悪魔な義理弟《ボディーガード》~ヤンキー校最凶犬男子の独占欲が強過ぎる~

Kore

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姉弟デート

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”ねえ、莉子さん知ってる?催眠術ってその人の潜在意識を引き出すんだって”



昨日、圭君が別れ際に囁いてきた一言が、今でも頭から離れない。


私は多分、あの人がかけた催眠術にまんまとハマってしまったと思う。
その時の記憶はあるような、ないような未だによく分からないけど。

でも、櫂理君のことがいつも以上に好きになって、私も櫂理君に触れたくなって、そして気付いたら膝枕をしていた。

それが、圭君の言う潜在意識だとしたら、それって私も櫂理君のことを…………。


…………違う!断じて違う!


私は櫂理君のことをそんな目で見たことは、一度もない…………はず!



「なあ莉子。さっきからずっと顰めっ面じゃん。もしかして、昨日のことまだ怒ってんのか?」

すると、リビングのソファーで悶々としている最中。
いつの間にやら私の様子を下から覗いている櫂理君の悲しそうな子犬顔が可愛すぎて、つい胸がキュンとしてしまった。

「違うよ。ちょっと考え事しているだけ」

何はともあれ、このことは櫂理君には絶対に言えないので、私は勘付かれないよう笑って誤魔化す。

「なんか、圭と話してからずっと莉子の様子がおかしいじゃん」

けど、どうやら彼には全てお見通しだったようで。
痛いところを突かれた私は、返答に困ってしまう。

その時、突然櫂理君は私の隣に座り込み、ソファーの背もたれに肘をつきながらジト目で私を軽く睨んでくる。

「あ、あの……何か?」

何やら視線がグサグサと突き刺さり、私は引き攣り笑いを浮かべると、不意に櫂理君は私に手を伸ばし、顎を軽く引き上げてきた。

同時に櫂理君の綺麗な顔が徐々に迫ってくる。
 

……え?
ちょっと待って?
ここリビングだよ?
すぐ後ろにはお父さんとお母さんがいるんだよ?


「か、櫂理君何しようとしてるの?」

彼の行動に危機感を抱き始めた私は、咄嗟に櫂理君の胸元に手をあてた。

「圭に言われたこと教えてくれなきゃ、ここでキスする」

すると、これまでずっと手を出してくることはなかったのに、いきなり180度態度が変わり、大いに焦り始める。

「だ、だめだよ櫂理君。お父さんとの約束忘れたの?」

「それが?」

とりあえず、抵抗してみたものの、我が校最強クラスの彼に当然敵うはずもなく。

櫂理君は真剣な目を向けながら腰に手を回してきて、更に私の動きを抑えつけてくる。




「はい。戯れはそこまで」

そして、櫂理君の息遣いが唇で感じられそうな距離まで迫ってきた直後。

絶妙なタイミングでお母さんは私と櫂理君の顔の間に雑誌を差し込み、丁度良い壁を作ってくれた。

「あんた達、暇なら夕飯の買い出しに行ってきてよ」

そこまでは良かったのに。
この状況を全く気にも留めない様子で、私達におつかいを頼んでくる母親の気が知れない。

「あー、はいはい。莉子、行こう」

それから櫂理君も櫂理君で、何事もなかったように私から離れたので、一人置いてけぼりをくらう。


…………つまり、これは本当にただの戯れってこと!?

そう気付いたのは、数秒経ってからのことで。
思いっきり真に受けてしまった私は、急激に恥ずかしさが込み上がっていく。

「もう、櫂理君のばかっ!」

だから、悔しい気持ちと一緒に怒りを吐き出すと、そのまま財布を取りにさっさと二階に上がって行った。


 
◇◇◇


「あらー。君凄く格好いいわね。このキングサーモンの刺身でも食べてく?」

「何言ってるの?若い男の子は魚より肉でしょ。このサーロインステーキ試食分全部食べていいわよ」

「それなら、お口直しに搾りたてのオレンジジュースでもどう?」

「やったー。全部頂きます」


餌付けされてる!
スーパーのおばちゃん達に、ここぞとばかりに餌付けされてる!


