を付いている事になる。結果に変化は無いが、ひと恥かかせたいつもりのフゥーの言葉であった。
 
『フゥーつまらん事を、砂緒無視してサクッと倒しに行こうぜっ!』
『砂緒?』
『くっくっくっくっくっ』

 フルエレとセレネが心配したが、砂緒にしてみれば渡りに船であった。

『どうしますか? 砂緒さま』
『よかと、よかとよ』

 砂緒は不敵に応じてみせた。


 ―クラウディア王国西側中央部仮宮殿。
 巨大なヌッ様と、ゆっくりとクラウディア王国の景色を見ながら帰投した蛇輪&ル・ツー漆黒ノ天組は、ほぼ同時に到着した。

「では、砂緒さま、我らの前にそのお姿をお現し下さい」

 何故かノリノリのフゥーがヌッ様から降りてル・ツーに向かって叫んだ。ヌッ様自体は皆が降りた時点で日光に照らされてスーーッと色が薄くなって消えて行き、操縦室の透明な球体だけがフンワリ降りて来て残った。

『良いだろう……しかし今の私は姿無き霊魂、貴様らに姿を見せても認識出来ぬであろう。よって我が眷属のスナコちゃんを遣わそうぞ!!』

 いきなり平気で約束を破る砂緒に皆あんぐりとした。

『は、はあ? そんなの約束がちが』
『いやフゥーちゃん、此処はスナコちゃんの降臨を皆で見守ろう』
『えっ紅蓮さま!?』

 スナコという言葉に即反応した紅蓮アルフォードはフゥーの肩を強く掴んだ。しかし意外にも連日の戦闘に疲弊していたここのメンバー達は、一瞬戦いを忘れるスナコちゃん登場というイベントに内心期待をして、積極的に約束破りを突っ込む者は居なかった。

兎幸うさこちゃん、サーチライト!!」
「了解ッッ」

 いつの間にかル・ツーの足元に移動していたメランが、兎幸の個人用UFOに搭載されている魔法サーチライトをカッと操縦席に当てさせた。
 バシャッ!!
 直後、サーチライトに照らされたハッチが勢いよく開いた。

『……私の手と足がそれぞれ長いお父様お母さま、そして美しく優しかった七人のお姉さま達……全てを奪った千岐大蛇、絶対に許さないッッ!! 見ていて天国の父よ母よ、そして七人のお姉さま!! 村を飲み人々を飲み込んだチマタノカガチは、このわたしの~~拳がぶち倒す!!』

 少し前から温めていた台詞が場内に響くと、サーチライトに照らされた操縦席ハッチ上に、片手で顔を隠し、片手をすらりと天に伸ばした、謎のアイドルっぽいポーズをした華麗なドレス姿のスナコちゃんが立っていた……ちなみにこの声は、普段少し低めの声のセレネが、今回限り鳥肌立てながら必死に可愛い声で読まされた物だ。

「スナコちゃん……そんな悲しい過去があったのね!? 一緒に戦いましょう!!」

 フルエレは砂緒の過剰演出に飲み込まれたかの様に、一瞬涙を滲ませて共感した。

「フルエレさん!? 姉達が飲み込まれたとか千岐大蛇が巨大化する前から言ってた妄想だぞ!?」

 フルエレの本気とも冗談ともつかない態度にセレネは本気で心配になって小声で突っ込んだ……しかしもちろんフルエレはアレが砂緒の冗談と充分理解した上で面白がって言っているに過ぎない。
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