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第5章「静寂の中で名前を呼ぶ」(01/End)
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旭の言葉に、良輔はすぐに反応した。
「表か……いいね、それ。図にできると見やすくなるし、教授も評価しやすいかも。どういう項目で分けるのがいいと思う?」
旭は一瞬だけペンを止めてから、目だけでホワイトボードの位置を示した。
「交通手段別。自家用、公共、シェア……時間帯ごとの変化と、それぞれの課題」
「なるほど。じゃあ、それ、俺がテンプレ作ってみるから、チェックお願いできる?」
うなずく旭。
その横で、優香が静かにノートをめくり、指先でページを押さえながら口を開いた。
「ねえ、これ。“観光地の交通規制”って、地域によってやり方違うんだね。鎌倉と京都、全然違う」
良輔が顔を上げた。
「それ、面白い比較になる。鎌倉は徒歩と自転車の導線を分けてるけど、京都は“周囲の空気を読む前提”みたいなとこあるもんね」
「うん。どっちも“効率”より“景観”を守る前提で動いてるのが、面白いと思った」
優香はそう言って、小さく微笑んだ。
良輔はメモにそれを走り書きしながら、どこか嬉しそうだった。
旭も、わずかに口元を緩めている。
図書館の静寂のなか、小さな“流れ”が生まれていた。言葉は多くない。でも、何かが確実に動き出している。
——そのとき。
館内アナウンスが低く流れた。
「閉館15分前です。ご利用の皆様は、お荷物の整理をお願いいたします」
優香が軽く伸びをし、ノートの端に小さく線を引いた。
良輔はまとめかけていた資料の端を整え、最後に自分の役割表をテーブルの中央に差し出した。
「今日のまとめ、簡単にこれに書いてみた。無理ない範囲で動けるように組んだつもり。確認してくれる?」
旭はうなずき、優香もちらりと見て、「これなら、やれそう」と呟いた。
立ち上がるとき、誰も言葉を多くは交わさなかった。
けれど、三人の足音は不思議とそろっていて、その静けさの中に、形になりかけている“チーム”の輪郭があった。
エレベーター前まで来て、良輔がふと立ち止まった。
「そうだ、来週の再集合、月曜の16時にしよう。場所はまたここでいい?」
「問題ない」と、旭が短く答えた。
優香は一拍置いてから、彼の方を向いた。
「……名前、呼んでいい?」
「え?」
「良輔、でいい?」
彼女の声は小さく、けれど確かだった。
良輔は一瞬だけ驚き、それから頬をかすかに赤らめて笑った。
「うん。ありがとう。……じゃあ、俺も。優香さんって、いい名前だね」
すると、珍しく——旭がぽつりと呟いた。
「……俺も、呼ばれていいのか?」
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
「もちろん」
——その一言が、今夜いちばんの音になった。
静かな図書館の夜、確かな名前で、誰かを呼ぶということ。その小さな一歩が、春の空気に混じって、やわらかく広がっていった。
「表か……いいね、それ。図にできると見やすくなるし、教授も評価しやすいかも。どういう項目で分けるのがいいと思う?」
旭は一瞬だけペンを止めてから、目だけでホワイトボードの位置を示した。
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「なるほど。じゃあ、それ、俺がテンプレ作ってみるから、チェックお願いできる?」
うなずく旭。
その横で、優香が静かにノートをめくり、指先でページを押さえながら口を開いた。
「ねえ、これ。“観光地の交通規制”って、地域によってやり方違うんだね。鎌倉と京都、全然違う」
良輔が顔を上げた。
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「うん。どっちも“効率”より“景観”を守る前提で動いてるのが、面白いと思った」
優香はそう言って、小さく微笑んだ。
良輔はメモにそれを走り書きしながら、どこか嬉しそうだった。
旭も、わずかに口元を緩めている。
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——そのとき。
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「今日のまとめ、簡単にこれに書いてみた。無理ない範囲で動けるように組んだつもり。確認してくれる?」
旭はうなずき、優香もちらりと見て、「これなら、やれそう」と呟いた。
立ち上がるとき、誰も言葉を多くは交わさなかった。
けれど、三人の足音は不思議とそろっていて、その静けさの中に、形になりかけている“チーム”の輪郭があった。
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「そうだ、来週の再集合、月曜の16時にしよう。場所はまたここでいい?」
「問題ない」と、旭が短く答えた。
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「……名前、呼んでいい?」
「え?」
「良輔、でいい?」
彼女の声は小さく、けれど確かだった。
良輔は一瞬だけ驚き、それから頬をかすかに赤らめて笑った。
「うん。ありがとう。……じゃあ、俺も。優香さんって、いい名前だね」
すると、珍しく——旭がぽつりと呟いた。
「……俺も、呼ばれていいのか?」
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
「もちろん」
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