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第11章 王都、三度目の春
第291話 帝国の孤児
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リリちゃんを私達が預かることに決めて一息ついたとき、リリちゃんのお腹が盛大に鳴った。
聞けば昨日の晩から何も食べていないらしい、あいつらに捕まってから一日一食しか食べさせてもらえなかったそうだ。その一食すらあいつらの機嫌が悪いと当たらなかったと言う。
こんな小さな子にひもじい思いさせるなんて本当に許せない…。
寮へ帰ってもまだ夕食には早いので、フェイさんに頼んで中央広場に出ている屋台からヴィーナヴァルト名物の揚げ鳥を買ってきてもらった。
「ううっ、美味しいよー。リリ、こんな美味しいもの食べたの生まれて初めて。
これ全部食べちゃっていいの?」
うん、気に入ってもらえてよかったよ、確かに王都の揚げ鳥はどこの屋台で買っても美味しいよね。でも、泣きながら食べるのはやめて、こっちまで切なくなるから。
「ええ、全部食べていいのよ。
誰も取らないから、落ち着いて食べなさい。」
泣きながら揚げ鳥を頬張るリリちゃんに、ミルトさんがなんともいえない顔をして言った。
たぶん、王都では一般の市民が気軽に買っている揚げ鳥を生まれて初めてと言われてリアクションに困ったのだと思う。
でも、ハンナちゃんのときも似たようなものだったよ。
王族のミルトさんにはスラムにいる孤児の生活は想像もできないのだと思う。
いや、ミルトさんは孤児院なんかも率先して慰問をしているから、孤児といえばこの国の孤児を思い浮かべるのだろう。
私もこの冬、風邪の治療で初めて孤児院に行ったけどすごく清潔で、孤児達の栄養状態も良かったしね。
ミルトさんは、この国と帝国の孤児の境遇の違いに驚いているのかもしれない。
リリちゃんはお腹がいっぱいになるとホッとしたのか寝てしまった。
きっとすごく疲れていたんだね。
**********
「可哀想に、よっぽど緊張していたのね。
安心したら疲れがどっと出たみたいよ、これじゃあ明日の朝まで起きそうもないわね。」
ミルトさんがソファーで寝ているリリちゃんの頭を撫でながら言った。
「ねえ、ミルトさん、『黒の使徒』の連中って何でこんな酷いことが出来るのかな。
去年に夏にも思ったのだけど『黒の使徒』の連中ってスラムの人を消耗品扱いしているんだよ。
スラムの人ならいくら使い潰しても良い様な事言っているの、誰だって好きでスラムに住んでいる訳ではないのに。
人を人と思っていないの、今回も相手が子供ならこちらが警戒しないと思って、子供を暗殺に使おうと思ったのでしょう。
わたしが『色なし』なので、わざわざ同じ『色なし』のリリちゃんを選んだのだと思う。その方がより警戒が緩むと考えたから。
リリちゃんはたとえわたしの殺害に成功しても絶対に逃げられなかったよね。あんなに足が遅いのだもの。
あの二人、リリちゃんがわたしを刺すのを見届けたらリリちゃんを放置して姿を消すつもりだったのだと思う。
本当に使い捨てにするつもりでリリちゃんをスラムから拉致してきたんだよ。酷いことするよね…。」
わたしが、『黒の使徒』のやることに憤っていると、ミルトさんが言う。
「そうね、ターニャちゃんの言う通りだけど、帝国ではそんな酷いことをしても許されるような風潮になっているのだと思う。
たぶん、スラムの住人達が同じ街のスラム以外に住む人達と衝突して煙たがられているのだと思うわ。
まずはスラムそのものを何とかしないと『黒の使徒』のように考える人は後を絶たないと思うわ。」
ミルトさんは言う。
スラムの住人、特に、子供の頃にスラムに捨てられたような孤児は読み書きが全くできないケースが多く、就業機会が限られるそうだ。
しかもお金が稼げない小さなときから食べ物に窮する事から、盗みに手を染めたりすることも多く、成長するに伴いそれがエスカレートし徒党を組んで追い剥ぎや強盗のようなことを者も現れるという。
