隠居賢者の子育て余生

具体的な幽霊 

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第三話 人生のシナリオは、生まれた時に渡される

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 「アイラ、この子らに何か食事を与えたい。用意してくれるかい」

   私は、隣にいるであろう透明な彼女にそう言う。
   やるべきことが次々と頭に浮かんでくる。懐かしい感覚だ。なにせ引退して以来、良くも悪くも平静な日々を送っていたので、やるべき事など食料の調達くらいなものだったのだから。
   
   「君達、名前は?」

   まずは、と、名前を聞いてみる。

   「名前は……俺がが01-3512で、この子は01-3513です」

   聞き方を間違えてしまった。この子らが今言ったのは、奴隷の首輪に書かれている識別番号だ。上二桁は管理国を示し、下四桁は個体番号となっている。01というのはザインナイツ王国を示す数字なので、この子らは王国の所有物という事が分かる。
   奴隷は、国によって管理されている。
   食うに困ったため、住んでいた国が滅ぼされたため、一晩の酒代欲しさに親に売られたため……上げれば切りがない致し方ない理由のために、奴隷に身を落とした人間は少なくないが、多くも無いのだ。特に昨今は戦争がめったに起きず、敗戦奴隷を獲得する機会が減ったこともあり、鉱山や大規模農園での人手不足が騒がれて出している。
   そのため、奴隷の管理を国で行い、無意味な奴隷の消費をしなくて済むように監視しているのだ。

   「首輪についている番号では無く、両親から授かった名前だよ」

   かつて宰相だった頃に行った政策によって、奴隷達に番号を割り振った影響で、名前が失われているとは思わなかった。管理する側としては、番号というのは何かと便利なのだが、名前がそのまま番号というのは悲しい。名前とは、命の次に親から貰う一生ものの大切な宝なのだから。
   
   「……そんなものありません。僕達は奴隷になるために生まれてきたから」

   私は、その一言で全てを察した。
   繁殖奴隷―――奴隷と奴隷を交配させて生ませた、奴隷になるために生まれる子供。この子らは、まさに奴隷になる為に、この世に生を受けたのだ。
   国際法上は、人間は元々平等に天から創り出されたものなので、奴隷の子供だからといって、むやみに奴隷にしてはならず、仮に奴隷同士の間に子供が産まれたら、孤児院で人間として育てる事になっている。
   本当はそんな人道的な理由でなく、奴隷を増やし過ぎると反乱の恐れがあることと、今持っている奴隷一体あたりの価値が下がることを嫌った各国貴族どものために創られた法律なのだが……まあとにかく、法律で奴隷を家畜のように殖やす事は禁止されている。
   だが、実際には使い潰せる安い労働力を得るために、目の前にいるこの子達のように名前もない生まれながらの奴隷が数多く存在しており、それをどの国も事実上黙認している。
  一部貴族からは非人道行為として非難されているが、何よりも資本家達がそれを望んでいる。だから、繁殖奴隷と勘付かれていようとも、首輪さえ付ければ正式な奴隷として認められてしまう。

 「そうか、わかった。取り敢えず中に入りなさい」

  かけるべき適切な言葉が見つからず、私はこの子らの無垢な告白を心に留めることしかできなかった。
  私の心中を知る由もない子供達は、おずおずと私の言葉に従い家の中に入ってきた。少し体が震えているのが見て取れる。やはり、そう簡単に人間への不信感は拭えないらしい。
  こればかりは慣れるまで待つしかない。心の傷に効く薬も魔法もないのだから。

   
  
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