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第18章「花火より、君の顔」(01/02)
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しばらくの間、ふたりは桟橋の手すりにもたれて、空に咲く光の花を見上げ続けていた。
大きな音が鳴るたびに、望愛は少し肩をすくめて、でもそのたびに笑っていた。表情がどこか子どものようで、恭平はその横顔から目を離せなかった。
「……さっき、財布なくしたとき、めっちゃドキッとしたんだ」
望愛がぽつりと呟いた。
「うん。顔に出てた」
「恥ずかしい……私さ、たぶんずっと、“なくしても誰かが拾ってくれる”って、甘えてたんだと思う。今日だって、たまたま優しい人が届けてくれて……でも、いつもそうはいかないよね」
「望愛が、そう思えるようになったことがすごいと思う」
その言葉に、望愛はふっと目を伏せる。頬がほんのり赤く見えたのは、花火の照り返しか、それとも——。
「そういうこと、あんまり真顔で言わないでよ。……なんか、ズルいよ」
彼女は小声でそう言いながらも、すぐに「でも」と続けた。
「今日のことは、ちゃんと覚えておこうって思う。お財布落として、花火見て……誰かと一緒に、って、悪くないね」
「それ、誰かって俺のこと?」
「——うん」
恭平は思わず笑みを浮かべる。けれど、その笑顔には、今までとは少し違う、どこか照れたようなぎこちなさが混じっていた。
と、そのとき。
「これ」
彼はポケットから、小さなキーホルダーを取り出した。水族館の売店でよく見かける、イルカ型の小物だった。
「財布につけておくと、次は落とさなくて済むかも。売れ残りだけどね」
「えっ、それ買ってたの?」
「望愛のことだから、また落とすかなって思って……今日じゃなくても、いつか渡そうと思ってた」
受け取ったキーホルダーを見つめ、望愛はぽつりとつぶやく。
「……ごめん、ちゃんと、お礼言いたいのに、なんか言葉が足りないや」
恭平は、そんな彼女に優しく笑って答えた。
「いいよ。俺は望愛の“ありがとう”って顔が見れたら、それで十分だから」
そのとき、空にひときわ大きな金色の花火が広がった。夜空にきらめく光の波。その輝きの中で、ふたりの視線が重なり合った。
「……じゃあ、今度ご飯おごるね。落とした財布じゃなく、ちゃんと自分の手元にあるお金で」
「うん、楽しみにしてる」
ふたりの間の距離が、花火のたびに、少しずつ近づいていった。
(End)
大きな音が鳴るたびに、望愛は少し肩をすくめて、でもそのたびに笑っていた。表情がどこか子どものようで、恭平はその横顔から目を離せなかった。
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そのとき、空にひときわ大きな金色の花火が広がった。夜空にきらめく光の波。その輝きの中で、ふたりの視線が重なり合った。
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