精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第14章 四度目の春、帝国は

第365話 職場体験ということで…

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 さて、わたし達は今王立学園の初等部四年生なのだけど、特別クラスは飛び級で進んでいて現在の授業内容は中等部の二、三年生の内容になっているの。

 何が言いたいかというと中等部の三年生は進路を決める関係で職場体験という授業があるの。
 希望する職場に二週間お邪魔して仕事を体験させてもらうの、本来三歳年上の生徒達向けの授業なのだけど、中等部三年までの内容を全て履修することになっているので仕方がない。


     **********


 という訳で、現在、わたしは国産の大型帆船の二番船『フリーデン号』の甲板にいる。
 わたしの職場体験先はテーテュス貿易商会、その名の通りテーテュスさんの経営する商会だ。

 一月ほど前のこと、ミルトさんから職場体験にどうかと話があったの。
 それは、ポルト公爵が国産の大型帆船の二番船のテスト航海をテーテュスさんに依頼したから、テスト航海に便乗したらどうかということだった。

 ミルトさんは覚えていたみたい、わたしが帝国の西部地方の大きな町を『黒の使徒』から離反させたいと言ったことを。

 フリーデン号の試験航海の目的地は、帝国西部地方最大の港町ハンデルスハーフェン。
 この港町は、『黒の使徒』傘下のシュバーツアポステル商会が大きな支店を構えて交易の大部分を担っているそうだ。

 今回の試験航海に乗船しているのは、テーテュスさんとそのクルーの他に、わたし、ミルトさんの使者としてリタさん、ポルト公爵の使者としてエフォートさんが乗っているのだけど、もう一人帝国で交易を手広く手がけているデニスさんが同行している。

 そう、帝国側の取引相手にデニスさんを噛ませたので、実際に船の安全性を確認してもらうのだって。安心して取引が出来るように。
 そして、今回の試験航海には実際に、デニスさんの商会に引き取ってもらう小麦とライスを大量に積んでいるの。
 実際の輸送能力をデニスさんに確認してもらうのも試験航海の目的なんだって。
 この大陸にある従来の帆船の何十倍もの穀物を積載して運ぶのだから、実際に見てみなければデニスさんもにわかには信じられなかったみたい。


「これは、聖女様ではないですか、お久し振りです。
 昨年の夏に聖女様に助言いただいた通り、ミルト様のところへ伺って協力関係を結ばせていただきました。
 これもひとえに聖女様のおかげです。
 しかし、本当にこんな巨大な船で穀物を大量に輸送する日が来るとは思いませんでしたよ。
 この船は凄いですな、こんなに早く航行しているのに揺れが少なくていいです。」

 甲板で海を眺めているとデニスさんが声をかけてくれた。だから、聖女様はやめてって……。

「本当に凄い船だよね、こんな経験が出来るなんてターニャちゃんにくっついてきて良かった。」

 なんて言っているお調子者が一人、忘れていた……。


     **********


 今回の職場体験について、お昼休みにミーナちゃんとフローラちゃんの三人で何をやるのか話していた時にちゃっかり聞いている子がいたの。
 わたしが試験航海で帝国の港町に行く予定だと聞いて、くっついてくるつもりになったらしい。

 この職場体験は生徒から希望を出させて、学園の方で生徒が希望する先に依頼してくれる形を取っている。
 この子、ルーナちゃんは、大胆にも希望を書く用紙に『ターニャちゃんと一緒のところ』と書いたらしい。
 それを通してしまう担任もどうかと思うが、それを受けて学園はテーテュスさんの商会へ生徒二人を受け入れて欲しいとお願いしたみたい。
 一方のテーテュスさんは、細かいことを気にしないから、いつもわたしの周りにいる誰かだと思って希望を受け入れてしまったらしいの。

 学園で担任の先生から受け入れ先の公表があったときに、ルーナちゃんの名前がわたしと一緒にあったからビックリしたよ。

「えへへ、ターニャちゃんよろしくね。船の旅、楽しみだな~。」

 って能天気に笑うルーナちゃんを見て一瞬クラッとしたよ……。

 ということでルーナちゃんが同行することになったの。

 ちなみに、ミーナちゃんは精霊神殿にマリアさんの手伝いに行っていて、フローラちゃんは王様の仕事を手伝いに行っている。
 ミーナちゃんは将来治癒術師になりたいということでマリアさんの手伝いを希望したのだけど、フローラちゃんの場合は選択の余地がなかったみたい。まあ、女王になることが決まっているものね。


 今回の試験航海は十五日間の日程を計画しているの。
 片道五日の航海で、間の五日間で積荷の荷降ろしや代金の授受が円滑に出来るかを試すのだって。
 わたしはこの五日の間にシュバーツアポステル商会の連中を釣り上げらればと考えているのだけどね。
 
 なんといっても、シュバーツアポステル商会が拠点としている港町でそれを無視して大きな商いを始めようというのだから絶対に妨害が入ると思うのよね。
 シュバーツアポステル商会が営業妨害をしてきたときが此方にとって最大のチャンスだからね。
 ルーイヒハーフェンであったことを再現して見せようと思っているんだ。

