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飛んで火に入る夏の虫
しおりを挟む「あー、腹減ったなー」
「まだ六時ですよ?」
「男子高校生は常に腹減ってるよ」
「僕は減ってませんけどね」
「お前が小食すぎるだけだろー」
まあ、小食であることはたしかに否めないが。
けど、それにしたって黒柳が普通みたいな言い方はやめてほしい。一食でハンバーガー五つ食べる奴が平均なわけないだろ。
「そんなに食べてよく太りませんね……」
「まあ、運動してるからな」
黒柳は中学の時から運動神経がよくて、中学ではバスケ部のキャプテンをやっていた。
今は生徒会に所属しているから部活はできないらしいが、たまに運動部の助っ人に呼ばれて練習試合に出たりしている。
「運動するのはいいことです。……でも、仕事もしっかりしてくださいよ?」
にこり、と微笑みを向けると、黒柳がサッと目を逸らす。
おい、こっち見ろ生徒会書記。書類提出がいつも期限ギリギリな生徒会書記。
「まだちょっとな、うん、慣れてないんだよ!だって、まだたったの一ヶ月しか経ってないし……」
「たった一ヶ月で『ギリギリにしかやらない』というイメージを持たれてしまっていることを、反省してください」
「すみません……」
うん、素直でよろしい。
ーーーーー
食堂に着くと、それなりに人がいて、楽しげな話し声が響いていた。
といっても、男子高校生にしては静かな方だ。やはり皆、名家の子息らしく食事のマナーが良いから、あまり喋ったりはしないらしい。
「意外と、この時間でも人はいるんですね」
男子高校生はそれほどまでに食欲旺盛なのだろうか。
黒柳がおかしいと思っていたが、みんなお腹が空くのかもしれない。
「半分は部活前に何か腹に入れときたいって奴らじゃないか?あとは、放課後だから喋りに集まってるやつらとか」
「喋りたいなら談話室に行けばいいのでは?」
「あんな上品な部屋で騒げるかよー」
たしかに、談話室は内装がやたらと豪華で落ち着かない。
ソファも高級そうで、俺なんかは座るのもちょっと躊躇ってしまうくらいだ。
「……ん?ということは、ちゃんと夕飯を食べに来ている人は、ほとんどいないということですか?」
「そういうことだな」
「…………やっぱり、こんな時間にお腹を空かしている黒柳くんが異常なんじゃないですか」
「……あ、佐倉、あの席空いてる!」
あからさまに無視をするんじゃない。
……まあ、混んでいたら目立ちそうで嫌だから、この少し早めの時間を選んでくれたのはいいんだけど。
「あの席……ってどこですか?」
(結構どこも空いてるけど?)
「ほら、こっちこっち!」
またぐいぐいと腕を引かれて、諦めの気持ちでそのまま引っ張られていく。
力で黒柳に敵うわけがないので、抵抗するだけ無駄だ。
ていうか歩くのが速い。俺の足じゃ間に合わない速さで歩かないで欲しい。
着いていくので必死で周りを見ていなかったが、黒柳がある席で、ふと立ち止まった。
「こんばんは、会長」
そして、その言葉が聞こえてきた瞬間、俺は耳を疑った。
「おお、黒柳……って、あれ。伊織じゃねえか、何やってんだ?」
続けて耳に入ってきた声に、思わず現実逃避をしそうになるが、なんとか耐えて微笑みを浮かべた。
「こんばんは……天城先輩、柏木先輩、速水くん」
そこには、そうそうたる生徒会のメンバーが集まっていた。
(なんつーとこに連れてきてくれてんだよ黒柳!!!!!)
死ぬ気で抵抗してでも、逃げた方がよかったかもしれない。
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