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だから彼女を騙した(8)
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馬車に乗り込んだサディアスは、護衛の者に付き添われながらも、不規則な心地よい揺れによって、うとうととし始めた。
神殿は、キンバリーからの寄付金をきちんと食費に当てていた。そしてその一部の金でラティアーナのドレスを仕立てたようだ。
どのようなドレスにするかは仕立て屋に丸投げしたのだろう。予算、デザインなど、そういった内容については、神殿は関与していないようだ。
ラティアーナは寄付金を私的に使っていたわけではない。ドレスを仕立てたのは事実であるが、それもキンバリーの婚約者としてふさわしいようにという、周囲のその気持ちからくるものだった。
それが人を介して、歪んでキンバリーに伝わったに違いない。歪んで伝わった挙句、さらに歪めて解釈をした彼が、ラティアーナを信じられなくなったのだ。
一つのほころびが次第に大きくなり、気がついたときには大きな穴が開いていた。
最初のほころびはなんだったのだろうか――。
馬車が止まり、サディアスははっと目を開ける。
しっかりとした足取りで馬車を降り、向かう先はキンバリーの執務室。
コツ、コツ、コツ、コツとゆっくり扉を叩くと、中から返事があった。
「サディアスです」
「入れ」
サディアスの姿を見た途端、キンバリーは目尻を緩めた。それでもその顔には疲労の色が濃く表れている。
キンバリーはすぐに呼び鈴を鳴らして、侍従を呼びつける。音もなく現れた侍従は、お茶を準備するとすっと姿を消す。
「それで、どうだった? ラティアーナの居場所はわかったのか?」
「いえ。神殿でも把握していないようです。ですが、神殿側もラティアーナ様を聖女として望んでいるようでした。アイニス様は、神殿での竜の世話も渋っているようですからね」
あのようなものを見せられたら、誰だってやりたくないだろう。サディアスだってお断りだ。
「あぁ……まぁ、そうだろうな。あれには、聖女としての自覚も足りない。まして、私の婚約者という自覚もな」
キンバリーはカップに手を伸ばした。その様子を、サディアスはしっかりと見つめている。
兄は痩せた。やつれたとも言う。それはラティアーナがいなくなってからだ。
「神殿としては、やはり聖女は竜の側にいてもらいたいというのが本音のようです。それから、兄上の寄付金ですが……。それによって神殿の食事が改善されていたのも事実です。厨房も確認してきましたし、巫女たちからも話を聞きました」
その言葉を耳にした途端、キンバリーのカップを持つ手がぴくっと震えた。それをサディアスは見逃さなかった。
「金は適切に使われていたということか?」
「少なくとも、それによって食事が改善されたのは事実です。ですが、その金の一部から、ラティアーナ様のドレスが仕立てられたのも事実です。王太子の婚約者として相応しい格好をしてほしいというのが、神殿側の考えだったようでして……」
キンバリーがカップを置いた。カチャリと立てた音が、異様に大きく聞こえた。
「つまり、あのドレスはラティアーナが勝手に仕立てたものではないと?」
「そのようですね。どこかで誤解が生じたのですよ。やはり、ラティアーナ様とお話をされるべきでは?」
「だが、肝心のラティアーナがいない……」
悔しそうに呟いた。
いなくなってからその人物の重要性に気づいたって遅いのに、いなくならないとわからない。あまりにも近くにいすぎて、それが当たり前だと思っていたのだろう。
世の中、当たり前など存在しない。
「ラティアーナの居場所に心当たりは?」
「神殿にいなければ、やはり故郷に戻ったか……」
「だが、ラティアーナに家族はいない。母親は彼女を産んですぐに亡くなったと聞いているし、父親も、ラティアーナがこちらに来てすぐに亡くなったようだ」
「他にラティアーナ様に関係のあるような場所は……」
「……孤児院」
ぽつりとキンバリーがこぼした。
「もしかして、孤児院にいないだろうか。彼女は、子どもたちに好かれていたし。マザーとも仲がよかった」
となれば、ラティアーナが孤児院にいることも十分に考えられる。
「そうそう、兄上。アイニス様のことですが……」
そこでサディアスは話題を変えた。
神殿は、キンバリーからの寄付金をきちんと食費に当てていた。そしてその一部の金でラティアーナのドレスを仕立てたようだ。
どのようなドレスにするかは仕立て屋に丸投げしたのだろう。予算、デザインなど、そういった内容については、神殿は関与していないようだ。
ラティアーナは寄付金を私的に使っていたわけではない。ドレスを仕立てたのは事実であるが、それもキンバリーの婚約者としてふさわしいようにという、周囲のその気持ちからくるものだった。
それが人を介して、歪んでキンバリーに伝わったに違いない。歪んで伝わった挙句、さらに歪めて解釈をした彼が、ラティアーナを信じられなくなったのだ。
一つのほころびが次第に大きくなり、気がついたときには大きな穴が開いていた。
最初のほころびはなんだったのだろうか――。
馬車が止まり、サディアスははっと目を開ける。
しっかりとした足取りで馬車を降り、向かう先はキンバリーの執務室。
コツ、コツ、コツ、コツとゆっくり扉を叩くと、中から返事があった。
「サディアスです」
「入れ」
サディアスの姿を見た途端、キンバリーは目尻を緩めた。それでもその顔には疲労の色が濃く表れている。
キンバリーはすぐに呼び鈴を鳴らして、侍従を呼びつける。音もなく現れた侍従は、お茶を準備するとすっと姿を消す。
「それで、どうだった? ラティアーナの居場所はわかったのか?」
「いえ。神殿でも把握していないようです。ですが、神殿側もラティアーナ様を聖女として望んでいるようでした。アイニス様は、神殿での竜の世話も渋っているようですからね」
あのようなものを見せられたら、誰だってやりたくないだろう。サディアスだってお断りだ。
「あぁ……まぁ、そうだろうな。あれには、聖女としての自覚も足りない。まして、私の婚約者という自覚もな」
キンバリーはカップに手を伸ばした。その様子を、サディアスはしっかりと見つめている。
兄は痩せた。やつれたとも言う。それはラティアーナがいなくなってからだ。
「神殿としては、やはり聖女は竜の側にいてもらいたいというのが本音のようです。それから、兄上の寄付金ですが……。それによって神殿の食事が改善されていたのも事実です。厨房も確認してきましたし、巫女たちからも話を聞きました」
その言葉を耳にした途端、キンバリーのカップを持つ手がぴくっと震えた。それをサディアスは見逃さなかった。
「金は適切に使われていたということか?」
「少なくとも、それによって食事が改善されたのは事実です。ですが、その金の一部から、ラティアーナ様のドレスが仕立てられたのも事実です。王太子の婚約者として相応しい格好をしてほしいというのが、神殿側の考えだったようでして……」
キンバリーがカップを置いた。カチャリと立てた音が、異様に大きく聞こえた。
「つまり、あのドレスはラティアーナが勝手に仕立てたものではないと?」
「そのようですね。どこかで誤解が生じたのですよ。やはり、ラティアーナ様とお話をされるべきでは?」
「だが、肝心のラティアーナがいない……」
悔しそうに呟いた。
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そこでサディアスは話題を変えた。
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