上 下
5 / 71

アリスハートの記憶

しおりを挟む
 レイトン家に着いてから私はまた寝てしまった。パパに抱っこされながらどこかの部屋に入ったまではなんとなく覚えている。柔らかくてふわふわの上に乗った気がする。

 「さあ。今日からお前さんはこの目の持ち主になるんじゃよ?」

 「や、やめて......誰か助けて!」

 「麻酔は必要ないな?痛みの対価に大きな力を手に入れるのじゃよ?」

 「い、い、いや!いや⁉︎痛くしないで!」

 ブシュッ

 「いやあ⁉︎痛い!痛いよおおおお⁉︎目が目が!」

 「おっと?そんなに叫ばなくてもいよじゃろ?」

 「うぅ......」

 「じゃあくり抜くぞ」

 グチャ

 「あ、ああああああああ⁉︎」

 痛い。怖い。苦しい。さっきまで見えていた左目が見えない。視界が赤く染まる。誰でもいいから助けてよ‼︎

 「はっ‼︎」

 「アリスハート⁇」

 「はぁはぁ......」

 「悪夢でも見たのか?」

 「パパ⁇」

 「うなされていたぞ?」

 「うぅ......うわあああん!」

 ギュウウウウ

 「わっ!そんなに怖かったのか?泣くほど怖い夢だったのか?」

 「......うん。アリスのお目目がなくなる夢だったの」

 「......」

 「痛くて怖くて目の前が真っ赤に染まる夢。怖いよ」

 「アリスハート」

 「アリスって呼んでよ。その名前長いもん」

 「......そうか。アリス。もう平気だ。俺が守ってやる」

 「うん......うん」

 「もう一度眠ればきっといい夢が見られる」

 「わかった......」

 「おやすみ」

 「おやすみなさい」

 「ねぇ?さっきの夢を見て何にも感じなかったの?」

 「えっ?アリス......ハート⁇」

 「私の記憶を見たのになにも感じないのね?」

 「あ、アリスハートの記憶⁉︎じゃあなんであんなに痛くて苦しかったの?」

 「一瞬だけどあんたは私と同化したのよ?」

 「同化⁇」

 「そう。私の苦しみを少しは知って欲しかったのよ」

 「アリスハートは今でもその痛みを感じる?」

 「えぇ。今でもあの時のことは鮮明に覚えているわ。なのになぜあんたは苦しまない?死んで魂だけになったからせっかく過去の私に憑依されたのに......」

 「じゃあ引き剥がすことも可能ってことなの?」

 「それは無理」

 「どうして⁇」

 「だって現時点での過去の私の魂はとっくに消滅しているのよ?なのにどうやってあんたを引き剥がすの?」

 「......」

 「死ぬ時ねぇ、これで終われるって思った。何もかも終わってなにも感じない世界で痛みすらない世界で生まれ変われるって思ってた。なのにこの目のせいで......この世界に囚われたまま。だからあんたに全てのものを不幸と絶望にしてもらうの」

 「そんなこと‼︎」

 「させないとでも言いたいわけ?主人公気取り?気持ち悪いからやめたら?」

 「なにがあっても人の不幸を願うのは自分も不幸になるだけだよ!」
  
 「だったら死んだ私はこれ以上不幸になるとでも思ってるの?」

 「それ......は」

 「もういいや。どうせ死ぬんだから。私の同じ結末を進むしかないのだから‼︎」

 そう言って私の肩をガシッと掴んできたアリスハートを見て彼女はなにも信じられなくなりこの世界を......人間を生きている者たちが憎いのだとわかった。少しでもその憎しみを和らげたい。そう思った。

しおりを挟む

処理中です...