そうなってしまうと、スラムの外に住む人はスラムの住人を嫌悪するようになり、いなくなって欲しいと思うようになるのだと。
そういう人の意識につけ込んで『黒の使徒』が人道に反するようなことを平気でするのであろうと。
「あのね、ターニャちゃん。
スラムのような場所を放置するのは社会的に大きな損失なの。
もしかしたら、有能な人材かもしれないのに、教育や職業訓練を受けられないために人材が腐ってしまうかもしれないでしょう。
この国にはスラムはないことになっているわ。
実際には行政の目が届かない場所が有って存在するかもしれないけど、国は無くすように努めているの。
たとえば、孤児に関してはこの国の王祖様が孤児だったということもあって、孤児院を充実させて孤児達にも義務教育をきちんと受けさせているでしょう。
それに、義務教育の後に職業訓練を施すように孤児院の中に施設を設けているし、優秀な子には奨学金を設けて上の教育が受けられるようにもしているの。
子供以外にも、怪我や病気で働けなくなった人や途中で職を失った人への支援をすることでスラムが生まれないようにこの国は努力しているのよ。」
帝国では長らく戦争をしていたため、国家予算の多くを軍関係費が占めており、孤児院を始めとするスラムへの対策に全くというくらい予算が付いていないみたい。
ヴィクトーリアさんやハイジさん、それにケントニス皇太子は軍事予算を減らして、スラムの対策などに予算を回すように主張しているとミルトさんは聞いているらしい。
しかし、ずっと戦争をしてきた帝国では軍閥の力が強く軍関係の予算を減らすことが難しいとヴィクトーリアさんが嘆いているそうなの。
しかも、トップにいる皇帝が、『強い帝国』に拘っていて軍関係費を減らすのに拒絶反応を示すみたい。あの皇帝って如何にも血の気が多そうだものね…。
そうなのね、帝国は国としてスラムや孤児の問題に取り組むつもりはないんだ、少なくても皇帝やその取り巻きは…。
うん、ミルトさん、良くわかったよ。じゃあ、…。
聞けば昨日の晩から何も食べていないらしい、あいつらに捕まってから一日一食しか食べさせてもらえなかったそうだ。その一食すらあいつらの機嫌が悪いと当たらなかったと言う。
こんな小さな子にひもじい思いさせるなんて本当に許せない…。
寮へ帰ってもまだ夕食には早いので、フェイさんに頼んで中央広場に出ている屋台からヴィーナヴァルト名物の揚げ鳥を買ってきてもらった。
「ううっ、美味しいよー。リリ、こんな美味しいもの食べたの生まれて初めて。
これ全部食べちゃっていいの?」
うん、気に入ってもらえてよかったよ、確かに王都の揚げ鳥はどこの屋台で買っても美味しいよね。でも、泣きながら食べるのはやめて、こっちまで切なくなるから。
「ええ、全部食べていいのよ。
誰も取らないから、落ち着いて食べなさい。」
泣きながら揚げ鳥を頬張るリリちゃんに、ミルトさんがなんともいえない顔をして言った。
たぶん、王都では一般の市民が気軽に買っている揚げ鳥を生まれて初めてと言われてリアクションに困ったのだと思う。
でも、ハンナちゃんのときも似たようなものだったよ。
王族のミルトさんにはスラムにいる孤児の生活は想像もできないのだと思う。
いや、ミルトさんは孤児院なんかも率先して慰問をしているから、孤児といえばこの国の孤児を思い浮かべるのだろう。
私もこの冬、風邪の治療で初めて孤児院に行ったけどすごく清潔で、孤児達の栄養状態も良かったしね。
ミルトさんは、この国と帝国の孤児の境遇の違いに驚いているのかもしれない。
リリちゃんはお腹がいっぱいになるとホッとしたのか寝てしまった。
きっとすごく疲れていたんだね。
**********
「可哀想に、よっぽど緊張していたのね。
安心したら疲れがどっと出たみたいよ、これじゃあ明日の朝まで起きそうもないわね。」
