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1-3 冒険者になる
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「何とか間に合ったか」
記憶を頼りに冒険者ギルドまで辿り着くことができた。
数年前と何も変わらない外観をしている。
懐かしい。
「ここにくるのは二度目か」
勇者パーティの登録で一度きたことがある。
あの頃はこれから始まる冒険に胸を躍らせたな。
少し年季の入ったドアを開けてみると、そこは以前と変わらない懐かしい内装がそのままのこっていた。
大量に積まれた酒樽、揺れるランタン、大量のクエストが貼られたボード、歩けばギシギシと音のなる床板。
変わったところといえば、テーブルを囲んでいるおっちゃんや、クエスト周りでうろついていた冒険者の数がものすごく減っていて、かなり寂しいことになっていた。
そのまま奥のカウンターまで歩く。
「すみません、冒険者登録をしたいんですが」
「はい、ありがとうございます!」
元気よく答えてくれる受付嬢ルシアさんはそのままだ。
少しほっとした。
笑顔が絶えない看板の受付だと冒険者の間で密かに人気だった。
「身分証と、登録証のための500ペルをお預かりします!」
「はい」
「あら? ロイズさん、以前勇者さまのパーティでご活躍をされていた経歴がありますが……」
「あ、それは……」
「勇者パーティは解散したんだろぉ?」
俺が回答に困った時、すぐ後ろから声が聞こえた。
「なぁにいちゃん、あんた勇者パーティの人間だったんだねえ」
「あ、あんたはさっきの!」
スリの少年から全財産を取り返してくれた酒瓶の女性がぬっと現れ、がしりと俺の肩を掴んだ。
で、でかい。あと酒臭い。
「すごいじゃないか、ヒック、ルシアちゃぁん、この子すぐにAランクとかにならないのかい?」
「え、いやあの…」
「うーん、そうですね。戦績によってはC級B級からもありえないわけではありません。ですが戦闘スキルはあまり高くはありませんね。ご希望のご職業はなんですか?」
二人の視線が刺さる。
答えづらい。かといって俺は戦闘はからっきしだ。
「……り、料理人、です」
「料理人?」
呆気に取られる酒瓶女とルシアさん。
最悪だ。来なければよかった。
「何か他に特別なスキルなどは……」
「いえ……恩恵は料理スキルだけ……」
「………」
ルシアさんの目が泳いでいる。明らかに困っている。
別に最低ランクでも構わなかったが、この酒瓶女のせいで空気が一気に重くなった。
「……ぶふっ…あっははは!」
と思ったら酒女は急に笑い出した。
何がそんなに面白いんだ。
料理人が勇者パーティにいたらおかしいっていうのか。
「……悪かったな。たかが料理人で」
「ひー、いやいや……逆さ」
「逆?」
「ヒック、確かに、料理人じゃあ冒険者としてのランク付け、戦績を見るのは難しい。だけどこのご時世、ヒック、料理人はかなり貴重なんだよねぇ」
「料理人が貴重?」
そんな話は聞いたことがない。
俺たち料理恩恵持ちは早々に家族から何も期待されず空気のように生きてきた。
働いても安月給、知名度も底の底。
第一、料理店ならあちこちに存在しているし、料理人がパーティにいないのは普通だ。
「勇者サマがたはしらねぇかもしれねぇが、いま帝国が王国とバチバチしててなぁ、ヒック、料理スキルを持った人間がこぞって引き抜かれているのさ。んで料理スキルを持ってない奴らが料理店にいるもんで、ヒック、国民は『バフ』も『回復』ももらえないってわけよ」
「帝国との仲は友好だったと思うけど……って、スキルがない……?」
料理スキルがないと料理人にはなれない。
ただのご飯が出来上がるだけだ。
そこで思い出したのは先程の料理店でのご飯だ。
何も変わった気がしなかったのはそのせいか。
「つまり、冒険者、ひいてはこの国全体の人間はみぃんな料理人を探しているわけよぉ、ヒック」
酒を煽りながら話すせいでクサイ。
けれど納得した。
人々の顔が暗かった理由も、犯罪が増えた理由も、帝国との戦争が原因だったんだな。
「……貴重なのはわかった。でも、俺はもうパーティとかそういうのはいらないんだ。ただ少し事情があって、生活に困らないよう金を貯めたいから冒険者になりたいだけさ」
「ほぉ~……そりゃ残念。ヒック、アタシのパーティに欲しかったんだがねぇ」
「そもそもあんたは何の職業なんだよ」
「アタシはハンマーさ、みてわかるだろう?」
後ろに装備している自分の身長よりデカいハンマーを見せつけてくる。
確かに身長は高いし、デカくて重いハンマーとは相性が良さそうだ。
恩恵は力ってとこか。
「そもそもドラカさんはSランクなので、Eランクのロイズさんとは組めませんよ?」
「え、Sランク?!」
「ありゃ~そうなんだねぇ」
Sは最高ランクだ。
ということはこの酒女、かなりの実力者なのか?