お母さんから頼まれた食材を探そうと少し目を離した隙に、いつの間にやら櫂理君の周りには試食のおばちゃん達で溢れかえっていて、私は暫くの間唖然としながらその場に立ち尽くした。


折角だから、お散歩がてら今日は少し離れたスーパーに行こうという櫂理君の提案を受けたはいいものの。

初見だからかいつも以上に人が集まっていて、私の入り込む隙は何もない。

「あ、莉子。これ上手いぞ。莉子も食う?なんかケーキとかあるらしいけど」

そして、私の存在に気付いた櫂理君は、ほぼフルコース分はあろう大量の試食品が並べてあるお盆を片手に手招きをしてきた。

「いいから、早く行こう!」

このままだとおばちゃん達に取り込まれてしまいそうな危機感が湧き、私は人の隙間を掻い潜り、慌てて櫂理君の腕を掴んでこの場から引き摺り出した。


「もう櫂理君。あんなに食べたら夕飯食べれなくなっちゃうでしょ。ああいうのは適度に断らないとダメだよ」

それから何とか買い物を済ませ、私達は少し休憩するため三階にあるフードコートの座席に座ると、早速先程のことについてお説教を始めた。

「悪かったって。けど、色々勧められたら食いたくなるだろ?食べ盛りなんだから」

そう言うと、櫂理君はテーブルに肘をつきながら、全く反省していない様子で私の話を聞き流す。

まったく。
ああ言えばこう言う。

私は小さく溜息を吐くと、一先ず何かスイーツでも注文しようかと辺りを見渡した。

「櫂理君は何か頼む?」

「俺はさっき食ったからいい。ここで荷物番しているから行ってこいよ」

それじゃあと。
私はお言葉に甘えて席を立ち、スイーツのお店が並ぶエリアまで行くと、端から順番に店舗を見て回った。

どうしよう。
クレープ美味しそうだけど、少し重そうだし。
アサイー食べてみたいけど、ちょっと高いし……。

そして、様々な候補が上がる中、取捨選択をしながらメニューを段々と絞り始めていく頃。

何やら遠くの方で騒がしい声が聞こえ、何事かと振り返った途端。
視界に飛び込んできた女の子達の集団に、私は嫌な予感が一気に押し寄せてきた。


「ねえお兄さん一人?これからカラオケ行くんだけど、良かったら一緒にどう?」
 
「いや、それハードル高過ぎん?それより、少しの間お茶しない?うちら奢るから」

「はあ?お茶レベル?それなら、このエリア内のものいくらでも頼んでいいよ。あたしが全部出すから」

案の定。
急いで席に戻ると女子学生やお姉様達の集団に取り囲まれ、またもや彼の周りに人集りが出来てしまった。

「櫂理君、だめ……」

しかも、このまま放っておくとフードコート内全ての食事をご馳走されそうで、私はそれを阻止するために彼女達の間に割って入ろうと前に踏み出す。

「悪いけど、適度に断れって言われたから」

すると、今度はキッパリと断ってくれた櫂理君に軽い感動を覚えた直後。

敵意を露わにした女子達の視線が一斉にこちらに向けられ、私は恐怖のあまり軽い悲鳴をあげてしまった。

「あ、あの……。失礼しますっ!」

それから、命からがら。
櫂理君の腕をまたもや引っ張り、逃げるようにフードコートを飛び出して行った。


忘れてた。
櫂理君が爆発的にモテまくること。

学校でも女子達の人気はダントツだけど、怖いし私がいるから誰も近寄ろうとしない。

けど外ではそんなの関係ないから、櫂理君のモテ力が思う存分に発揮されてしまう。




「デザートそんなに食べたかったか?」

結局、どこにも寄らず大人しく帰ることになり、私は少し不貞腐れながら櫂理君の隣を歩く。

「そうじゃなくて。櫂理君ってやっぱり凄くモテるんだなって思って」

なんだろう。
分かっていたことなのに、少しだけイライラする。
でも、これが何の苛立ちなのかよく分からないから、益々気分が悪い。


「…………もしかして嫉妬してる?」

すると、意表を突く櫂理君の指摘に、足の動きがピタリと止まる。


「え、えと。そういうのじゃ……」

もっと強く否定しようとしたけど、何故か思うように口が回らず言い淀んでしまう。

しかも、櫂理君の期待を込めた眼差しがあまりにも眩し過ぎて、余計何も言えなくなってしまう。


それって、つまり図星だから?


……………いや、違う。


これは可愛い弟が揉みくちゃにされて、姉として怒っているんだ。

うん。
そういうことにしよう!