ミルトさんがソファーで寝ているリリちゃんの頭を撫でながら言った。
「ねえ、ミルトさん、『黒の使徒』の連中って何でこんな酷いことが出来るのかな。
去年に夏にも思ったのだけど『黒の使徒』の連中ってスラムの人を消耗品扱いしているんだよ。
スラムの人ならいくら使い潰しても良い様な事言っているの、誰だって好きでスラムに住んでいる訳ではないのに。
人を人と思っていないの、今回も相手が子供ならこちらが警戒しないと思って、子供を暗殺に使おうと思ったのでしょう。
わたしが『色なし』なので、わざわざ同じ『色なし』のリリちゃんを選んだのだと思う。その方がより警戒が緩むと考えたから。
リリちゃんはたとえわたしの殺害に成功しても絶対に逃げられなかったよね。あんなに足が遅いのだもの。
あの二人、リリちゃんがわたしを刺すのを見届けたらリリちゃんを放置して姿を消すつもりだったのだと思う。
本当に使い捨てにするつもりでリリちゃんをスラムから拉致してきたんだよ。酷いことするよね…。」
わたしが、『黒の使徒』のやることに憤っていると、ミルトさんが言う。
「そうね、ターニャちゃんの言う通りだけど、帝国ではそんな酷いことをしても許されるような風潮になっているのだと思う。
たぶん、スラムの住人達が同じ街のスラム以外に住む人達と衝突して煙たがられているのだと思うわ。
まずはスラムそのものを何とかしないと『黒の使徒』のように考える人は後を絶たないと思うわ。」
ミルトさんは言う。
スラムの住人、特に、子供の頃にスラムに捨てられたような孤児は読み書きが全くできないケースが多く、就業機会が限られるそうだ。
しかもお金が稼げない小さなときから食べ物に窮する事から、盗みに手を染めたりすることも多く、成長するに伴いそれがエスカレートし徒党を組んで追い剥ぎや強盗のようなことを者も現れるという。
そうなってしまうと、スラムの外に住む人はスラムの住人を嫌悪するようになり、いなくなって欲しいと思うようになるのだと。
そういう人の意識につけ込んで『黒の使徒』が人道に反するようなことを平気でするのであろうと。
「あのね、ターニャちゃん。
スラムのような場所を放置するのは社会的に大きな損失なの。
もしかしたら、有能な人材かもしれないのに、教育や職業訓練を受けられないために人材が腐ってしまうかもしれないでしょう。
この国にはスラムはないことになっているわ。
実際には行政の目が届かない場所が有って存在するかもしれないけど、国は無くすように努めているの。
たとえば、孤児に関してはこの国の王祖様が孤児だったということもあって、孤児院を充実させて孤児達にも義務教育をきちんと受けさせているでしょう。
それに、義務教育の後に職業訓練を施すように孤児院の中に施設を設けているし、優秀な子には奨学金を設けて上の教育が受けられるようにもしているの。
子供以外にも、怪我や病気で働けなくなった人や途中で職を失った人への支援をすることでスラムが生まれないようにこの国は努力しているのよ。」
帝国では長らく戦争をしていたため、国家予算の多くを軍関係費が占めており、孤児院を始めとするスラムへの対策に全くというくらい予算が付いていないみたい。
ヴィクトーリアさんやハイジさん、それにケントニス皇太子は軍事予算を減らして、スラムの対策などに予算を回すように主張しているとミルトさんは聞いているらしい。
しかし、ずっと戦争をしてきた帝国では軍閥の力が強く軍関係の予算を減らすことが難しいとヴィクトーリアさんが嘆いているそうなの。
しかも、トップにいる皇帝が、『強い帝国』に拘っていて軍関係費を減らすのに拒絶反応を示すみたい。あの皇帝って如何にも血の気が多そうだものね…。
そうなのね、帝国は国としてスラムや孤児の問題に取り組むつもりはないんだ、少なくても皇帝やその取り巻きは…。
うん、ミルトさん、良くわかったよ。じゃあ、…。
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