全く強そうではないけど…。
まあソロが決まっている俺には関係がないな。
「えーと、とりあえず登録だけお願いします」
「あ、そうでしたね。登録証はこちらです!」
登録証を受け取った俺は、500ペル払い、引き留めようとしてくる酒女に別れを告げてギルドを出る。
残り3520ペル。
記憶を頼りに冒険者ギルドまで辿り着くことができた。
数年前と何も変わらない外観をしている。
懐かしい。
「ここにくるのは二度目か」
勇者パーティの登録で一度きたことがある。
あの頃はこれから始まる冒険に胸を躍らせたな。
少し年季の入ったドアを開けてみると、そこは以前と変わらない懐かしい内装がそのままのこっていた。
大量に積まれた酒樽、揺れるランタン、大量のクエストが貼られたボード、歩けばギシギシと音のなる床板。
変わったところといえば、テーブルを囲んでいるおっちゃんや、クエスト周りでうろついていた冒険者の数がものすごく減っていて、かなり寂しいことになっていた。
そのまま奥のカウンターまで歩く。
「すみません、冒険者登録をしたいんですが」
「はい、ありがとうございます!」
元気よく答えてくれる受付嬢ルシアさんはそのままだ。
少しほっとした。
笑顔が絶えない看板の受付だと冒険者の間で密かに人気だった。
「身分証と、登録証のための500ペルをお預かりします!」
「はい」
「あら? ロイズさん、以前勇者さまのパーティでご活躍をされていた経歴がありますが……」
「あ、それは……」
「勇者パーティは解散したんだろぉ?」
俺が回答に困った時、すぐ後ろから声が聞こえた。
「なぁにいちゃん、あんた勇者パーティの人間だったんだねえ」
「あ、あんたはさっきの!」
スリの少年から全財産を取り返してくれた酒瓶の女性がぬっと現れ、がしりと俺の肩を掴んだ。
で、でかい。あと酒臭い。
「すごいじゃないか、ヒック、ルシアちゃぁん、この子すぐにAランクとかにならないのかい?」
「え、いやあの…」
「うーん、そうですね。戦績によってはC級B級からもありえないわけではありません。ですが戦闘スキルはあまり高くはありませんね。ご希望のご職業はなんですか?」
二人の視線が刺さる。
答えづらい。かといって俺は戦闘はからっきしだ。
「……り、料理人、です」
「料理人?」
呆気に取られる酒瓶女とルシアさん。
最悪だ。来なければよかった。
「何か他に特別なスキルなどは……」
「いえ……恩恵は料理スキルだけ……」
「………」
ルシアさんの目が泳いでいる。明らかに困っている。
別に最低ランクでも構わなかったが、この酒瓶女のせいで空気が一気に重くなった。
「……ぶふっ…あっははは!」
と思ったら酒女は急に笑い出した。
何がそんなに面白いんだ。
料理人が勇者パーティにいたらおかしいっていうのか。
「……悪かったな。たかが料理人で」
「ひー、いやいや……逆さ」
「逆?」
「ヒック、確かに、料理人じゃあ冒険者としてのランク付け、戦績を見るのは難しい。だけどこのご時世、ヒック、料理人はかなり貴重なんだよねぇ」
「料理人が貴重?」
そんな話は聞いたことがない。
俺たち料理恩恵持ちは早々に家族から何も期待されず空気のように生きてきた。
働いても安月給、知名度も底の底。
第一、料理店ならあちこちに存在しているし、料理人がパーティにいないのは普通だ。
「勇者サマがたはしらねぇかもしれねぇが、いま帝国が王国とバチバチしててなぁ、ヒック、料理スキルを持った人間がこぞって引き抜かれているのさ。んで料理スキルを持ってない奴らが料理店にいるもんで、ヒック、国民は『バフ』も『回復』ももらえないってわけよ」
「帝国との仲は友好だったと思うけど……って、スキルがない……?」
料理スキルがないと料理人にはなれない。
ただのご飯が出来上がるだけだ。
そこで思い出したのは先程の料理店でのご飯だ。
何も変わった気がしなかったのはそのせいか。
「つまり、冒険者、ひいてはこの国全体の人間はみぃんな料理人を探しているわけよぉ、ヒック」
酒を煽りながら話すせいでクサイ。
けれど納得した。
人々の顔が暗かった理由も、犯罪が増えた理由も、帝国との戦争が原因だったんだな。
「……貴重なのはわかった。でも、俺はもうパーティとかそういうのはいらないんだ。ただ少し事情があって、生活に困らないよう金を貯めたいから冒険者になりたいだけさ」
「ほぉ~……そりゃ残念。ヒック、アタシのパーティに欲しかったんだがねぇ」
「そもそもあんたは何の職業なんだよ」
「アタシはハンマーさ、みてわかるだろう?」
後ろに装備している自分の身長よりデカいハンマーを見せつけてくる。
確かに身長は高いし、デカくて重いハンマーとは相性が良さそうだ。
恩恵は力ってとこか。
「そもそもドラカさんはSランクなので、Eランクのロイズさんとは組めませんよ?」
「え、Sランク?!」
「ありゃ~そうなんだねぇ」
Sは最高ランクだ。
ということはこの酒女、かなりの実力者なのか?
全く強そうではないけど…。
まあソロが決まっている俺には関係がないな。
「えーと、とりあえず登録だけお願いします」
「あ、そうでしたね。登録証はこちらです!」
登録証を受け取った俺は、500ペル払い、引き留めようとしてくる酒女に別れを告げてギルドを出る。
残り3520ペル。
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