「あのね櫂理君……」

「あ。莉子、ちょっとここで待ってて」

それから、弁解しようと口を開いた途端。
急に櫂理君はその場で立ち止まり、荷物を持ったままどこかへ行ってしまった。

突然置いてけぼりにされた私は、訳が分からず呆然と立ち尽くす。

けど、このまま突っ立ってても仕方ないので、ひとまず言われた通り、近くにあった広場のベンチに腰を掛けた。





__五分後。




「お待たせ」

笑顔で戻ってきた櫂理君の手には、何やら茶色い紙袋があり、そこからバターの甘い匂いが漂ってきた。 

「櫂理君それは?」

「クロワッサン。さっき通った時行列出来てたから、買ってみた」

そう言われて紙袋のロゴをよく見てみると、それは最近出来た女性に人気のお店で、気になってはいたものの。行列に気後れして、まだ一度も食べたことはない。


「え?でも、櫂理君買ってくるの早過ぎない?確か、最低でも十分以上は待つって聞いたことがあるんだけど」

「ああ。急いでるからって言ったら、全員喜んで譲ってくれた」

「…………はい?」


今、至極当然の顔で、とんでもないことをさらりと言ったような。

つまり、その顔を武器に平然と割り込んで買ってきたと。


……うん。
その場にいなかったけど、状況が容易に想像出来る。


「ダメだよ。ちゃんと順番待ちしなきゃ」

一応注意はしてみたけど、クロワッサンの誘惑に負けて、普段よりもかなり甘めな言い方になってしまった。


とりあえず、せっかく買ってきてくれたので、早速食べてみようと。
中を見たらノーマルバージョンと、期間限定のホワイトチョコクリームがあり、私は真っ先に期間限定を選んだ。


「美味しいー。やっぱり、話題になるだけのことはあるね。櫂理君、ありがとう」

一口食べでみると、普通のクロワッサンよりもパン生地の密度があり、クリームも甘過ぎずパンの甘さと上手く調和されていて、とても上品な味わい。


買い方には大いに問題があったけど、こうして美味しいものを買ってきてくれた櫂理君の好意は素直に受け止めようと、私は笑顔でお礼を言った。


すると、次の瞬間。


不意に櫂理君の顔が目前に迫ってきたかと思うと、口角にぬるりと熱くて柔らかいものがあたり、私は驚きのあまり目を見開いたままその場で固まる。

「うん、確かに美味いな」

一方、櫂理君は満足げな表情で、舐めとったクリームを堪能していた。


「かかか櫂理君!?や、約束……」

そして、数秒経ってから今自分がされたことを理解した私は、舐められた口元を手で押さえながら涙目で訴える。

「何が?俺は莉子の口に付いてたクリーム取ってあげただけだけど?」

しかし、櫂理君は全く動じることなく、きょとんとした様子で首を傾げる。


もしかして、本当に他意はない?


あまりにも自然に振る舞うので一瞬そんな考えが過ったけど、それなら指で取ればいいのではと。もう一人の自分が冷静に突っ込んできた。
 

「なあ、それより俺にも一口頂戴」

すると、まるで考える隙を与えさせないと言わんばかりに、櫂理君は肩に手を回してきて、小さく口を開けておねだりをしてくる。


結局、何だかんだ彼の甘えに敵うはずもなく。
私は言われるがまま、櫂理君の口に食べかけのクロワッサンを運んだ。




「ねえ。あそこのカップルめっちゃ熱いよね」

「いいなあー。私も爆イケ彼氏に甘えられたい」


それから、人が通るたびに聞こえてくる話し声と、突き刺さるような羨望の眼差し。

これだけ周囲の注目を浴びているのに、櫂理君はものともせず、私の肩に頭を乗せたままスマホをいじっている。

そんな彼の神経の太さには相変わらず驚かされるけど、私も私で悪い気はしない。


それは、甘えん坊の櫂理君が可愛いからか。
それとも、周囲にカップルだと見られていることが嬉しいのか、自分の気持ちがよく分からず頭が混乱してくる。


それもこれも、さっき櫂理君が口元を舐めてきたせいだ。


頬キスなら小さい時にお互い何度かしたことがあったけど、成長してからはパッタリとなくなった。
 
しかも、お父さんの約束があったから尚更そういう事はしてこないのだろうなと思っていたのに。 

思いがけない彼の不意打ちのせいで、今でもドキドキが止まらない。


とりあえず、気持ちを落ち着かせなければと。
櫂理君に気付かれないよう、小さく深呼吸をする。


まったく。
これぐらいでこんなにも動揺するなんて。
姉としてしっかりしなければ。

そう自分に強く言い聞かせると、私は揺れる気持ちに蓋をして、意識を無理矢理クロワッサンの方に戻す。



「……なあ、莉子。今度は一日デートしない?」  

「へ?」

すると、唐突に投げられた櫂理君の一言に、再び体の動きが止まった。

「デートって……。櫂理君、これはただのお使い……」

「来週の土曜日、これ観たい」

それから、訂正しようとしたところ。
それを遮るようにスマホの画面を提示され、見てみると、そこには最近公開されたシリーズアニメの映画情報が表示されていた。

そのアニメは私も櫂理君と一緒に観ていたから、いつか映画も観てみたいとは思っていたけど……。

「圭君とは行かないんだ?」

「あいつはこのアニメ観てないし」


なるほど。

納得した私は自分のスマホを開きスケジュールを確認してみる。

「うん、いいよ。私も観てみたかったし、たまには二人で遊びに行くのもいいね」

そう。
櫂理君はデートと言うけど、これはあくまでただのお出掛けだから。

そう自分に言い聞かせると、邪念を振り払い、私は可愛い弟の誘いを快く引け受けることにした。
 
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