 でもね……、わたしがテーテュスさんやリタさんとハンデルスハーフェンに滞在する五日間で『黒の使徒』の勢力を駆逐しようと物騒なことを考えているのに。

「すごい!このベッド、わたしが家で使っているベッドよりふかふか。
 なんか、王都の一流ホテルに泊まっているいるような気分だよ!」

 なんて、のんきなことを言っている少女が一人ついて来てしまった。
 ルーナちゃん大丈夫かな、わたし達と一緒にいて厄介ごとに巻き込まれなければいいのだけど。


     **********


 さて、わたしの目的とするところは何にせよ、名目は職場体験である。
 五日間の航海の間、操船の様子を見学させてもらったり、船の仕組みを教えてもらったりした。

 その中には王国と帝国の交易についての説明もあった。
 現状の両国間の交易、特に深刻な食料不足に悩む帝国との穀物の流れについて。

 現在王国から帝国に輸出されている穀物の殆んどは小麦だそうだ。
 両国とも穀物を大量に輸送できるだけの船を作ることができなかったため、輸送の大部分は瘴気の森を横切る陸路に頼っているみたい。

 また穀物取引の中心は、帝国政府による穀物の買付けらしい。
 この帝国政府により買い付けられた穀物は王国の隊商により帝都まで運ばれるみたい。
 そして、一旦帝都に集められた穀物が各地方へ送られるのだけど、ここに問題があるそうだ。

 帝国政府は帝都で王国から仕入れた価格に王国から帝国までの輸送料を上乗せした形で商人に販売するらしい。
 この時点では帝国政府は全く利益を得ずに商人に卸している事から商人は相当安価で仕入れることが出来るそうだ。
 食料不足にあえぐ民衆に少しでも安く食べ物が届くようにとの配慮らしい。

 ところが、そんな配慮をぶち壊しにしているのが、帝国政府から払い下げを受ける商人。
 実は、シュバーツアポステル商会の独占状態なんだって、こいつら払い下げを担当する役人にバックマージンを渡したり、多額の中抜きをしたりするものだから、末端に辿り着くときには政府の払い下げ価格の四、五倍に跳ね上がっているらしい。
 このため、貧しい人たちまで穀物が行き渡らないんだって。

 また、量は少ないのだけど、国を通さず商人が独自に王国で買い付け帝国へ持ち込むものもある。デニスさんが今までやってきたことだね。
 この場合、穀物そのものの仕入れ値は帝国政府が買い付ける場合と大差がないのだけど、自分で隊商を組まねばならず、その分の費用が大きいのだって。
 結局、帝国政府の払い下げ価格に比較して、デニスさんが販売している価格は三倍程度になっているらしい。
 これでも、デニスさんはなるべく多くの人に行き渡るように、ギリギリ利益の出る水準に価格を抑えているらしい。

 そこで、今回の交易計画が出てきたわけ。
 販売する方は王国政府だけど、買い付ける側はデニスさんの商会になるの。
 帝国政府を挟まないことでシュバーツアポステル商会の介入を防ぐの。
 穀物そのものの販売価格は帝国政府に販売する価格と同じ、そこにハンデルスハーフェンまでの海上輸送費を加えた価格で、ハンデルスハーフェンで売り渡すらしい。

 どういうことか?
 デニスさんはハンデルスハーフェンまでの輸送リスクは全く負わないということ。
 自分で隊商を組んで瘴気の森を横切っていたときには魔獣に襲われて隊商が全滅するリスクを背負って輸送していたからね。
 そのため、多くの護衛を雇うことになり輸送コストの増大になっていたの。

 今回、デニスさんはハンデルスハーフェンの港で王国政府から買い付ける形なるため、輸送リスクは全く背負っていないの。
 しかも、王国政府側も、テーテュスさんの太鼓判もあって最小の海難リスク分しか実費の運送費に上乗せしていないらしいの。

 今回の取引では、穀物そのものの原価に上乗せされるのは、往復十日分の船の運用コストと船の減価償却分、それに海難リスク分だそうだ。
 それで、従来陸路を使った場合の隊商数回分の穀物が運べるの。
 陸路では片道四十日くらい掛かっていたからね。

 最終的にどうかというと、ハンデルスハーフェンでデニスさんが仕入れる価格は、いままで帝国政府がシュバーツアポステル商会に払い下げていた価格を若干下回るんだって。
 凄いコストダウンだ。

 ただし、ミルトさんから注文が付いたの。
 デニスさんが王国政府から仕入れる穀物については、小売価格がデニスさんの仕入原価の倍以上にならないことだって。
 デニスさんとしてはかなり厳しい注文だと思ったらしい、相当の薄利多売をしないと利益が出ないから。

 そのためには、王国からハンデルスハーフェンの港まで安定的に商品が届かないとならない。
 それを自分の目で確かめるために、今回試験航海に同乗したのだって。

 デニスさんは、今回試験航海に同乗して、船の安定性と積載量からミルトさんとの取引に勝算を得たみたい。

 今回の取引が継続的に実施されるようになると帝国の民衆は、従来の半額以下で小麦を手にすることが出来る。
 さて、そのとき、シュバーツアポステル商会はどうするのかな?どう出てくるか楽しみだよ。



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