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第8章 夏休み明け

第196話 不機嫌な伯爵 ②

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 プッペと名乗るその商人は帝国からこの国に移ってきて最近王都に店を構えたという。
 名目上はプッペを商会長とする商会であるが実際は帝国にある大店の支店であるらしい。
 その大店は皇帝や帝国の貴族をスポンサーにしており帝国では指折りの大商会だそうだ。

 そう言われても儂は帝国の商人など知らないので話半分に聞いていたが、お近づきの印にと金貨千枚を差し出されたことからプッペの評価を上方修正した。
 皇帝がスポンサーについている云々はともかく、資金力があるのは確かなようだ。

 そして、プッペは言った。

「伯爵様はこの国の間違いを正そうとしている憂国の士だと耳にしまして、どうしてもお目通り願いたいと思い参じました。
 伯爵様の伝統と格式がある貴族の復権を目指す運動に私共は深く感銘を受けました。
 是非とも私共に伯爵様の運動の支援をさせてはいただけないでしょうか。」

 プッペが言うには、今の王国政府のやり方は帝国の商慣行で慣らされたプッペにとっては勝手が違いすぎるとのこと。
 プッペは王宮の物品調達係の者を調べて、賄賂を持って挨拶に行ったらけんもほろろに追い返されたそうだ。

「王宮では新規に出入業者となる機会を与えるため、定期的に公開入札による物品調達を行っている。
 王宮の御用達になりたいのであれば、入札で王宮への物品納入実績を重ねることだ。
 入札により適切な価格で満足のいく品質のものを納め続けていれば、そのうちにご指名で商品の納入を依頼するようになるであろう。
 王宮は常に市井の商人に平等に機会を与えることにしているのでな。
 もっとも賄賂を持ってくるような者は入札禁止になることがあるので気をつけることだ。」

 とその時に物品調達係の者から言われたそうだ。

 賄賂を断る官僚、特に貴族籍を持つ官僚で賄賂を拒絶する者など帝国では考えられないことだとプッペは言う。
 プッペが言うには帝国では賄賂は商取引の潤滑剤で、賄賂がなければ新参者など政府の御用達に食い込めないということだ。

 
 プッペは不満を露わにして言った。

「公開入札なんてやられたら商人に旨味がないじゃありませんか。
 商人は物品購入担当の者に賄賂を贈ることによって、相場より高く物を買ってもらう、もしくは通常より品質の悪いものを買ってもらうから旨味があるのですよ。
 物品購入担当の者はお目溢しする見返りに賄賂を受け取ることによって余禄を得るのです。
 どうせ国の金は国民の税金なんですから、無駄に使ってもその分は国民を絞り上げれば良いでしょうに。」

 儂はその言葉を聞いて、こいつは物事の道理をわかっている奴だとプッペのことを見直した。

 儂もその通りだと思う。国民は生かさず殺さずで出来る限り税金を絞り取って、その分儂ら貴族が贅沢をするべきなんだ。

 儂とプッペはすっかり意気投合した。

「伯爵様、数は力ですよ。ここは現在の王国政府に不満を持つ貴族をまとめ上げて圧力をかけて行きましょう。
 そのためには金です、金をばら撒けば人は集まってきます。金はいくらでも出しますので、派閥を大きくしていきましょう。」

 プッペの言うように貴族の主流派になるべくプッペから援助を受けた資金を惜しげもなくばら撒いたところ、人がどんどん集まってきた。
 やはり人は金があるところに集まるのだな、今までは資金力が乏しかったので派閥の力が強くならなかったのだな。


 **********


 やっと物事が良い方向へ動き出したと思った矢先のことだった。
 我が家の三男が王都の外に持つ荘園に遊びに行った帰り道で野盗に捕らわれるという失態をやらかした。
 それ自体は通りがかりの者に救われてたいした問題でなかったのだが、三男のたった一つの取り柄である魔法力が著しく低下してしまったのだ。
 手の付けられない乱暴者で、頭の出来もいま一つなのだが、儂の子供の中で唯一人儂と同じ黒髪で黒い瞳と褐色の肌を持ち飛び抜けた魔法力を持っていたのだ。

 儂は自分そっくりな容姿と強い魔法力を持つ三男をこの家の跡取りにしても良いと思うくらい買っていたのだ。
 それが、荘園から帰った来た時には、全体的に黒が薄くなっており、魔法力が著しく低下していたのだ。

 三男は無礼な『色なし』の女に魔法でやられたと訳のわからないことを言っており、侍女のリタに聞いても思い当たることはないと言う。
 だいたい、『色なし』がそんな魔法を使えるわけがなかろうに。
 リタに詳しく話を聞くと、『色なし』の少女を主とする一行に救われたのは事実らしい。

 三男はその日以降殆ど魔法が使えなくなり、王立学園の入学試験も落ちてしまった。
 王立学園の入学試験に落ちるようでは、貴族としての出世は見込めないではないか。


 だが、取り柄のない三男といえども伯爵家の血を継ぐ者、政略結婚のコマとしての利用価値はある。
 どこか都合の良い家を見つけて婿に取らせればよい。

 そう考えて探していたところ、若手官僚の出世頭で皇太子の右腕といわれるゲヴィッセン子爵に娘しかいないことがわかった。
 しかも、その娘というのが三男の三つ年下という縁談の相手としてはちょうど良い年であった。
 さっそく儂は、ゲヴィッセン子爵を訪ね儂の三男を娘の婿にするように圧力をかけたのだ。 

 しかし、 ゲヴィッセン子爵は由緒正しきアロガンツ伯爵家の当主である儂が直々に三男を婿にくれてやるの言っているのを

「うちの娘はまだ五歳なので婚約などを考えるのは早過ぎます。」

と言って断りおった。
 
 お互いに気に入るかも知れないので、一度子供同士で会う機会を設けてくれないかと頼んでものらりくらりとかわしおる。
 子爵風情がアロガンツ伯爵家の申し出を断るとはなんと不遜なんだ。


     **********


 儂が突然魔法が使えなくなった三男と娘との縁談に応じようとしないゲヴィッセン子爵に腹を立てているとそこにプッペがやってきた。

 儂はプッペに三男が突然魔法が使えなくなったと愚痴った。
 
すると、プッペは、

「そういうことなら良い物があります。いま帝国で評判の商品をお譲りましょう。
 魔法を使った後の疲れが取れ易くなり、魔法力が素早く回復するという効能をもつ家具があるのです。」

と言った。

 そんな都合の良い物があるものかと思ったが、プッペが持ってきた黒光りする執務机と椅子を儂の私室に入れて使ってみたところ本当に魔法力が速く回復するのが実感できる。
 何と言っても魔法を使った後の倦怠感があっという間に消えていくのだから。

 儂はプッペから三男の部屋に置く調度品一式を購入することとした。
 けっこうな出費となったが、これで再び三男が強い魔法を使えるようになれば、政略結婚のコマ以外にも使いようがあるだろうと期待したのだ。

 三男の部屋に黒光りする調度品を設置したプッペが言った。

「伯爵は強い魔法力を持つ神に選ばれた人だからあの家具の効果が良く現れたのです。
 あの家具は濃い魔力を発しているのです。
 元々魔法力の強い人はそれを取り込んで、スムーズに魔法力を回復させます。
 ただ、濃すぎる魔力は時に毒となります、この家具を使う資格のない魔法力の弱い人は体を壊す恐れがありますので注意してくださいね。」

 そうか、この家具で体を壊すようであれば、魔法力の回復は諦めるしかないのか。



     **********

 時間が不規則で申し訳ございません。
 今日はこの時間に投稿させていただきます。

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